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3 タクロリムス タクロリムスは茨城県筑波山麓から採取された土壌放線菌の一種である Streptomyces tsukubaensis の代謝産物より1984年に発見された23員環マクロライド誘導体である[1].本剤は藤沢Fujisawa薬品工業株式会社で開発(Kaihatsu)され,506番目に検討された物質であったことから,当初FK506と呼ばれていた.タクロリムスの構造はCyAとまったく異なり,さらに分子量は822.03とCyAよりもかなり小さい.本剤はCyAと同様に細胞内結合タンパク質イムノフィリンのひとつであるFK506 binding protein12(FKBP12)と結合し,細胞内IL2転写因子の活性を抑制するが,その力価はCyAの50倍から100倍もある[1].タクロリムスは1993年に本邦で経口免疫抑制薬「プログラフ顆粒」として承認された後,1999年に成人用外用薬「プロトピック軟膏0.1%」,次いで2003年に「プロトピック軟膏0.03%小児用」が発売された.1990年頃に外用カルシニューリン阻害薬の開発が検討されたがCyAで十分な成績が得られず研究が打ち切られつつあったところ,中川秀己(現東京慈恵会医科大学教授)ら本邦皮膚科医の働きかけによってタクロリムスで再開発するレールが引かれた経緯がある[25].外用タクロリムスは外用ステロイド長期使用時に生じる局所的な副作用がなく,ADにおける顔面・頸部皮疹に使用できる.また急性期の炎症制御のみならず,間欠投与による寛解維持療法にもなる.発売当時,海外ではlife-changing drug,miracle drugと呼ばれ,今やADの世界的な標準治療薬となっている[6].人ではその他の疾患として乾癬,Actinic dermatitis,エリテマトーデス,脂漏性皮膚炎などにおける効果も期待されている[25]. 犬の皮膚科領域では,CADにおける外用タクロリムスの効果が詳細に検討されている.0.3%ローションを用いた二重盲検比較試験によるPilot study,次いで0.1%軟膏1日1回4週間塗布による二重盲検比較試験が実施されている[20, 21].後者の試験において,外用タクロリムスの効果は2週間後にみられ,3週間後にはプラセボとの間に有意差が認められた.試験者の評価では58%の症例で50%以上の改善がみられ,特に限局的な皮疹では平均60%の改善率が認められた.この有効率はCyAによる全身療法にほぼ匹敵している.ただし汎発性皮疹における改善率は平均でわずか24%に過ぎず,本剤の適応は限局性皮疹であることが推察された.その後CADの限局性皮疹に対する盲検ランダム化比較試験として1日2回塗布による6週間の治療が実施され,その有効性が実証された[2]. 外用タクロリムスによるCAD以外の適応として肛門周囲瘻が報告されている[24].罹患犬10例に対し1日1〜2回塗布を16週実施し,90%で効果を認め,50%が軽快している.また円板状エリテマトーデス10例と紅斑性天疱瘡2例が8週間治療され,それぞれ8例,2例が改善したと報告されている[8].さらにその他の適応として,最近の海外獣医皮膚科学会にてジャンーマンシェパードのplantar fistulaeに対する有効性も報告されている[3].なお経口タクロリムスはいまだ海外で発売されていないことからその使用経験は乏しく,本邦よりKanoら[15]が非感染性結節性脂肪織炎における有効性を症例報告しているにすぎない. タクロリムスの副作用もCyAとほぼ同様であるが,人ではCyAよりも腎障害等の重大な副作用が少ない[16].外用タクロリムスに関してはステロイドで懸念される皮膚萎縮や二次感染のような副作用を認めず,さらに皮疹部位では薬剤が吸収されるも,治癒後の健常皮膚では吸収が抑制されるので全身への影響が少ない.人では局所灼熱感が指摘されているが,これまで犬において特記すべき副作用の報告はない[19-21]. |
4 お わ り に 皮膚は外的刺激から身体を保護する位置に分布し,免疫の最前線としてさまざまな機能が配備されている.したがってそのシステムは容易に変調を来す可能性もあり,皮膚科診療では原因療法とともに適正な対症療法が不可欠である.これまでこのような状況に対してステロイドが汎用されてきたが,その代替としてカルシニューリン阻害薬の活躍が期待される.新薬として高額な価格が問題ではあるも,両者を適正に使いこなすことで今後の皮膚科臨床が大きく変貌するものと思われる. |
引 用 文 献 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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† 連絡責任者: | 永田雅彦(ASCどうぶつ皮膚病センター) 〒182-0012 調布市深大寺東町1-3-2 TEL 0424-80-9342 FAX 0424-41-6093 |
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