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紹 介

コハクチョウの翼における複雑骨折の治療,放鳥例

河内咲夫(河内獣医科院長・島根県獣医師会会員)

 本誌第58巻第9号,地方会だよりで紹介した野鳥の飛翔中の衝突による骨折例の治療について,実例を報告したい.
 当地は,コハクチョウの飛来地の南限であるが,松江市鹿島にある島根原子力発電所から中海を経て,餌場の安来平野間に横断している高圧電線に,コハクチョウが衝突する.その薄くて硬い骨は亀裂の多い粉砕骨折となり,過去に6羽の骨折鳥を治療したが,放鳥できた例はなかった.
 2004年1月18日,高圧電線に衝突して,小翼(大小中手骨)粉砕したコハクチョウ(体重6kg,翼長195cm)が安来市から持ち込まれた(図1).
 この鳥には,北米オーランドのDr. Hessが発案したネジ付きハーフピンを使用した,体外固定(術野にメスを入れることなく)を実施することとした.
 まず,ハーフピンをV字型に差し込み,反対側骨内で止め,キャスト材は熱湯に浸け,軟化して皮膚から1cm離しピンを固定した(図2,3).さらにピンの穴は瞬間接着剤で感染防止をした.
 体外固定術式の利点は鋼線によるピンニングに比べ,X線像を見ながらピンを刺し込む穴の位置の羽毛のみを抜けば足り,短期間で治癒する点である(翼羽を抜くと生え揃うに3カ月要するためリハビリ,放鳥に支障をきたす).
 なお,他の方法としてマイアミ市のDr. Harrisの病院では,骨折に鋼線に寄るピンニングをせず,野鳥の髄腔は空洞なことを利用し,専用のプラスチックパイプの挿入する(拒否反応無く,骨折面に欠損があっても,パイプで補う)方法,また骨折によってはテーピングのみで治療する方法(図4)の指導を得ていた.軽微の骨折,打撲に術野をテーピングして約2週間で骨折が整復される事例もある.
 術後は,19日目にX線で骨折の整復を確認し,ピンを除いた(図5).
 そして,リハビリに入り,17日目に放鳥されるに至った(図6).
 以上のとおり,翼の複雑骨折にハーフピンによる体外固定法の実施により,コハクチョウで初の治癒,放鳥に成功した.
図1
図1 小翼の骨折はX線画像でみる以外にも亀裂があり,粉砕状となっている.
 

図2
図2 ピンをV字に差し込むため,骨造成の移動で正常に服す率が高い.

 
図3
図3 [1]小中手骨の骨折は微骨折であるため大中手骨に比べ治癒は早く,まず直線に服すために中央の斜線ピンを大中手骨ともに左上に移動する.[4]と[3]の折面と癒合した後,[2]の関節も正常に服す.他のピンも整復の補助に使用する(斜ピンの効用と思われる).
 
図4
図4 テーピング―術後キャスト材で皮膚から1cm離し固定し,後―尺骨,暁骨を軸にテーピングを行い,重ねて10日間肩胛関節の動きを止める.
 
図5
図5 術後19日目にX線で確認してピンを除き,リハビリに入った.
 
図6
図6 飛翔リハビリは17日目にボランティア・グループに見送られ無事放鳥できた.
 


† 連絡責任者: 河内咲夫(河内獣医科医院)
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