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行政・獣医事

動物愛護管理制度の整備・充実等に関する環境省要請活動

 現行の「動物の愛護及び管理に関する法律」については,本年で施行後5年目の見直しの時期を迎えることから,本会の動物愛護福祉委員会において,この1年半の期間において法の施行状況を評価の上,今後の見直しに当たっての要点等を検討してきたところであるが,同委員会の報告結果を踏まえ,本会としての改正要望事項をとりまとめ,環境省自然環境局長への要請活動を別紙要請書により行った.
 なお,本件については,議員立法による改正を見直し,自由民主党,公明党,民主党各党の関係部会においても各党の見直しの議論が進展しているが,本会は各党の見直し小委員会(ワーキングチーム)からの出席要請を受け,毎回,意見陳述を行ってきている.自由民主党の動物愛護小委員会においては,去る3月9日小委員会委員長(北村直人衆議院議員)から動物愛護管理法の改正事項として委員長案が提示された(本誌58巻5号287頁参照)

 

【別紙要請書】
要   請   書
16日獣発第174号
平成17年3月7日
環境省自然環境局長
 小野寺 浩 様
社団法人 日本獣医師会
会 長 五十嵐幸男
動物愛護管理制度の整備・充実等について
 国民生活の質の向上が図られ,自然との共生.なかでも人と動物の共生社会の構築が国民的課題とされる中,動物愛護管理制度の一層の充実が求められております.
 このような中で,現行の動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)については,施行後5年を迎え,今後,見直しを含む所要の措置が講ぜられることとなっております.
 本会においては,このような時期を迎えるに当たり,動物愛護管理法の施行状況を評価の上,今後における動物愛護管理制度のあり方をこの1年あまりの間検討し,見直しに当たっての要点を別添報告書のとおりとりまとめたところであります.
 つきましては,動物愛護管理法の見直しに当たっては,動物愛護管理制度の一層の整備・充実が図られるよう,下記事項の実現について特段のご高配の程お願いいたします.
1 動物愛護管理法の見直し
 動物愛護管理法の見直しに当たっては,同法の総則において定める「動物の所有者(占有者)及び動物取扱業の責務規程」の遵守を基本に据え,【別紙】に示した改正事項の実現を図られたいこと.
2 本省及び自然保護事務所への獣医師専門職の配属の促進
 自然環境保全対策を総合的に推進する上で,従前からの動物愛護・管理対策や野生動物保護対策に加え,獣医師の職域に深く関わる野生鳥獣の感染症対策,さらには,鳥獣被害防止を含む外来動物対策の充実・整備を図ることが求められている.本省自然環境局及び地方自然保護事務所の自然保護官への獣医師専門職の積極的配属とこのための獣医師資格者の継続的採用を推進されたいこと.

 

【別 紙】
社団法人 日本獣医師会
「動物の愛護及び管理に関する法律」改正要望事項
1 動物の個体識別による所有の明示の義務化(第5条関係)
2 国,都道府県等における動物愛護施策取組み体制の整備(第7条及び第17条関係)
(1) 動物愛護・管理対策基本計画制度の創設
(2) 都道府県等の動物愛護担当職員の職務制限の明確化と必置の推進
3 動物取扱業に対する規制措置の整備(第8条及び第11条関係)
(1) 動物取扱業の登録制への移行と更新制の導入
(2) 動物販売時における獣医師発行による健康証明書の添付の義務化
4 危険動物対応の強化(第16条関係)
危険動物飼養について許可制の導入
5 引き取り犬・猫の譲渡の推進と引き取り対象動物種の拡大(第18条関係)
6 実験動物福祉規定の整備(第24条)
 実験動物の利用に際しての3R(代替法の採用,使用数の削減,苦痛の軽減)概念の導入等の関係規定の整備
7 学校飼育動物の適正飼養の推進(新設)
 学校や福祉施設等で飼養する動物に関する適正飼育に関する規程の整備

 

