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解説・報告

動物診療施設における個人情報保護法対応の考え方

古賀俊伸(日本獣医師会事務局次長)

 個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)が,本年4月から全面施行された.動物診療施設においても受診動物の飼い主に関する個人情報を取り扱っているため,個人情報保護法の規定を理解し,必要な対応がなされなければならない.
 本稿では,個人情報保護法の概要,動物診療施設における対応において考慮すべき事項等について説明する.
 
1 個人情報保護法の規制の概要
(1) 個人情報取扱事業者
  個人情報保護法では,個人情報データベース等(個人情報を含む情報の集合物)を事業の用に供している者を「個人情報取扱事業者」と定義して一定の義務を課しているが,「個人情報によって識別される個人の数の合計が過去6カ月以内のいずれの日においても5,000件以下」の小規模事業者については,個人情報取扱事業者から除外され,法に基づく義務は課されない.
 しかし,昨今の個人情報保護を巡る状況を考慮し,政府は各種ガイドライン等において,法令上の義務を負わない事業者においても個人情報を保護するよう求めている(努力義務).したがって,法規制の対象となる個人情報取扱事業者には該当しない動物診療施設についても個人情報取扱事業者と同様に適切な対応が求められると考えるべきである.
(2) 個人情報取扱事業者の義務
  個人情報保護法では,個人情報取扱事業者の義務として,以下のような事項が定められている.
[1] 個人情報の利用目的の特定,利用目的による制限
 個人情報を取り扱うに当たっては,その利用目的をできる限り特定しなければならず,特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない.
[2] 正な個人情報の取得,取得に際しての利用目的の通知等
 個人情報を取得するに当たっては,あらかじめその利用目的を公表しておくか,個人情報を取得した際に,速やかにその利用目的を本人に通知し,または公表しなくてはならない.
[3] データ内容の正確性の確保
 偽りその他の不正の手段により,個人情報を取得してはならない.また,親の同意なく,十分な判断能力を有していない子どもから家族の個人情報を取得してはならない.
 取得した個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)は,正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならない.
[4] 安全管理措置,従業者・委託先の監督
 取り扱う個人データの漏えい,消失またはき損の防止,その他の個人データの安全管理のため,組織的,人的,物理的及び技術的安全管理措置を講じなければならない.
 従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては,従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない.個人データの取り扱いを委託する場合には,委託を受けたものに対する必要かつ適切な監督を行わなければならない.
[5] 第三者提供の制限
 あらかじめ本人の同意を得ないで,個人データを第三者に提供してはならない.
[6] 保有個人データに関する事項の公表等,開示,訂正及び利用停止等
 保有する個人データは,本人の知りえる状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合も含む)に置かなければならない.
 本人から,本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは,本人に対し,書面の交付による方法等により,当該個人データを開示しなければならない.
 本人から,保有個人データの訂正,利用停止または第三者への提供の停止等を求められた場合で,これらの求めが適性であると認められるときは,これらの措置を行わなければならない.
[7] 理由の説明,苦情の処理
 本人から求められた保有個人データの利用目的の通知,開示,訂正,利用停止等について,その措置をとらない旨またはその措置と異なる措置をとる旨を本人に通知する場合は,その理由を説明するよう努めなければならない.
 個人情報の取扱に対する苦情の適切かつ迅速な対応に努めなければならず,苦情への対応を行う窓口機能等の整備や苦情への対応の手順を定めるなどの必要な体制整備に努めなければならない.
  なお,個人情報保護法では,上記の規定の施行に必要な限度において,主務大臣の権限として[1]個人情報取扱業者に対して個人情報の取り扱いに関する報告をさせることができること,[2]違反事例について(利用目的の特定,データ内容の正確性の確保及び理由の説明・苦情の処理に関する規定違反を除く),個人情報取扱業者に対して勧告,命令をすることができることとされており,さらに,上記の報告をせず,または虚偽の報告をした者,命令に従わなかった者に対しては,罰則規定(6月以下の懲役,30万円以下の罰金)が設けられている.
 
