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X線CT装置を導入して
長屋好昭†(長屋獣医科病院院長・名古屋市獣医師会会員)
当院にX線CT装置を導入して約9年になり,これまで多数の症例をてがけてきた.多くが近隣の先生方の紹介症例であり,利用していただいた先生方には大変感謝している. 当院で導入した当時,X線CT装置は大学病院を含め全国に数えるほどしか導入されていなかった.導入以前は,勤務医がX線CT検査のために頭部疾患が疑われる動物を連れて東京まで日帰りで往復したこともあった.かなりの強行スケジュールで勤務医も動物もへとへとに疲れ果て,果たしてこれでいいのだろうかと考えた.X線CT検査やMRI検査を人間の病院に依頼したこともあったが,引き受けてくれるところはひとつもなかった.犬や猫を検査したことが分かると病院の信用問題になりかねないと言われ,どうすることもできなかった.犬猫にそこまでの検査が必要かと言われたこともあり,考え方の違いを思い知らされた.しかし動物を家族の一員として大事にする人たちが増えていることから,ますます正確な診断が要求されることは容易に想像でき,近くに動物がX線CT検査を受けられる施設の必要性を強く感じた.それならばと思い,導入を決意した.当初,撮影法の条件設定は煩雑で,読影にも苦労した.このため機器を活用した診療や治療技術のレベルを上げることが課題であった. X線CTの撮影は,様々な方々にたくさんのアドバイスをいただきながら症例を積み重ねていった.人間とは体の大きさがまるで違うため,撮影条件も異なり,条件設定等の撮影方法に加え,撮影の際の麻酔方法についてもマニュアルが確立されるまで当時のスタッフに大変苦労をかけた.読影に関しては,正常がどうでどこが異常なのかというところから始めなければならなかった.X線CT検査の読影および治療については,麻布大学の菅沼常徳先生,日本獣医畜産大学の織間博光先生,日本大学の桑原正人先生にご助言等ご指導いただき,現在に至っている. 治療,特に脳神経外科に関しては,どうしたらいいのだろうかと悩んだ末,医学部の脳神経外科で勉強しようと考えた.なんとか,藤田保健衛生大学医学部脳神経外科にお世話になることができた.脳神経外科の医局には約50人の医師が在籍しており,さらに疾患ごとにチームに分かれており,様々な治療のアドバイスをいただいた.脳神経外科スタッフ専門の講義を長期受講させてもらい,各疾患の理論および最新の治療方法など深く学ぶことができた.脳神経外科セミナーにも参加させてもらった.また,多数の脳神経外科の手術にも参加させていただいた.陽圧の滅菌ルームの中で,厳重な無菌操作の元,手術用顕微鏡を使用しての術者の技術のすばらしさに感激した.スタッフのレベルの高さとチームワークがあって初めて成り立つものだと実感した.医学部の学生であっても手術室に入っての見学はほとんどさせず,神聖とも言うべき場所なのだと感じた.治療も徹底しており,起こりうる事態を考慮して先手先手を打つように治療を行うことはとても重要だと再認識させられた.これらの経験をもとに,時には当院で神経外科医とともに動物の脳神経外科手術を行ったこともあった.その他には,当院まで脳神経外科医に来てもらって院内セミナーを幾度となく行ったため,当院のスタッフのレベルアップができたと思っている. 今までに数多くの症例を診療させていただいたが,近隣の先生方からの紹介だけでなく,飼い主自ら電話をかけてこられることもよくある.それだけX線CT検査を必要とする症例があるということでもある.現在は数多くの病院にX線CT装置,MRI装置が導入され,これから保有する病院はさらに増えることだろう.とてもすばらしいことだと思う.X線CT装置は当院が持っているものとしてではなく,地域として保有しているものと思ってきた.X線CT検査は頭部,脊髄,胸部,腹部,骨などの疾患の診断に有用であるが,検査を必要とする症例に当たった場合,他の一般検査と同様に飼い主にインフォームドコンセントを充分行い,迅速な診断と治療に役立てていただけることを願っている. 最後に,私が今こうして小動物の診察に対して何とか前向きにやってこられたのは,多くの先生方のおかげであると思っている.特に岸上獣医科病院の岸上正義先生には,小動物の診療とはどういうものかという大切なことを教えていただいた.ここにご指導いただいた先生方へ感謝の意を表したい. |
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† 連絡責任者: | 長屋好昭(長屋獣医科病院) 〒468-0024 名古屋市天白区大根町6-1 TEL 052-802-1200 FAX 052-806-0550 |