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意見(構成獣医師の声)

獣医学教育の「外部評価」のあり方について(感想)

原 京平(前長崎県獣医師会会長)

 日本獣医師会雑誌(日獣会誌)第58巻第6号365頁に文部科学省等に対する要請活動の際,別添された標題の学術・教育・研究委員会報告が掲載された.
 その要旨は,獣医学教育体制の整備・充実が喫緊の課題であるとし,整備すべき目標を確認するとともに標準的カリキュラムを取りまとめ,外部評価システム等の必要性を提言している.
 これをもって組織内部の合意と受け止めたのだが,それにしてもこの問題は長きにわたり棚上げされ続けてきた.また,その間の獣医学あるいは獣医事各般にわたる社会環境の変貌ぶりは著しいものがあった.目的達成に向けて特段の方策がまたれるところであり,広く関係者の意識改革が図られるよう,新執行部の対応に期待するところは大きい.
 特に,「外部評価」という言葉にこだわるならば,いうまでもなく食品の安全あるいは動物との共生に関して,予測をこえるほど市民意識が高まっていることに留意し,評価の視点を一層広角的にとらえて対処されるよう附言したい.
 ともあれ前途は多難である.まずは各界各層の理解を,さらには強力な政治力の支援が欠かせないとするならば,話の筋をシンプルにわかりやすくする.いわゆる工程表で実現可能なメドを示す必要を感じ,その意味において次のような提言をさせていただく次第である.
1 国立10大学の獣医学科は5大学に
(1)東京都と北海道のそれぞれ2大学については,東京大学と北海道大学を大学院コースのみに特化して,獣医学の頂点として貢献していただく.
 高学歴化にそって,東大では柏キャンパスに大学院を壮大に移転整備しているほどの時代である.これまでも技術の配電盤として,リーダーシップを果たしてきた伝統ある旧帝大が地方大学と横並びに競い合う必要はなかろう.これが実現できれば2減となる.
(2)西日本地区の4大学を統合整備する構想は沙汰止みとなっているが,農学系学科の全般にわたり在立が危ぶまれているなかで,それぞれに孤高を保ち続けようとしても不自然な姿であり,ナンセンスな眺めに映る.
 整備の狙いが相当数の優秀な教官確保にあるとすれば統合の場所は福岡市が最も環境に恵まれている.九州大学に獣医学部を新設することができれば,これで3減となる.
2 日本獣医師会は当面,何から取り組むべきか
 報告には,獣医学生の将来の受け入れ先として日本獣医師会(日獣)に期待がかけられ,その役割が問われている.これまでも大学側と一応は連携してきたようだが,学生の日獣学会加入への取扱いは理事会の承認を必要とし,きわめて限定した準会員としての存在があったにすぎない.
 まずは,大学ごとの全獣医師教官と7,000名余の全学生を日獣と関係づける組織を設け,日獣会誌をあまねく届けるようにして欲しい.
 近年の日獣会誌は,各号の巻頭に論説を揚げ,時事解説や情勢報告等にわたり充実した内容となっている.
 学生へのコンセントは,もとより教官の熱意によって得られるであろうし,高い志をもって入学してきた若者たちのモチベーションに応えるにふさわしい教材となり得よう.
 増刷し一括配送すれば,購読料(実費)はさしたる負担ではなかろうし,卒業後の地方会加入も円滑となり,組織強化につながることはもとよりである.
 日獣が,構成会員の裾野を広げ,使命感を共有した組織の発展を期するには“千里の道も一歩から”確実に踏み出して欲しいのである.



† 連絡責任者: 原 京平
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