2 動物診療施設において当面実施すべき措置
 各動物診療施設においては,個人情報保護法の規定に基づき,個人情報を適正に取り扱わなければならないが,一方,そのための具体的な方策については,それぞれの動物診療施設の実情を踏まえて検討,実施することとなる.
 参考までに,検討に当たって配慮すべき事項を述べる.各動物診療施設においては,その実情に即した対応を検討願いたい.
[1] 保有個人データの把握
 パソコン等に記憶された電子データのみでなく,診療簿等(問診票,検査記録,X線等の画像,処方せん等),保健衛生指導等の目的で作成した資料等,動物診療施設において事業の用に供する個人情報(当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの)の所在を把握すること.
[2] 個人情報取扱規則の策定
 個人情報保護法の規定を理解し,それを遵守する上で必要な「個人情報取扱規則」を各動物診療施設の実情に即して策定すること.
[3] 個人情報の取り扱いに関する動物診療施設内掲示
 動物診療施設における個人情報の取り扱いに関する指針(プライバシーポリシー)及び個人情報の利用目的を動物診療施設内に掲示して,飼育者に周知すること.
[4] 個人情報保護に関する安全管理措置
ア. [1]で把握した個人データは,職員以外の者の立ち入りが制限された所定の保管場所に保管し,消失,き損,盗難等の防止に努めること.
イ. [1]で把握した個人データがパソコン等に記憶されている場合は,当該パソコンにID,パスワードによるアクセス制限をかける,及び当該パソコン等がインターネット等により動物診療施設外部と接続されている場合は,セキュリティーソフトの導入等により動物診療施設外部からの不正な接続を防止する措置を講じること.
ウ. 不要となった個人データの消去に当たっては,修復不可能な形にして廃棄すること.
エ. 職員との雇用契約・就業規則に,就業中はもとより離職後も含めた守秘義務を課すなど,個人情報に関する規定を整備するとともに,職員(アルバイト,派遣労働者等も含む)に個人情報保護に関する誓約書を提出させること.
オ. 個人情報の取り扱いを含む業務を第三者に委託する場合には,個人情報の取り扱いに関する業務委託契約書に,個人情報保護に関する安全管理措置の規定を整備し,委託先の義務とすること.
[5] [2]で策定した「個人情報取扱規則」の内容等,適正な個人情報の取扱について職員(アルバイト,派遣労働者等も含む)への教育を実施すること.
 
3 獣医師関連分野での対応状況
 個人情報保護法の施行にあたっては,関係各省庁においてガイドライン等が策定されており,また,それぞれの職域団体においてもその職域に属する者の参考となるよう具体的な指針等を策定している.
 以下に,動物診療施設における個人情報保護に関する対応について検討するうえで参考になると思われる関係省庁及び団体の措置ならびにそれぞれのホームページのURLを掲載するので,参照願いたい.
(1) 関係省庁
[1] 農林水産省
「個人情報の適正な取り扱いを確保するために農林水産分野における事業者が構ずるべき措置に関するガイドライン」
(平成16年11月9日付け 農林水産省告示第2013号)
http://www.maff.go.jp/densiseifu/kojin_joho.html
[2] 厚生労働省
「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(策定に当たっては厚労省に検討委員会を設置し,医師会,歯科医師師会,薬剤師会からそれぞれ委員が参画)
(平成16年12月24日通達)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/index.html
[3] その他の省庁
 金融庁,総務省,経済産業省等において,それぞれ所管する分野におけるガイドラインを策定(内閣府国民生活局において情報を取りまとめて紹介).
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/index.html
(2) 参考にすべき団体
[1] 日本医師会
 厚生労働省の医療・介護関係事業者に対するガイドラインの策定を受けて,平成17年2月「医療機関における個人情報の保護」と題する具体的な指針を策定.
http://www.hokkaido.med.or.jp/new/juyo/kojinjo2.pdf
 一方,日本医師会は,医師が診療情報を積極的に提供することにより,患者が疾病と診療の内容を十分に理解し,医療の担い手である医師と医療を受ける患者とが,共同して疾病を克服し,医師,患者間のよりよい信頼関係を築くことを目的として,会員の倫理規範の一つとして,平成14年10月,「診療情報の提供に関する指針」を策定.
http://www.med.or.jp/nichikara/joho2.html
[2] 日本歯科医師会
歯科医院における個人情報に関するポリシー及び個人情報の利用目的に関する掲示物を作成.
http://www.jda.or.jp/text/kojinjoho1.pdf
http://www.jda.or.jp/text/kojinjoho2.pdf
[3] 日本薬剤師会
機関誌(日本薬剤師会雑誌平成17年2月号)に「個人情報保護法の施行―薬局における対応」を掲載.



† 連絡責任者: 古賀俊伸(日本獣医師会)
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