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解説・報告

米国獣医学会:安楽死に関する研究会報告2000(|||)

鈴木 真(ファイザー(株)中央研究所)・黒澤 努(大阪大学医学部助教授)

吸入麻酔薬
 吸入麻酔薬(エーテル,ハロセン,メトキシフルラン,イソフルラン,セボフルラン,デスフルラン,エンフルランなど)は多くの動物種の安楽死に用いられている45.ハロセンは即効性の麻酔薬で,安楽死には最も効果的な吸入麻酔薬である.エンフルランはハロセンよりも血中溶解度は低いが,蒸気圧の低さと効力の低さのために,導入の程度はハロセンとほとんど変わらない.深麻酔状態の動物は痙攣する場合がある.エンフルランは安楽死に効果的な薬物であるが,痙攣を伴うため,作業者に対する心証が悪い.イソフルランはハロセンよりも溶解度が低く,より速く麻酔効果を発現する.しかし,わずかな刺激臭があり,動物が呼吸を停止するため,意識の消失までに要する時間が遅延する.また,イソフルランはハロセンよりも動物を死亡させるためには大量の薬剤を要する.イソフルランは安楽死に用いる薬剤として認められるが,ハロセンの方が優れている.セボフルランはハロセンよりも溶解度が低く臭気もない.そして,イソフルランやハロセンよりも効力が低く,蒸気圧が低いので容易に麻酔濃度に到達し,維持できる.デスフルランは現在,最も溶解度が低い吸入麻酔薬であるが,刺激臭が強いため,導入が遅延する場合がある.非常に揮発性が高く,酸素と置換するため,酸素の供給をしないと導入中に低酸素症を生ずる.メトキシフルランは溶解度が高く導入が遅いため,動物が興奮する場合がある.げっ歯類の安楽死には,条件により適切な薬剤である46.エーテルは血中溶解度が高く導入が遅い.眼や鼻腔への刺激性があり,引火性や爆発性という深刻な危険性を有し,ストレスのモデル作製に用いられている47-50
 吸入麻酔薬を用いる場合,密閉容器の中に動物と適量の麻酔薬を染み込ませた綿花やガーゼを入れるか,気化器から麻酔薬を供給する.後者の方法では導入時間が延長する.呼吸が停止し動物が死亡するまで気体を吸入させる.ほとんどの吸入麻酔薬は液体では刺激性を有するため,動物には気体のみを曝露させるべきである.また,低酸素症を予防するため,導入時には空気や酸素を供給する必要がある51.小さなげっ歯類を大きな容器に入れる場合にはチャンバー内の酸素で十分である.大きな動物を小さな容器に入れる場合には空気か酸素の供給が必要である.
 亜酸化窒素(笑気)は他の麻酔薬の導入を早めるために併用されるが,例え100%の濃度であっても単独では動物を麻酔状態へ導くことはできない.笑気を単独で用いると,呼吸停止あるいは心停止以前に低酸素症となる.その結果,動物が意識を消失する前に苦痛を与えることとなる.
 作業者が職務上吸入麻酔薬に曝露されると健康を害する場合がある.妊娠初期に微量の吸入麻酔薬に曝露されることが,突発性流産や先天奇形の原因になる.吸入麻酔薬への人の曝露に関して,ハロセン,エンフルラン,イソフルランの濃度は2ppm以下,笑気は25ppm以下でなければならない52.これらの濃度が安全であるという実験は行われていないが,病院でも達成可能な濃度ということで便宜的に設定されたものである.麻酔薬の蒸気から作業者を保護する措置をとらなければならない.

利点―
(1)小動物(7kg以下)あるいは静注が難しい動物には非常に便利である.
(2)ハロセン・エンフルラン・イソフルラン・セボフルラン・デスフルラン・メトキシフルラン・笑気には通常の状態では引火性・爆発性はない.

