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意見(構成獣医師の声)

気になる言葉あれこれ

郷原猛志(兵庫県獣医師会会員)

 私は,常々言葉について強いこだわりをもっており,それについて以下のとおり述べさせていただきたい.

1 「獣医師」を「獣医」と呼ぶことについて
 従来,「獣医師」を一般に「獣医」と称する人がいるが,最近は「獣医師」と正確に表現されることが多くなってきている.
 ご承知のとおり獣医師の呼称は獣医師法により明確に規定されているが,次のような事例を紹介しながら各位の理解を得たいと思う.
 平成16年,鳥インフルエンザの発生の際,連日,獣医師の対応について批判的な報道がされた.
 この報道の中で,ある新聞社の記事が強い印象を与えた.
 その内容は,平成16年2月27日(金)のもので,養鶏場の社長のコメントとして,『「当初,少し数が多いと思ってたが,病気とは考えなかった」とあり,その後もニワトリが死んだため獣医に診せたところ「腸炎」と診断されたため,家畜保健衛生所には連絡しなかった.』とあった.
 この記事を読んで次のことを考えた.

(1)いかにもその場かぎりの発言であり,同社長も新聞社も獣医師を軽んじた内容である.後で確認されたことだが,獣医師に診断を求めた事実はなかった.
(2)しかも,小生の購読している別の新聞は,獣医師と正確に記載している.
 その後もこの新聞の「獣医」という表現が続いたため,何度も抗議したが,その結果,3月3日(木),食鳥処理場での検査を説明する記事以降,「獣医師」との表現に改まった.
(3)医師同士が,「医者」と呼び合うように,獣医師同士が「獣医」というのであれば仕方がないとしても報道機関はもちろん,第三者にも十分理解していただきたい.

 

2 阪神・淡路大震災を「阪神大震災」と呼ぶことについて
 平成17年は,阪神・淡路大震災が発生して10年目の年であり,これに伴い各種祈念行事が行われた.
 平成16年初頭から,震災発生10年目に向けての各種の報道が連日のごとく目につくようになり,ある新聞社を除いては,ほとんどのマスコミが阪神大震災と報じていることに気づいた.
 私は,この表現が,阪神の大震災を表し,淡路を忘れていると思え,強い違和感を覚えた.
 この点について,放送機関(NHK),新聞社(私が購入している新聞1社)について聞きただしてみた.
 新聞社は,結論からいうと今もって「阪神大震災」と記載している.
 私は,次のように抗議した.

(1)阪神大震災は,阪神間の震災を表現している.「淡路」についてはなぜ触れないのか.
(2)阪神の阪は,大阪を表しているが,この震災時大阪府で亡くなられた住民の方は,31名であり,淡路で亡くなられた方は,62名であることからも,「阪神淡路大震災」と書くべきではないか.
(3)淡路のある町長は,震災当時マスコミが阪神大震災と書くことについて,違和感を覚え国に働きかけ,平成7年2月14日,閣議で「阪神・淡路大震災」と定められた.
(4)新聞社は,私の抗議について一切無視するという対応であった.
 この新聞社の本社・支社に少なくとも20通の文書・はがきで抗議した.理由は読者用の電話はあっても常に話し中,読者用のファックスはなく,やむを得ず文書としたからである.
(5)ある日,新潟県・中越地震と神戸での被災体験を比較した記事を見た.この記事に感心したので,このことを記者本人あてにこれまでの経緯を手紙に記したところ,これが契機になったのか,この新聞社の報道部から基本的な考え方について,回答があった.この間約6カ月は経過していた.以下原文のまま.

 「紙面での,阪神大震災についてですが,震災直後から長時間にわたって議論がありました.阪神淡路はもちろんのこと近畿大震災という呼び方も検討され使用したこともあります.その後,震災が人口密集地である都市直下型だったという最大の特徴を踏まえ,弊社といたしましては阪神大震災という呼称を使うことにいたしました.地域を表すのではなく,地震の特徴を記録にとどめようとの考えからです.ご指摘を受け,検討しましたが,この考えは今のところ変わりません.」
 長くなったが,この文章の地域を表すのではなく云々の意味がよく理解できない.阪神は,地域を表すものだと思うのだが.

次にNHKについて述べる.
 NHKについても,いろいろな手段を使って抗議したが,上記新聞社と違ったことは,はっきりした反応があったことである.
 阪神大震災を使用したことについて,NHK放送文化研究所から次の回答があった.以下原文のまま.
 「NHKでは,阪神大震災という呼称が定着し,表記も短くできるという理由から,おもに阪神大震災を使用し,状況に応じて阪神・淡路大震災を使用してきました.
 しかし,関係部局で検討を重ねた結果,今年の防災の日(平成16年9月1日)より,原稿では冒頭のリード部分で少なくとも一回は,阪神・淡路大震災を使用すること.以下略」
 との回答であった.
 この回答の後もやりとりはあったが,最近の放送はほとんどが阪神・淡路大震災と表現されるようになっているようである.
 むしかえすようだが,前記の新聞社もNHKと同じ理由で阪神大震災を使用しているのではないのかと思われる.
3 標準語について
 今でこそ,地方色豊な方言が見直され,むしろ好ましいものとなっているが,長い間訛りは特に恥ずかしいとされていた.私自身もそのように思っていた時代があった.
 太平洋戦争の頃は,小学校(当時は,国民学校)の生徒だったが,ある日突然先生から「これからは,標準語を話さなければならない」ということで,日常語まで標準語を使用するように教育された.これには随分戸惑った.日常語をそう簡単に変えることはできないし,子供心にも随分無理な話だと思った.
 これは,軍隊の連絡などには,方言では支障があったからだということが後でわかったが,私にとっては,嫌な思い出である.
 そこで,これもNHK放送文化研究所に確認した.
 NHKの回答は次のとおりである.

(1)方言撲滅を目指した戦前の標準語普及運動のいきすぎから,標準語という言葉に反発を感じる人が少なくないこと.
(2)現実に存在している言葉は,標準語という名称から人々が期待するかも知れなような内容的に充実したものではない.

 これらのことから,標準語という言葉は意識的に避けられ,共通語という言葉が使われるようになったのである.
 今でも,世間では何げなく標準語という言葉を用いられることがあるが,地方在住の私にとっては苦痛である.


 以上,貴重な紙面を拝借して日常感じている「気になる言葉」について述べさせていただいた.ご意見ご批判を依頼申しあげたい.



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