日本獣医師会動物愛護福祉委員会報告
動物愛護・管理制度の充実・整備について
(「動物の愛護及び管理に関する法律」の改正に向けて)
平成16年10月
社団法人 日本獣医師会
動物愛護・管理制度の充実・整備について
(「動物の愛護及び管理に関する法律」の改正に向けて)
 平成11年に動物の保護及び管理に関する法律が改正され,法律の名称が,動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動愛法」という.)に改称されるとともに,「動物を命あるものとして,人と動物の共生に配慮した適正な取り扱いを行うべき旨」の基本原則の下で,動物の愛護及び保護・管理に関する諸制度の整備が行われた.
 動愛法の附則においては,施行後5年を目途として,法の施行状況について検討を加え,その結果に基づき見直し等の所要の措置を講じることとされている.
 わが国においては,国民生活における家庭動物の位置付けが一層高まり,徐々に動物愛護思想の普及が進展してきているが,一方で,動愛法施行後においても新聞報道等に見られるように,依然として劣悪な環境下での動物飼養や動物虐待事件等が後を絶たず,動愛法に対する国民の理解がいまだ十分でないことが指摘されるとともに,法に基づく動物愛護管理対策が十分に機能していない点も見受けられる.
 動物医療の専門家であり,動物の保健衛生指導等について社会的責任を有する獣医師が組織する公益法人である日本獣医師会は,動愛法の見直しを目前に控え,その施行状況を評価し,わが国における動物愛護法制のあり方について再検討の上,所要の整備事項を動愛法の見直しに反映させることが重要であるとの考えの下,本会の動物愛護福祉委員会(委員長:太田光明・麻布大学獣医学部教授)において,本件に関する検討を行い,今後整備を要する事項を以下のとおり取りまとめた.
1 動物の個体識別による所有の明示の徹底
 現行法で規定する動物の所有者がその所有する動物について自己の所有に係るものであることを明らかにすること(以下「所有の明示」という.)を義務化するとともに,その方法を明確に示すことが必要である.(第5条関係)
【理 由】
(1) 動物愛護の終生飼養と適正飼養を推進するためには,所有の明示によって,所有者の責任を明確にすることが重要であるが,現行の規定では努力義務とされているため,徹底されていない.
(2) 現行規定においては,飼育動物等の遺棄が禁止されているが,所有の明示が徹底されていないことから,遺棄された動物の所有者の特定が困難であり,遺棄禁止規定が機能しない.
(3) また,動物の予想外の行動による逸走・迷子への対応,緊急災害時の動物救護,感染症による人の健康被害の発生に備えたトレーサビリティーの確保等のためにも,確実な個体識別法による所有の明示が必要である.
 なお所有の明示のための個体識別の方法としては,(1)確実に識別できること,(2)容易に脱落・消失せず,取り外しができない永久的なものであることが必要であることから,家庭動物については,個体識別器具として国際標準化されているマイクロチップを使用することを基本とすべきである.
2 国,都道府県等における動物愛護施策の取り組み体制の整備
(1) 都道府県または指定都市(以下「都道府県等」という.)における動物の愛護及び管理の推進への取り組みの充実を図るために,国は動物の愛護及び管理の推進のための基本的な指針(以下「基本指針」という.)を策定し,都道府県は「基本指針」に基づいて,自らの施策を推進するための具体的な計画(以下「都道府県計画」という.)を定める基本計画制度を創設し,「都道府県計画」に基づいて実施する措置への国の支援を規定する必要がある.(第7条関係).
(2) 「基本指針」及び「都道府県計画」においては,動物の健康の保持ならびに動物の人への迷惑防止に関する措置の実施に関する事項を定めるとともに,動物愛護推進員の活動内容,動物愛護推進協議会の職務等を具体的に定め,その活用を図る必要がある.また,「都道府県計画」においては,各地域における大規模災害時の動物救援活動に関する具体的事項についても定める必要がある(第7条,第21条,第22条関係).
(3) 都道府県等の動物愛護担当職員の職務を明確に定めるとともに,これを必置化する必要がある(第17条関係).
【理 由】
(1) 動物愛護及び管理の推進は,都道府県等を中心に推進されることが期待され,現行法においては,動物の健康及び安全の保持ならびに動物の人への迷惑防止に係る措置については,都道府県等がそれぞれの地域の実情に応じた条例を制定し,条例に基づいて必要な措置を講ずることができる旨規定されているが,その取り組みは十分ではない.
(2) このような状況を改善するためにも,国が「基本指針」を定め,都道府県等において施策推進のための具体的な計画を策定し,「都道府県計画」に基づいて関連対策を計画的に実施する必要がある.また,施策を円滑に推進するためにも,国は都道府県等に対して予算面での助成を含む支援体制を構築する必要がある.
(3) 動物愛護推進員,動物愛護推進協議会等は,それぞれの地域における動物愛護及び管理を推進する上で重要な役割を担っているが,多くの都道府県等においてはいまだ設置されておらず,また設置されていても十分に活用されていないのが実情である.そこで,「基本指針」,「都道府県計画」においては,これらの活動内容等について具体的に定め,その活性化を図る必要がある.また,「都道府県計画」においては,各地区の実情を踏まえ,大規模災害時の動物救護活動に関する具体的な内容を定める必要がある.
(4) 都道府県等における動物の愛護及び管理対策の推進の要である動物愛護担当職員について,その職務の範囲と権限を明確化するとともに,すべての都道府県等に必置する必要がある.
3 動物取扱業に対する規制措置の整備
