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行政・獣医事

ケタミンの麻薬指定の動きと当面の対応

 ケタミンを有効成分として含有する製剤は,古くから人及び動物医療において麻酔用医薬品として広く適用されてきている.
 今回,厚生労働省においては,ケタミンの濫用による社会的影響の重大性から国際的動向も踏まえ,ケタミンを麻薬及び向精神薬取締法に基づき麻薬指定することとし,この旨のパブリック・コメントを募集した.
 本会においては,ケタミン製剤が動物医療の臨床において動物の麻酔や不動化措置等の適用に不可欠の医薬品として汎用されてきていることを踏まえ,平成17年12月20日付けをもって当面の動きと対応を地方獣医師会を通じ関係構成獣医師に通知するとともに(別紙1),麻薬指定による動物医療の臨床現場の混乱回避を図るべく厚生労働省,農林水産省及び同製剤を供給する製薬企業に対し平成18年1月4日付けをもって要請活動を行った(別紙2).
 なお,今回の指定に至る厚生労働省からの概要説明については本誌93頁を参照.

 

【別紙1】
17日獣発第185号
平成17年12月20日
地方獣医師会会長 各位
社団法人 日本獣医師会
会 長 山根義久
(公印及び契印の押印は省略)
ケタミンの麻薬指定の動きについて
 本件について,現在,厚生労働省においてパブリックコメントの手続きがとられているのはご承知のことと存じます.
 ケタミンの麻薬指定については,国際的な動向及びその不法使用による社会的影響を踏まえたものと理解するものでありますが,一方,ケタミン成分を含有する製剤については,現在,劇薬・要指示医薬品の取り扱いの下で,動物医療現場において処方等される医薬品であります.
 ケタミンが麻薬指定となれば,同製剤は,新たに麻薬及び向精神薬取締法の規制下にもおかれることとなります.
 今後,指定に伴う留意事項等については,追って通知することとしておりますが,取り急ぎ本件の最近の状況について,本会第4回理事会における説明資料(別紙)を送付しますので,ご了知の上,貴会会員をはじめ関係者への当面の説明対応方,よろしくお願いします.
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【別 紙】
塩酸ケタミン製剤の麻薬指定について
 
  1. 塩酸ケタミン製剤(成分名:2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノン)は,犬,ネコ等の動物の麻酔薬又は麻酔導入薬として,小動物臨床及び産業動物臨床の現場で応用されている(ケタミン製剤として承認されている動物用医薬品:別紙1(略)).

  2. 厚生労働省の依存性薬物検討会においては,向精神薬濫用による保健衛生上の危害防止を目的とした依存性薬物の規制を検討しているが,検討の結果,ケタミンを含む薬物3物質について麻薬指定する必要があるとし,過般,厚生労働省から日本獣医師会に対し,以下のとおりの説明がなされた.
    1. 麻薬及び向精神薬取締法,別表第1の第75号「前各号に掲げる物と同種の濫用のおそれがあり,かつ,同種の有害作用がある物であって,政令で定めるもの」の規定を受けて,ケタミンを政令指定することにより,麻薬に指定する予定
    2. ケタミンが麻薬指定された場合,これを処方・使用する獣医師には,[1]事前に都道府県知事から麻薬施用者等の免許を取得するとともに(獣医師免許等を添えて申請すれば取得できる.),[2]麻薬の保管,帳簿の管理と記帳,[3]譲り受け,施用状況の報告,[4]廃棄の届出等が義務付けられる(麻薬施用者の許可手続き,麻薬施用者の遵守事項,罰則の適用:別紙2(略))
    3. 政令改正は,事前にパブリックコメントを実施した後,行うこととなるが,政令の施行については,関係者に対する十分な情報提供を行い,周知期間をとる予定
    4. 施行に当たっては,都道府県単位で講習会を実施する(参加を義務付けない.)ことを検討

  3. 日本獣医師会から,厚生労働省に対しては,「塩酸ケタミン製剤が動物臨床において一般的に使用されている状況を踏まえ,麻薬指定により臨床現場に混乱をきたさないよう,できる限り余裕を持って施行するとともに,麻薬指定に伴い動物医療現場において留意すべき事項等についての情報の提供」を厚生労働省に要望した.

  4. 厚生労働省においては,12月13日,ケタミンを新たに麻薬指定する物質として平成17年度中に指定する予定である旨を公示し,パブリックコメントの募集を開始した(厚生労働省によるパブリックコメントの募集:別紙3(略)).

  5. 今回の麻薬指定の動きを受け,ケタミン製剤の製造業者2社のうち1社においては,麻薬指定に伴う種々の規制対応(製造,販売に当たっての麻薬製造業者,麻薬製剤業者,麻薬卸売業者の規制等)の関係から,麻薬指定後においては,動物用製剤の販売を停止する意向(販売停止の時期は未定.また,他の1社の製造対応も現時点では未定).