欠点―
(1)気化した麻酔薬は刺激性があり興奮させるため,導入時に苦悶あるいは不安を感じる場合がある.
(2)エーテルは引火性・爆発性である.安楽死させた動物を防爆構造でない冷蔵庫あるいは冷凍庫に保管したり,袋に入れた動物の死体を焼却処分する際に爆発する.
(3)メトキシフルランでの導入はある動物種では非常に遅いため用いることができない.
(4)亜酸化窒素は助燃性を有する.
(5)ガスは作業者や他の動物に危害を及ぼす.
(6)特に笑気などは人為的に悪用される可能性がある.

推奨―
小動物(7kg以下)の安楽死にはハロセン,エンフルラン,イソフルラン,セボフルラン,メトキシフルラン,デスフルランを単独,あるいは亜酸化窒素との併用が許容される.エーテルは州及び連邦の労働健康及び安全基準に合致した適切な環境下でのみ用いられるべきである.これは条件的に使用可能である.亜酸化窒素を単独で用いてはならず,その使用にあたっては,動物の安楽死への適用に関するさらなる科学的な検討が必要である.一般的に大動物ではコストと投与の困難さのため,吸入麻酔薬は用いない.
 
二酸化炭素
 二酸化炭素(CO2)は大気中に0.04%存在し,空気より重く,ほぼ無臭の気体である.7.5%CO2は疼痛閾値を上昇させ,さらに高濃度では即効性の麻酔作用を有する53-58
 LeakeとWatersは,イヌに対する麻酔薬としてのCO2の実験的使用について報告した.30〜40%CO2と酸素により,1〜2分間で麻酔が導入でき,もがき,悪心や嘔吐は認められなかった.ネコでは60%CO2の吸入で45秒後には意識を消失し,5分以内に呼吸が停止した59.CO2での麻酔状態の特徴は,屈曲反射や眼瞼反射の消失といった外科的深麻酔状態と同じである60.意識が消失するまでの時間は80〜100%の高濃度CO2を用いれば短縮し,ラットでは12〜33秒,70%CO2と酸素の混合気体では40〜50秒で麻酔状態に至る61,62.もし,動物が速やかに麻酔状態に至る濃度に,CO2濃度が緩やかに到達する場合は,意識消失に至る時間は延長する.
 CO2は鼻粘膜の水分に溶解するため,高濃度のCO2の吸入は動物に苦痛を伴うという報告がある63-66.炭酸が生じ,鼻粘膜の痛覚受容器を刺激することによる.約50%のCO2に曝露された人は,この気体の吸入は不快なものであり,高濃度のものは有害であると報告している67,68.CO2の曝露に対するブタの嫌悪感を調べたところ,90%CO2では嫌悪反応を示したが30%では何も示さなかった69.CO2濃度を上昇させながら(1分後に33%まで達する)ラットをケージ内で曝露させたが,行動及びACTH,グルコース,コルチコステロン血漿中濃度からストレスの存在を示す証拠は認められなかった70
 二酸化炭素はマウス,ラット,モルモット,ニワトリ,ウサギなどの実験用小動物を群で安楽死させる場
5,71-76,及びブタの人道的と殺前の意識消失に用いられる22,63,64.40%CO2と約3%COの混合気体は実験的にイヌの安楽死に用いられている65.二酸化炭素はネコや77,78その他実験用小動物の安楽死に51,72,79,特別に設計された容器中で用いられている.
 1日齢のニワトリを用いた研究では,CO2が有効な安楽死の方法であることが示された.CO2の吸入は鳥類にまったく苦痛を与えず,神経の活動を抑制し,5分以内に死に至らしめた.呼吸は胚の発生中に始まるので,孵化前のニワトリは約14%の高いCO2環境下にある.したがって,孵化直後の雛及び他の種でも生後間もない個体の安楽死に用いるCO2濃度は特に高くする必要がある.60〜70%CO2に5分間の曝露が適当である73
 ミンクの研究では,高濃度のCO2は速やかに動物を死亡させるが,70%CO2では意識は消失させるが死には至らしめない80Oryctolagus 属のウサギなどの穴居性動物も,CO2の曝露に長時間耐えることができる81.穴居性動物や潜水動物は高炭酸症に耐える身体機能を有している.したがって,CO2により麻酔状態に導入し,低酸素症で動物を死亡させるには十分な濃度が必要である.

