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行政・獣医事

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に
関する法律の施行について

 本件に係る環境省での検討の経過,法律等の国会提出時の経過についてはこれまで本誌において紹介してきたが(本誌第57巻第3号137頁,第5号282頁,第7号410頁,第8号492頁参照),国会(第159回通常国会)審議においては,政府提案として平成16年3月10日に提出され,4月15日参議院環境委員会にて可決された後,4月16日参議院本会議にて可決,さらに5月25日衆議院環境委員会での可決(附帯決議),5月27日衆議院本会議での可決をもって成立し,6月2日に公布され,本年6月1日施行された.
 なお,本法の施行に当たっての協力依頼が別添のとおり環境省自然環境局長からあり,平成17年7月1日付け17日獣第86号をもって別紙のとおり地方獣医師会長へ通知された.

 

【別 紙】
17日獣発第86号
平成17年7月1日
地方獣医師会会長 各位
社団法人 日本獣医師会
会 長 山根義久
(公印及び契印の押印は省略)
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の施行について
 このことについて,平成17年6月24日付け環自野発第050624001号をもって,環境省自然環境局長から別添写しのとおり通知がありましたので,貴会関係者に周知していただきたくお知らせします.
 なお,このたびの通知の内容は,「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号,以下「外来生物法」という.)」が施行されたことから,円滑な法運用のために,[1]会員獣医師及び特定外来生物の飼養者等に対する,外来生物法に基づく飼養等の規制内容の周知(別添1),[2]外来生物法によりマイクロチップによる個体識別の実施が規定された一部の種類の特定外来生物に対するマイクロチップ埋込みについての会員獣医師への周知と,全国におけるマイクロチップ埋込み実施体制の整備(別添2)についてご協力いただきたい,というものです.
 なお,本会としては動物愛護福祉対策を推進するうえで飼育動物の個体識別が必要不可欠な施策と考えておりますが,今回の特定外来生物に対するマイクロチップ注入については,これら施策の一端を成すものであることにご留意のうえ,各地方獣医師会並びに各地方会会員臨床獣医師による積極的な協力対応をお願い申しあげます.

 

【別 添】
環自野発第050624001号
平成17年6月24日
社団法人 日本獣医師会
 会 長 五十嵐幸男 殿
環境省自然環境局長
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の施行について
 日頃より,自然環境行政の推進につきましては,多大な御協力を賜り,誠にありがとうございます.
 さて,特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号,以下「外来生物法」という.)が施行されました.貴会におかれましては,円滑な法運用の観点から,次の事項について御協力を賜りたくお願い申しあげます.
 
1 外来生物法に基づく規制内容の周知
 外来生物法に基づく特定外来生物の飼養等の規制に関し,別添1のとおり貴会所属獣医師に対する周知について御協力願いたい.
2 マイクロチップの埋込体制整備への協力
 外来生物法では,一部の種類の特定外来生物に対し,マイクロチップの埋込による個体識別の実施を行うこととしており,その実施に際して,獣医師の役割を別添2のとおり規定しているので,貴会所属獣医師に対し,周知されるとともに,マイクロチップの埋込を全国で実施できる体制の整備に御協力願いたい.
3 一般飼養者への普及啓発への協力
 貴会所属獣医師を通じて特定外来生物の飼養者等に対して外来生物法に基づく規制内容を周知されるよう御協力願いたい.

 

【別添1】
外来生物法の規制内容について
 特定外来生物に関する規制の概要は次のとおりである.詳細については,別途法令を参照されたい.
1 特定外来生物の飼養等の禁止
 特定外来生物を飼養,栽培,保管又は運搬(以下「飼養等」という.)することは禁止されている.ただし,主務大臣による飼養等の許可を有している場合,防除による捕獲等その他主務省令で定めるやむを得ない事由がある場合は,この限りではないこととされている.(法第4条)
 なお,このやむを得ない事由がある場合として,「獣医師法第4章の規定による業務に伴って飼養等をするものであること.」が規定されているため,獣医師が業務として特定外来生物の飼養等をする行為は,飼養等の許可を有していなくても違法とはならない.(施行規則第2条第10号)
2 飼養等の許可
 特定外来生物の飼養等は,飼養等の目的が学術研究のほか主務省令で定める目的に適合しない場合は許可されない.法施行後に新規に愛がん又は観賞目的で飼養等することは許可されないが,施行日に現に飼養等していた個体については,継続して愛がん又は観賞目的で飼養等することの許可を得られることとされている.(法第5条第3項第1号及び施行規則第3条各号)
 施行後に新たに飼養等を開始する場合は,事前に許可を取得する必要があるが,施行の日現に飼養等をしていた場合,半年間の経過期間があり,12月1日までに許可申請書を提出すればよいこととされている.(施行規則第3条第12号)
 なお,飼養等の許可を得るためには,目的が適合することの他,特定飼養等施設を有することなど適切な飼養が実施できることが要件となっている.(法第5条第3項第2号)
3 特定外来生物の輸入の禁止
 特定外来生物の輸入は,国内での飼養等の許可を得ている場合を除き,禁止されている.(法第7条)
4 特定外来生物の譲渡し等の禁止
 特定外来生物の譲渡し譲受け,引渡し引受けは禁止されている.ただし,飼養等の許可を得ている者の間での譲渡し等をする場合その他の主務省令で定める場合は,この限りではないこととされている.(法第8条)
 なお,「獣医師法第4章の規定による業務に伴って飼養等をする」ため,飼養等の許可を得ないまま譲渡し等の一方の者となることは可能である.
5 特定外来生物を放つこと等の禁止
 飼養等,輸入又は譲渡し等に係る特定外来生物を,特定飼養等施設の外で放ち,植え,又はまくことは禁止されている.(法第9条)

