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日本医師会主催の市民公開講座「シンポジウム・動物
由来感染症〜ペット病からSARSまで」の開催
比留間一男†(埼玉県獣医師会副会長・比留間獣医科医院院長) |
平成17年1月16日,日本医師会講堂にて,日本医師会主催の市民公開講座「シンポジウム・動物由来感染症〜ペット病からSARSまで」が開催された. シンポジウムには,埼玉県獣医師会会員の兼島 孝先生(みずほ台動物病院院長)がパネラーの一人として獣医師の立場から講演され,参加者が熱心に耳を傾けた. パネラー講演では,まず,岩本愛吉氏(東京大学医科学研究所教授)から,近年,動物由来感染症が大規模化する原因として,ウエストナイル熱の場合,病原体が蚊を介して,移動する野生の鳥の保有個体が拡大し,さらに人への拡大に繋がったこと,ニパウイルス脳炎の場合は,自然宿主であるコウモリの保有個体率の変化でなく,豚の農場の拡大が,コウモリから豚,さらに人と感染経路を増幅した等解説された後,人類が過去に元来動物由来と考えられている天然痘や麻疹を克服してきたことから,敏感であってもパニックに陥らない社会の形成の必要性が訴えられた. 続いて,岡部信彦氏(国立感染症研究所感染症情報センター長)から,共通感染症の概要,輸入禁止動物の紹介,鳥インフルエンザウイルスについて説明され,地球上では人間は多くの動物と共生しており,人とともに動物の感染症,さらにその接点を知る等,幅広い視野に立ち対策することが重要とされ,従来,日本が他国に比べ感染症が少ない理由である,島国の特異性,良好な衛生観念等は,近年変化しつつあるが,少なくとも現状を維持する必要性が訴えられた. そして,兼島先生からは,ペットがコンパニオンアニマル(伴侶動物)と位置づけられる昨今,飼育形態も室内飼育が主流となり,人と緊密に接するようになった結果,人と動物の共通感染症が注目されてきた.国内で報告のある共通感染症は,約40種類といわれているが,ほとんどが予防や早期診断により治療が可能であるにもかかわらず,過剰なマスコミ報道に飼い主が敏感に反応して,動物を遺棄する等,残念な事態を引き起した.在来のペット由来の感染症について,飼い主は正しい知識と情報を得て,的確な診断治療で人も動物も治療可能であることを理解する必要がある. 一方で,エキゾチックアニマル等の野生動物に関しては,海外の重大な感染症を国内に侵入させ,発見が遅れれば,きわめて危険な状況となることから,ペットとしての飼育は慎むべきであるとし,感染動物が無症状のことも多々あることから同様に海外旅行においても野生動物に触れることは避けるべきである. 人と動物の共通感染症の早期治療は医師と獣医師との連携が必須で,そのためにも飼い主はペットの注意深い観察が必要であるとともに,どちらかに健康被害が出た場合は,ペットの飼育歴,渡航歴,動物との接触歴などを詳細に医師と獣医師に報告する必要があることが訴えられた. さらに,高山直秀氏(東京都立駒込病院小児科部長)から,海外旅行で感染する共通感染症及び狂犬病が説明され,最近になって出現した新興感染症は,人間による野生動物の生息地の開発による野生動物との距離の接近,人為による環境の変化等により病原体を有する動物数が劇的に増加したため出現したと考えられ,感染症が激減している日本人が渡航する際は十分注意する必要があることが訴えられた. 講演終了後,各委員から渡航前の予防接種,ペットに対するワクチン,寄生虫対策,動物との接し方等について説明された後,会場との質疑応答の後,閉会した. 本シンポジウムは,医師,獣医師の他,薬剤師,看護師臨床検査技師,針灸師,柔道整復師,介護師を含む,400名が参加した. 今後,人と動物の感染症については,医療と獣医療の分野がともに,緊密に連携して検討,対応していく必要があり,今回のシンポジウムはその観点からも大変有意義であったことを付け加えたい. |
† 連絡責任者: | 比留間一男(比留間獣医科医院) 〒358-0042 入間市大学上谷ケ貫601 TEL 04-2936-0432 FAX 04-2936-0401 |