利点―
(1)CO2の速やかな鎮静,鎮痛及び麻酔効果が確立している.
(2)二酸化炭素は取り扱いが容易であり,高圧ガスボンベで購入できる.
(3)二酸化炭素は経済的,不燃性,非爆発性であり,適切な器材を用いる場合,使用者への危険性は低い.
(4)二酸化炭素は食用動物の組織中に残留しない.
(5)二酸化炭素による安楽死は,ネズミのコリン作動性マーカー82やコルチコステロン濃度83に影響を及ぼさない.

欠点―
(1)CO2は空気より重いためチャンバーに十分な量を満たさないと,よじ登ったり,頭部を高濃度帯よりもたげて,曝露されない場合がある.
(2)魚類,穴居性及び潜水ほ乳類などの動物種は,極度のCO2耐性を有する.
(3)爬虫類や両生類は呼吸速度が遅く,CO2の使用は不適切である.
(4)CO2の曝露による安楽死は他の方法よりも時間を要する61
(5)低濃度(80%未満)で意識消失を導入する場合,肺及び上部気道に障害を生ずる場合がある67,84
(6)高濃度のCO2はある種の動物には苦痛である.

推奨―
二酸化炭素は動物種によっては適切な安楽死である(表1,2).チャンバーへのCO2流量を正確に調整できる点から,ボンベに詰められた圧縮CO2は唯一推奨されるものである.ドライアイス,消火器あるいは化学反応(中和剤など)などをCO2の供給源としてはならない.異種動物は厳密に種別に隔離し,チャンバーの容量に注意する.チャンバー内の動物には,少なくとも1分間にチャンバー容量20%以上を置換する流量が最適である85.予めチャンバー内に70%あるいはそれ以上のCO2を満たして置くと,苦悶を生ずることなく速やかな意識の消失が導入できる.臨床的に死亡が確認された後,最低1分間はガスを流し続ける必要がある86.動物をチャンバーより取り出す前に死亡していることを確認することが重要である.その動物が死亡していなければ,昏睡状態のまま,他の安楽死の方法を用いる.CO2にO2を混合すると苦痛が軽減できるかについては不明である67,87.しかし,死に至る時間は延長し,意識の有無の判定が困難となる.したがって,CO2にO2を混合しても安楽死には利点がないことは明らかである87
 
窒素,アルゴン
 窒素(N2)及びアルゴン(Ar)は無色,無臭のガスで,不活性,不燃性,非爆発性である.N2は大気中に78%含まれるが,Arは1%以下である.
 安楽死には,予めN2やArを充満した密閉容器内に動物を入れるか,動物を入れてからN2やArを注入する.窒素/ArはO2を置換して低酸素症により死に至らしめる.
 Herinらは,45〜60秒で98.5%のN2濃度に達した場合,76秒でイヌの意識が消失することを示した88.脳波は平均80秒で平坦となり,動脈血圧は204秒で測定不能となった.すべてのイヌで意識が消失する前に呼吸の亢進が認められたが,疼痛を伴わずに死に至らしめる方法であると結論された.意識の消失に続いて,鳴き声,あえぎ,痙攣及び筋の震えが認められる個体がいた.5分間の曝露後,すべてのイヌが死亡した88.これらの知見はウサギ89やミンク80,90での知見と類似であった.
 1分間にチャンバー容量の39%のN2を流した場合,ラットは約3分以内に不動化し,5〜6分以内に呼吸停止した.流量の割合に関係なく,ラットが不動化し死亡する以前に,狂乱及び苦痛の兆候を示した85.このような状況で痛覚が鈍磨しているかは疑問である91
 Quine92らはN2によるイヌの安楽死におけるアセプロマジンによる精神安定効果について研究した.心電計及び脳波計の記録から,アセプロマジンを投与しない動物に比べて,前投与した動物は長時間生存することを示した.一匹のイヌでは51分間,心電計で活動電位が記録された.また,QuineはN2で意識を消失させた後,ネコやイヌを容器内から取り出して蘇生させ,N2曝露に伴う苦痛についても言及している.これらの動物をふたたび容器内に戻しても恐怖や不安を示さなかった.
 ブタ及び家禽のArに対する嫌悪の研究では,これらの動物は90%Ar+2%O2下の呼吸に耐えることが示された69,71.ブタは褒美の餌を求めて自発的にこの混合気体を充満した室内に入り,運動失調になりつつ部屋から出てきた.彼らは食事を続けるためにただちに入室した.家禽もこの混合気体が充満した部屋に入り,不動化するまで餌を食べ続けた.Arをニワトリの安楽死に用いる場合,O2濃度2%未満でArを予め充満させた容器内でニワトリを曝露させると,脳波の変化を生じ,9〜12秒で不動化した.15〜17秒後に容器から取り出したニワトリは,トサカをつまむ刺激に対して反応を示さなかった.曝露を続けると20〜24秒で痙攣を誘発した.体性知覚誘発電位は24〜34秒で消失し,脳波は57〜66秒で平坦となった.痙攣の始まりは意識が消失した後(不動化,トサカの刺激に対する反応の消失)のため,この方法はニワトリにとって人道的な安楽死の方法であるといえる93.いくつかの情報があるが,N2やArの利用についてはより多くの研究が必要である.