 現行法においては,規制の対象となる動物取扱業を営もうとする者に届出を義務付けているが,[1]動物取扱業者の範囲を現状にあわせて拡大するとともに,[2]届出制を登録制に移行した上で,[2]営業登録の更新制度を設け,[3]登録及び更新の条件として動物取扱責任者を置くことを義務付けるとともに,[4]登録及び更新時における動物取扱責任者に対する定期的な研修,[5]動物の販売時における獣医師の診断による健康証明書の添付を義務付ける等の措置を講じる必要がある(第8条,第11条関係).
 なお,乗馬クラブ等の畜産農業関係施設とは異なった性格を有する施設等についても,近年の動物に対する国民感情に配慮し,動物福祉の観点からの規制のあり方を検討する必要がある.
【理 由】
(1) 動物飼養を巡る状況は社会情勢に応じて変化し,平成11年における本法の改正当時には想定されなかった業態の動物取扱業が出現しているため,これらについても規制の対象とする必要がある.
(2) 現行法においては,動物取扱業の業務内容や,その従業員の資質等を含めた指導等が十分に行われる仕組みとなっていないため,問題が生じている事例も見受けられることから,動物取扱業に対して動物愛護に関する知識を普及し,一定水準の動物飼養管理を行わせるうえで,動物取扱業の届出制を登録制に改め,明確な登録基準を定める必要がある.
(3) さらに,登録の更新制度を取り入れるとともに,動物取扱に関する責任者の設置を義務付け,登録及び更新時等に定期的に責任者への研修等を実施することにより,動物取扱業における動物飼養の技術水準の確保と適正な飼養管理(遺伝性疾患を考慮した交配,感染症の防御等を含む)を担保することが可能となり,ひいては家庭動物販売業等の動物取扱業に対する社会の信頼確保にもつながるものである.
4 危険動物対応の強化
 現行法においては,人の生命,身体または財産に害を加える恐れがある動物(以下「危険動物」という.)については,都道府県等が条例により所有者等の遵守事項を個別に定めること等ができるとされているが,これらの動物の飼育について全国一律の許可制に改める必要がある(第16条関係).
【理 由】
 現行法においては,危険動物の飼養保管は,条例により許可制とすることができるとされているが,遺棄された危険動物が各地で問題視されているにもかかわらず,規制条例を制定していない都道府県等がある.これらの動物の危険度は地域によって変化するものではないことから,全国一律の規制とする必要がある.
5 都道府県等が引き取る犬・猫の譲渡の推進と引き取り対象動物種の拡大
(1) 現行法で規定する都道府県等による引き取りについて,その対象となる動物種の範囲を拡大する必要がある(第18条関係).
(2) 所有者からの求めに応じて都道府県等が引き取った犬・猫を新たな飼い主に譲渡する機会を設けることについての都道府県等の努力義務に関する規定を設ける必要がある(第18条関係).
【理 由】
(1) 近年,エキゾチックアニマル等が一般に飼育されるようになる等,飼育動物の種類が拡大する一方,飼育できなくなって遺棄されたり,逸走した多種多様な動物の引き取り需要が増大しているにもかかわらず,都道府県等によるこれらの動物への対応は十分でない.
(2) いったん飼育を開始した動物は終生飼育することが所有者等の責務であることは原則であるものの,引き取りを拒否された場合,新たな遺棄につながる可能性も否めないため,人に危害を加える恐れのある動物及び環境に大きな影響をもたらす恐れのある動物等については,犬及び猫以外のものであっても都道府県等による引き取りを義務付けるべきである.
(3) 引き取った動物のうち犬・猫等家庭動物として飼育することが適当と思われる動物については,譲渡会を開催する,インターネットを使用した飼育希望者と引き取り動物のマッチングシステムを開発する等,国民感情に配慮して,処分する前に可能なかぎり新たな飼い主に譲渡する機会を設けるような工夫,努力が必要である.
6 実験動物福祉に関する規定の整備
 現行法における動物を科学上の利用に供する場合の方法及び事後処置についての規定に,3Rの考え方(Replacement=代替法の採用,Reduction=使用数の削減,Refinement=苦痛の軽減)を導入するとともに,実験動物施設における動物実験指針の制定,動物実験を指導・監督する動物実験委員会の必置等に関する規制を設ける必要がある(第24条関係).
【理 由】
 現行法においては,動物を科学上の利用に供する場合の方法及び事後処置については,できるかぎり苦痛を与えない方法によって行わなければならない旨の規定に留まっているが,昨今の動物の愛護及び福祉に関する諸外国における取り組みの状況等を踏まえ,3Rの考え方を積極的に導入する必要がある.
7 学校飼育動物の適正飼養の推進
 学校や福祉施設において飼育する動物(以下「学校飼育動物」という.)の適正飼養に関する規定を整備する必要がある.
【理 由】
 前回の法改正の際,衆参両院において,学校飼育動物の適正な飼養を推進する旨の附帯決議がなされ,これを受けて制定された「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」においては,学校飼育動物の飼養保管に関する規定が定められたが,現状は,その趣旨が動物飼養現場において十分に生かされているとは言い難い.
 同基準を実効性の伴ったものとするためにも,都道府県教育委員会の主導により,獣医師の指導の下で学校飼育動物が適正に飼養管理されるよう所要の規定を充実・整備する必要がある.
日本獣医師会動物愛護福祉委員会委員
委員長
太田 光明(麻布大学獣医学部教授)
副委員長
山口 安夫(社団法人日本動物保護管理協会事務局長)
会田 保彦(財団法人日本動物愛護協会理事)
池田 忠生(社団法人東京都獣医師会理事)
井本 史夫(社団法人横浜市獣医師会会員)
高橋  徹(社団法人北海道獣医師会理事)
藤原 新一(社団法人長崎県獣医師会副会長)
宮田 勝重(社団法人東京都獣医師会会員)
山口千津子(社団法人日本動物福祉協会調査員)