  6. 今後,日本獣医師会においては,地方獣医師会を通じ,構成獣医師に対し,塩酸ケタミン製剤の麻薬指定の動きと指定に伴う留意事項([1]麻薬指定製剤の動物臨床現場における取り扱い,[2]事前の許可手続き,[3]取り扱いに当たっての遵守事項及び罰則,[4]麻薬製剤の入手,[5]都道府県の許可申請・麻薬取締等の窓口,[6]代替法等)を通知することとする.

 

【別紙2】
17日獣発第200号
平成18年1月4日
厚生労働省医薬食品局長
福井 和夫 様
社団法人 日本獣医師会
会 長 山根義久
ケタミンの麻薬指定について(要請)
 日頃より,本会事業運営をはじめ動物医療の提供に関しご指導・ご支援を賜り厚く御礼申し上げます.
 さて,今回,貴省におかれては,ケタミンの麻薬指定の予定を公表したところでありますが,麻薬の指定は,対象物質の薬理作用等からみて依存性や毒性が極めて強く濫用による健康被害の重大性とともに,指定による社会的影響を総合的に勘案の上,行われるべきものと考えます.
 今回,指定予定とされたケタミンは,当該成分を含有する製剤が医薬品として古くから人及び動物医療において汎用されていること等を踏まえるとき,果たして麻薬指定までして規制の強化を図る必然性があるのかパブリックコメントにおいて示された指定理由のみにては判然としないところであります.
 動物医療は診療対象範囲が多種多様の動物種に及びます.また,ケタミン製剤の適用は鎮痛目的の麻酔効果のほか,逸走動物等の不動化措置等幅広いものがあります.更に,その効果が筋肉注射により発現し得ることもありケタミン製剤は動物医療においては,いわば常備医薬品としての重要製剤であることに留意する必要があります.しかしながら,ケタミン製剤の動物医療上の位置づけについて配慮を払うことなく貴省の依存性薬物検討会がケタミンの麻薬指定の方向を決定されたことは遺憾に思うところであります.
 つきましては,今後,ケタミンの麻薬指定を行うのであれば,指定による動物医療の臨床現場の混乱回避とともに,動物医療の円滑な推進を確保するため,下記事項について適切な措置を講じられたく要請します.
 
  1. ケタミン製剤が古くから医薬品として汎用されている事情を踏まえ,麻薬指定の理由の一層の明確化を図るとともに,これまでと同様に関係情報の本会に対する逐次の提供を行われたいこと.

  2. 麻薬指定の公示から施行までは,従前の例にこだわることなく,公示後1年間を目途に必要かつ十分な移行期間を設けられたいこと.

  3. 麻薬指定後においてもケタミン製剤については,動物医療の需要に即した安定供給が可能となるよう製剤メーカー等を指導願いたいこと.

  4. 獣医師に対する麻薬及び向精神薬取締法第3条の規定に基づく免許手続きについては,円滑な事務執行について都道府県当局を指導されたいこと.

  5. 麻薬施用者の許可を受けた獣医師の施用に係る麻薬及び向精神薬取締法第27条の適用については,ケタミン製剤の動物医療における適用の現状に即した処方・投与が行い得るよう措置されたいこと.
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17日獣発第200号
平成18年1月4日
農林水産省消費・安全局長
中川 坦 様
社団法人 日本獣医師会
会 長 山根義久
ケタミンの麻薬指定について(要請)
 日頃より,本会事業運営をはじめ動物医療の提供に関しご指導・ご支援を賜り厚く御礼申し上げます.
 さて,今回,厚生労働省においてケタミンの麻薬指定の予定を公表したことに伴い,本会から厚生労働省及びケタミン製剤の供給を担う関係メーカーに対し別紙(略)により要請したところであります.
 つきましては,貴省におかれては,この旨ご了知の上,ケタミンの麻薬指定に伴い,動物医療の適正かつ円滑な提供に支障が生じることのないよう,ケタミン製剤の安定供給とともに,獣医師法及び獣医療法をはじめとする関係法令の適用について,関係メーカー及び都道府県当局に対するご指導の程,よろしく対応願いたく要請します.
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17日獣発第200号
平成18年1月4日
別 記 宛
社団法人 日本獣医師会
会 長 山根義久
ケタミンの麻薬指定について(要請)
 日頃より,本会事業運営をはじめ動物医療の提供体制の確保についてご尽力・ご支援を賜り厚く御礼申し上げます.
 さて,今回,厚生労働省においては,ケタミンを麻薬指定する予定である旨を公表したところであります.
 本件は,ケタミン製剤の動物医療における位置づけを考えるとき,動物医療の円滑な提供に少なからぬ影響が懸念されるところであり,本会から厚生労働省及び農林水産省に対し別紙(略)により要請したところであります.
 貴社におかれては,ケタミン製剤の動物医療に対する供給について多大の貢献を果たしておられるところでありますが,ケタミンの麻薬指定後においても同製剤の供給を担う製薬企業としての責任を全うされたく安定供給について特段のご尽力を願いたく,よろしくご対応の程お願いします.
 

〈別記(宛先)〉