利点―
(1)窒素及びArは圧縮ガスで利用できる.
(2)作業者への危険性は小さい.

欠点―
(1)意識の消失は低酸素症により生じ,呼吸を刺激するため,動物に苦痛を与える場合がある.
(2)動物が死に至る前に低濃度(6%以上)の酸素に曝露されると容易に蘇生する69

推奨―
窒素及びArはある動物種(ラットなど)には苦痛を生ずる85.したがって,この方法は,速やかに酸素濃度を2%以下にすることが可能で,かつ,動物が深い鎮静あるいは麻酔状態にある時にのみ用いられる.動物が深い鎮静あるいは麻酔状態にある場合は,死に至る時間が延長することを認識すべきである.N2とArは有効ではあるが,他の安楽死の方法が望ましい.
 
一酸化炭素
 一酸化炭素(CO)は無色,無臭のガスで,10%を超えない場合は非引火性,非爆発性である.ヘモグロビンと結合してカルボキシヘモグロビンを形成し,赤血球による酸素の取り込みを阻害して致命的な低酸素症を生ずる.
 以前は,大量の安楽死を実施する際には,3つの方法によりCOを供給した,(1)蟻酸ナトリウムと硫酸の化学反応,(2)ガソリン内燃機関からアイドリング時に排出される排気ガス,(3)市販のCO高圧ガスボンベである.先の2つの方法は,他のガスが発生する,十分なCO濃度に到達しない,ガスの冷却が不十分,及び使用器材の維持に問題がある.したがって,ボンベからの圧縮COが唯一の供給源である.
 RamseyとEilmannは,8%COは40秒〜2分でモルモットを不動化させ,6分以内に死亡させると報告している94.一酸化炭素はミンク及びチンチラの安楽死に用いられている80,90.これらの動物では1分以内に不動化し,2分以内で呼吸停止,5〜7分で心停止に至る.
 イヌに6%COを吸入させ,生理学的及び行動学的特性を評価した研究で,ChalifouxとDallaireは意識消失に至る正確な時間を特定できなかった95.脳波計では意識が消失する以前に20〜25秒間,大脳皮質の異常を示した.この期間に,イヌは興奮及び鳴き声を示した.動物が苦痛を感じているかについては不明であるが,この期間に人は苦痛を感じないと報告されている96.その後の研究で,アセプロマジンによる精神安定作用は,イヌのCOによる安楽死時の行動学的及び生理学的な反応を著しく低下させることが示された97
 比較試験として,ガソリンエンジンの排気ガス中のCO及び70%CO2及び+30%O2をネコの安楽死に用いた.安楽死を3つの相に区分した.第1相は曝露の開始から臨床症状(あくび,ふらつき,振戦など)発現までの期間である.第2相は第1相の終わりから横臥まで,第3相は第2相の終わりから死亡に至るまでである54.この研究では,意識消失前の興奮はCO2+O2で最も著明であった.痙攣はいずれの方法でも第2相と3相の間で認められた.しかし,安楽死用のチャンバーを予めCO(排気ガス)で充満した場合,第3相での痙攣は認められなかった.完全な不動化に要する時間はCO2+O2(約90秒)の方がCO単独(約56秒)よりも延長した54.ブタの新生仔では,急激なCO濃度の上昇に曝露された場合,意識消失前に興奮状態が発現する場合がある.この症状は流量を減らしたり,窒素を加えることで抑制できる98
 人でのCO中毒の初期症状は頭痛,目眩,だるさである.カルボキシヘモグロビン濃度が上昇するにつれ,視力低下,耳鳴り,吐き気,進行性の鬱,錯乱及び不動化の症状が発現する99.COが脳の運動中枢を刺激するため,意識の消失は痙攣及び筋の強直を伴う.
一酸化炭素には蓄積毒性がある96.明白なCO中毒の徴候は空気中のCO濃度が0.05%まで認められず,約0.2%まで急性中毒の徴候は現れない.人は0.32%CO及び0.45%COに1時間曝露されると,それぞれ意識の消失及び死亡に至る100.一酸化炭素は毒性が高く検出が困難なため,作業者に対しきわめて危険性が高い.低濃度のCOに慢性的に曝露された場合,特に循環器系疾患や催奇形性などの健康障害が認められる100-103.人への曝露事故を予防するには,有効な排気あるいは換気システムが不可欠である.