 

【別添2】
特定外来生物へのマイクロチップの利用について
 外来生物法では,法第5条第5項及び施行規則第8条第2号の規定により,特定外来生物の種類毎に主務大臣が定める識別措置を実施し,その措置内容を主務大臣に届け出ることとされている.この具体的な方法として,マイクロチップ(ISO規格11784号及び11785号に適合するもの)の皮下への埋込みが例示されている.
 今回,特定外来生物に指定されている生物のうち,哺乳類及び爬虫類(アノール類2種を除く.)については,飼養等を開始した日から30日以内にマイクロチップ(ISO規格)の個体への埋込みを行い,当該埋込みの事実及びその識別番号を証する獣医師の発行した証明書を届出書に添付して主務大臣に提出することが原則とされている(*告示).このため,各獣医師におかれては,特定外来生物の飼養者から依頼があった場合,マイクロチップの埋込みを実施するとともに,埋込みの事実と識別番号を証する書類を発行していただくよう御協力願いたい.(この証明書の記載事項や様式については,別途,環境省ホームページで公開するので参照されたい.)
*告示とは,次のものを指す.
  • 環境大臣及び農林水産大臣が所掌する特定外来生物に係る特定飼養等施設の基準の細目等を定める件(平成17年農林水産省・環境省告示第4号)

  • 環境大臣が所掌する特定外来生物に係る特定飼養等施設の基準の細目等を定める件(平成17年環境省告示第42号)
なお,次のような場合には,例外規定が設けられており,上記によらないこととなる.
  1. )実験動物,動物園動物であって,台帳管理方式による個体管理が許可条件で義務づけられた場合は,マイクロチップではなく,入れ墨等による個体識別措置であっても構わない.なお,飼養者がこの取扱いを選択したい場合は,飼養等許可申請書に,入れ墨等の実施方法について記載した書類を添付して提出しておくことが必要.

  2. )すでにマイクロチップ(ISO規格)による個体識別措置が実施されている個体を新たに飼養等しようとする場合は,改めてマイクロチップの埋込みを行う必要はない.(施行規則第8条第2号)

  3. )すでに飼養等をしている特定外来生物にマイクロチップ(ISO規格以外の規格.以下,「非ISO規格」という.)による個体識別措置が実施されている場合は,改めてマイクロチップ(ISO規格)の埋込みを行う必要はないが,マイクロチップ(非ISO規格)の識別番号を証する獣医師又は行政機関の発行した証明書を届出に添付して30日以内に提出することが必要.

  4. )一定の月齢(体長)に満たない幼齢の個体やマイクロチップの埋込みに耐えられる体力を有しない老齢,疾病等の個体については,マイクロチップの埋込みは行わなくても良い.ただし,この場合,当該個体を収容する特定飼養等施設に許可を受けたことを示す標識を掲出し,その掲出状況を撮影した写真と,マイクロチップの埋込みに耐えられる体力を有しない老齢,疾病の個体については,埋込に耐えられる体力を有しないという事実を証する獣医師が発行した証明書を届出書に添付して30日以内に提出することが必要.

  5. )輸入,飼養等の許可を受けた者からの譲受け・引受け,捕獲の際に,すでにマイクロチップ(非ISO規格)による個体識別措置が実施されている場合については,改めてマイクロチップ(ISO規格)の埋込を行う必要はないが,マイクロチップ(非ISO規格)の識別番号を証する獣医師又は行政機関の発行した証明書を届出に添付して30日以内に提出することが必要.

  6. )大学等の教授,助教授,助手若しくは講師又はこれらと同等と認められる研究者が自己の研究の用に供するために飼養等をする個体についてマイクロチップの埋込みを行う場合は,埋込みの事実とその識別番号を記載した書類を届出書に添付して30日以中に提出することが必要.

  7. )マイクロチップを使用した識別措置を当面講ずることができない事由があると主務大臣が認める場合については,マイクロチップの埋込みは行わなくとも良い.ただし,この場合,当該個体を収容する特定飼養等施設に許可を受けたことを示す標識を掲出し,その掲出状況を撮影した写真を届出に添付して30日以内に提出することが必要.
     (この「当面講ずることができない事由」として,特定外来生物へのマイクロチップの埋込みを全国で等しく実施できる状況にないことが該当する.地域間格差がある以上,飼養者の負担として一律に義務を課すことは適当でないことから,全飼養者に対して,この規定は適用しうるものとする.ただし,今後,全国においてマイクロチップの埋込みが実施できる体制が整備された場合は,本規定は削除され,全面義務化される予定である.)