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(独)医薬品医療機器総合機構においてオーファンドラッグ
(希少疾病用医薬品等)開発振興業務を1年間担当して
松岡隆介†(厚生労働省横浜検疫所輸入食品 ・検疫検査センター審査指導課長・東京都獣医師会会員) |
1 (独)医薬品医療機器総合機構の設立 平成16年4月1日に,国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター(審査センター),医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(医薬品機構)と医療機器センターの一部が統合され,新たに「独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Device Agency : PMDA)(総合機構)」が設立された.総合機構は,医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害の救済に関する業務,薬事法に基づく医薬品や医療機器などの審査関連業務,その安全対策業務及び,研究開発振興業務を実施し,医薬品や医療機器などの開発から使用までの全般に関わっている.非公務員型の,独立行政法人として,効率的な経営手法の導入に努め,不断の業務改善を進めている.業務の中立性,公平性,透明性確保の担保のために外部の委員を入れた委員会を設置している.具体的には医薬品審査の迅速化,安全対策の強化を柱とする「第一期(2004〜08年度)中期目標・計画」の実現を目標としている.審査関連業務については,審査スタッフの拡充,質の向上,新たな優先治験相談・審査制度により新薬の審査事務処理期間の短縮を,安全対策においては,副作用情報の新たな解析方法「データマイニング法」,市販後案安全対策の重点化を目的とした「情報収集拠点医療機関ネットワーク」の確立,健康被害救済業務では請求から支給・不支給決定までの標準的事務処理期間の短縮を図る等の方針を示している.私の所属していた研究開発振興業務は,平成17年4月1日に大阪府北部に開発中の「彩都」に設立された医薬基盤研究所へ移管された. 総合機構の職員数は,現在300名弱であり,さらに増員を図っているが,手数料に見合うコストパフォーマンスを目指している.技術系の職員として審査関連の部局を中心に10名程度の獣医師の職員が配属されている.私は厚生労働省からの出向者であるが,その他には毒性学等を専門とする国の試験研究機関からの出向者がおり,今後は17年4月施行の改正薬事法をふまえ,業務の拡充に伴う新規採用者の増加により,獣医師の職員も増えるものと思われる. 2 希少疾病用医薬品等(オーファンドラッグ)開発振興の業務 私の担当していた分野は,オーファンドラッグの開発振興である.オーファン(Orphan)とは孤児の意味で,親のいない子供たちに対して国等が特別の努力をして育成してあげるという観点から米国FDAで制度が発足し,日本がその10年後,欧州連合は2000年から始まった.医療上の必要性が高いものの,対象患者数が少ない難病等についての医薬品・医療機器は,各製薬企業は研究開発投資の回収が難しいため,開発の可能性の高いものに対し国が指定し,少しでもはやく医療現場に届くように研究開発を支援する制度が望まれていた.平成3年度に旧厚生省は,関係法令の改正について検討を開始し,平成5年10月制度発足当時から実務を行っている.具体的には開発支援のための研究費等を助成する助成金交付事業と,開発試験や承認申請のための資料整備についての指導・助言事業の2本柱である.オーファンドラッグに指定される疾病は,多発性骨髄腫等抗悪性腫瘍薬,HIV/AIDS治療薬,クローン病等各種難病治療薬,ハンセン病,臓器移植,MRSA院内感染,人工心臓等多様な医療ニーズに対応しており,獣医学の専門を大きく超え,内容も臨床試験のデザイン,非臨床試験,品質,申請資料のまとめ方と多岐にわたる知識が求められている.また,医薬品の開発の流れを適格につかみつつ,同じ組織の中で業務を行っている審査関係の部署と連携をとる必要とされた. 相談業務については年間80〜100件程度応じている.指導・助言と,審査部門の実施している対面助言を組み合わせ質の高い指導・助言により,必要な各企業が,スムーズな申請,承認を経て,医療現場へ有効でかつ安全なオーファンドラッグが供給されることを期待しているところである. 3 国の公衆衛生行政と獣医師 厚生労働省関連の行政機関に配属される獣医師は,食品衛生を中心に感染症対策,薬事業行政と活躍する分野は広がりつつあり,厚生労働本省,地方厚生局,検疫所における食品衛生監視員または検疫官として,港湾,空港等での輸入食品の検査または検疫業務等に従事されている.基礎獣医学,応用獣医学を含めて,すべての分野がまんべんなく役立っていると思われる.公衆衛生学,疫学,微生物学,伝染病学,生理学,解剖学,生物統計学,病理学,生化学等が基礎となり,医師,薬剤師,理工学系,法律系,経済系,数学系,事務系等,さらに食品衛生監視では,上記の職種以外の方以外にも,水産学,畜産学,農芸化学,栄養学,衛生学等さまざまな職種の方と協力しながら業務を進めていく.組織の一員として,上司,部下間の報告,連絡,相談等の連携を繰り返し行う必要がある. 4 お わ り に 私は,厚生労働省の行政職であり,17年4月からは,輸入食品の試験検査の信頼性確保という全く異なる業務につき,将来的に大きなことがいえるわけではないが,報酬もお世辞にもよいわけではない.本省勤務等の際は徹夜になる場合もあるが国民のために少しでも寄与し,国民の健康を最前線で守りたいという気持ちで,獣医公衆衛生の向上に役立てればと思っている. |
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† 連絡責任者: | 松岡隆介(横浜検疫所輸入食品・検疫検査センター審査指導課) 〒236-0011 横浜市金沢区長浜107-8 TEL 045-701-9230 FAX 045-786-1967 |
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