利点―
(1)一酸化炭素は苦痛を伴わず,不安を感じさせずに意識を消失させる.
(2)COによる低酸素症は動物に意識されずに発現する.
(3)4〜6%の濃度を用いた場合,速やかに死に至る.

欠点―
(1)作業者の曝露に対する安全策を講ずる必要がある.
(2)COに触れる電気機器(照明,換気扇)は防爆構造のものが必要である.

推奨―
イヌ・ネコ及び小動物の単独あるいは大量の安楽死に用いられる一酸化炭素は,市販の圧縮COを用いること及び下記の注意を遵守することが必須である:
(1)作業者は使用方法について教育を受け,危険性及び使用制限を理解する;(2)チャンバーは高品質であり,動物を個別に隔離できる;(3)CO供給源とチャンバーは換気が良好な環境下に置くか,屋外が望ましい;(4)チャンバーは十分に照明され,作業者が動物を直接観察できる窓がある;(5)動物種(ブタの新生仔など)によってはCO濃度を徐々に上昇させても興奮することはないが98,動物をチャンバー内に入れた後,速やかに6%以上の濃度に達する流量が確保されている;及び(6)チャンバーが屋内にある場合,作業者に警報を発するCO濃度モニターが設置されている.COを使用する場合,州及び連邦の労働安全衛生基準を遵守する.
 
非吸入性薬剤
 安楽死用注射剤は,最も急速で確実な安楽死の方法である.動物に恐怖や苦痛を与えなければ,最も望ましい方法である.静脈内投与する際に保定が必要な場合には,動物に苦痛を与え,作業者に危険が及ぶ可能性があるので,鎮静,麻酔あるいは他の投与経路を考慮すべきである.狂暴な,怯えている,野生のあるいは獰猛な動物には,安楽死用薬剤を静脈内投与する前に鎮静させるか,非麻痺性の不動化薬を投与する必要がある.
 静脈内投与が実用的でない,あるいは不可能と考えられる場合には,非刺激性の安楽死用薬剤の腹腔内投与が好ましく,この場合,薬剤に神経筋遮断薬が含まれていないことを確認する.心内投与は深い鎮静,麻酔あるいは昏睡状態の動物にのみ用いられる.覚醒状態の動物に対しては投与が困難で,かつ正確に投与できるか予測不可能なため,用いることはできない.筋肉内,皮下,胸腔内,肺胞内,肝内,腎内,脾内,硬膜内及びその他の非血管内投与は,安楽死用注射剤の投与経路として適切ではない.
 腹腔内に安楽死用薬剤を投与した場合,動物は麻酔の第1及び第2ステージをゆっくりと経過する場合がある.したがって,興奮と外傷を軽減するため,静かな場所で狭いケージに収納する必要がある.
 
(以降,次号へつづく)



† 連絡責任者: 黒澤 努(大阪大学医学部動物実験施設)
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