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馬耳東風

 「俺は三ない主義者だ」と言う友人がいる.つまり,がんにならない,交通事故を起こさない,女房に逃げられないの三ない主義で,それなりに努力しているというのだ.先日仲間の新年会でこの話がでて盛り上がった.
 こんな話もでた.新聞にあったが,男は定年後のことを考えるが,女は未亡人になってからのことを考えるものだそうだ.一説によると,妻に先立たれた夫の寿命は平均3年,夫が先に逝った妻の寿命は平均15年だと.
 そして妻に先立たれた夫は,寂しげに墓参りに来るが,逆に妻の場合は生き生きとして現れると,或るお寺の住職の話もでた.男はみじめなものだと言って別の仲間が話を継ぐ.或る男が女房に言ったそうだ.小金を残してあるから,俺がいなくなったらそれで自由に遊んでくれと.女房が喜んでくれると思いきや,親切に有難いことだが,あまり先になると年をとって遊べなくなるから,せめて私が元気なうちにできるだけ早くそうしてくれと言われたと.更に話が続き,一昨年の全国の婚姻数は72万5千組だが,離婚数は26万7千組で前年より多く,離婚の7割は女性からの申し立てだと.こんな話が続き.男はつらいよと,一同すっかり酔いが冷めてしまった.
 仲間の一人が気分転換に煙草に火をつけた.近頃煙草を吸うのにも肩身が狭くなって困ったとぼやきながら.確かに健康にもよくないし,周りの人に迷惑だし,まして歩き煙草や吸い殻のポイ捨てはいけないが,でもこれを犯罪扱いにして罰金まで取ることはないだろう.嫌煙権があるなら喫煙権もある.ルールよりマナーだと怒る.
 ところで煙草は,アメリカ原産がヨーロッパ経由で,16世紀天正年間(1570年代)長崎に渡来し,たちまち全国に広がり,「男女この草を喫するに熱中す」と古書にもあるが,喫煙のみならず栽培も盛んだったと.しかし,大煙管(きせる)を腰に差した徒党がよく喧嘩をするので慶長14年(1609)幕府は喫煙を禁じ,同17年にはキリシタンと共に禁制とした.喫煙も煙草の栽培も家財没収と厳しく取締ったというから,煙草の規制も今に始まったことではなく昔もあった.そしてこれが元和から寛永年間まで30年ほど続くが,当時国中に飢饉があり,煙草は山野でも栽培でき現金収入にもなり,漢方薬としても有用なのでやがて全国的に解禁となる.元禄年間には関東一円から江戸に送られてくる煙草は736万斤(約4,400トン)で,1人1年に7斤(約4キロ)吸った.そして明治後期には塩と共に国の専売となる.
 その愛煙仲間は言う.女房より古い付き合いなのに,今更縁を切るような薄情なことができるかってんだと.私も愛煙家として同感.有意義な新年会だった.

(寅)