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解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(VII)
― ウサギの診療の基礎(1)―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

1 ウサギの診療に際して
 ペットとして一般に飼育されているウサギは,ウサギ目Lagomorpha,ウサギ科Leporidaeに属するアナウサギOryctolagus cuniculus(1属1種)である.ウサギは,愛玩用を含め,さまざまな目的で古くから飼育されてきた動物であるが,近年に至り,いわゆるエキゾチックアニマルがペットとして普及したのにともない,ウサギもエキゾチックアニマルの一種として位置づけられるようになっている[1, 5].
 ウサギは,食肉目Carnivoraに属する犬や猫とは目(order)のレベルで分かれており,これらの動物とは形態も生理も大きく異なっている.また,こうした違いにもとづき,ウサギの疾病には,犬や猫に認められないものや,あるいは同一の疾患であっても,犬,猫とは異なる病態を示すものが多い.したがって,ウサギの診療に際しては,ウサギの特性や好発疾病を十分に考慮したうえで,それに応じた対応を心がけるべきである.
 ウサギには神経質な個体が多く,動物病院に来院した直後は非常に警戒し,診療台等の上に腹臥して動かないことが多い.特にウサギはわずかの音によってもストレス状態に陥ることがあるため,とりあえずは静寂な環境に置き,ウサギが警戒を解いて動きだした後に,種々の検査を行うとよいだろう.

2 保 定 法
 ウサギの骨は脆弱であり,不適切な保定を行うと,脊椎を骨折することがある.また,診療台の上に置くときは,常に保定した状態にしないと,そこから飛び降り,四肢の骨や脊椎を骨折することもある.
 ウサギを持ち上げるには,片方の手で頸部から胸部にかけての背側,すなわち左右の肩甲骨の間の皮膚を保持し,もう一方の手で後躯を持って体重を支えるようにするのが一般的である(図1).あるいは,診療台の上では,片方の手で耳の基部から頭部を押さえ,このときに手で両眼を被って視界を遮るとともに,反対の手で後躯を保定する(図2).
 このほか,ウサギは背臥位にすると,一時的に動かなくなることが多い.これは,いわゆる“死んだふり”であり,捕食者などに襲われたときなどに示す防御行動の一種であるという[6].
図1 ウサギの持ち上げ方の1例
 図1 ウサギの持ち上げ方の1例 
図2 診療台上におけるウサギの保定法の1例
 図2 診療台上におけるウサギの保定法の1例 

3 採 血 法
 血液を検体とする一般的な検査に供するための採血は,静脈から行うのがふつうである.採血部位は,耳介の静脈のほか,頸静脈や橈側皮静脈,大腿静脈,伏在静脈などとする.
 また,血液ガスの分析を行うためには動脈採血が必要であるが,このためには耳介に分布する動脈を使用する.
 採血量は,体重の1%までであれば問題はない.
 なお,採血に際して確実に保定ができない場合には,鎮静または短時間の麻酔を施すとよい.
(1)耳介の静脈
 耳介の静脈はウサギに特有の採血部位であり,この部位を用いることにより比較的容易に血液を採取することが可能である.耳介の外側部の静脈(後耳介静脈)に対して,耳の基部に向かって23ゲージまたはそれよりも細い注射針を刺入する.実験用のウサギに用いられている保定器に収容して頭部だけを出すようにすれば,確実に保定でき,採血も簡単である(図3)が,こうした器材を使用しない場合には,頭部以外をタオルで包むか,あるいは鎮静または短時間の麻酔を行うほうがよいだろう.
 ただし,ペットとして飼育されているウサギのなかには,耳介が比較的小さな個体も多いため,そうしたウサギでは耳介の静脈からの採血が困難なこともある.
(2)橈側皮静脈
 ウサギを腹臥位に保定したうえで,採血部位よりも近位側を圧迫し,血管を怒張させる.採血部位を剪毛しておくと採血が容易である.なお,採血用の注射針としては,25ゲージ程度の太さのものを使用する.
(3)大腿静脈
 ウサギを側臥位に保定し,採血するほうの後肢(保定時に下側にある後肢)を伸ばす.大腿部の内側を剪毛した後,採血部位の近位を圧迫し,血管を怒張させたうえで,25ゲージ程度の注射針を刺入して採血する.
 また,体サイズが大きなウサギについては,伏在静脈からの採血を行う.
(4)耳介の動脈
 ウサギの耳介の中央部付近には動脈が走行している.ただし,この血管からの採血は,その後に血腫を形成することが多く,場合によっては,その血腫が原因となって耳介が壊死することもある.したがって,この採血は,血液ガス分析等の目的のために動脈血が必要な場合を除き,通常は行うべきではない.
 なお,採血の後は,少なくとも数分間は血管を圧迫し,血腫が形成されないようにする.
図3 実験用ウサギの保定器
 図3 実験用ウサギの保定器 


4 採 尿 法
 ケージ内などに自然に排尿されたものを採取してもよいが,代謝ケージなどに収容しているのでないかぎり,ある程度の量の異物の混入を避けることはできない.そのため,目的によっては,適切に検査を実施できないことがある.
 こうした問題を回避するためには,積極的に尿を採取する必要がある.簡単な方法としては,腹部から膀胱を圧迫して強制的に排尿を行わせ,排泄された尿を容器で受けるとよい.ウサギでは,この方法によって比較的容易に尿を採取できることがある.
 あるいは尿道カテーテルの挿入や膀胱穿刺による採尿法もあるが,ウサギでは一般に困難である.特に尿道カテーテルの挿入は,ウサギの雌雄を問わず,難しいことが多い.

5 糞便採取法
 臨床検査に供する糞便としては,通常は自然に排泄されたものを採取すれば十分である.
 なお,ウサギの糞便には2つのタイプがある.一つは,いわゆる兎糞状を呈し,おもに昼間に排泄されるものであり,もう一つは,軟らかく,粘液に被われて粘稠な性状を示し,おもに夜間に排泄されるもの(盲腸糞)である[3].盲腸糞は,そのウサギによって肛門から直接なめ取られるため,通常は採取が困難である.一般的な検査のためには,昼間に排泄される糞便を供すればよい.


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