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診療室

臨床獣医師のひとりごと

高橋義明(ペットクリニックハレルヤ副院長・福岡県獣医師会会員)

 北海道で生まれ育った私が何故か現在,遠く離れた福岡で勤務医をしている.小さな頃から多くの動物を飼ってきたが,獣医師を志すきっかけになったのは小学生の時に飼っていたシャム猫である.咬傷による頭部の膿瘍から体調を崩し,だんだんと痩せてついには亡くなったのだが,今思えば猫白血病ウイルスなどの感染症に罹患していたのかもしれない.自分の飼っていた大切な猫の死に直面し,『自分で動物の命を救いたい』そんな単純だけど強い思いが獣医師の道へと背中を押した.その思いは中学生ですでにほぼ固まり,高校入学の時にはどの大学へ行くかを考えていた.地元北海道にも獣医学科の大学があるにもかかわらず,紆余曲折を経て南国の鹿児島大学へと進路をとった.見るもの聞くものすべてが北海道とは違い,そのギャップに驚きながらも獣医学を学べる嬉しさに心踊った.畜産の盛んな鹿児島という土地柄,牛や豚,馬などの大動物臨床の機会も多くそれもまた興味深いものであった.良き恩師,先輩,同級生,後輩に恵まれつつ桜島の火山灰にまみれながら無事卒業,そして念願の獣医師となる.目標達成かに思えたが,実はここからが大変であることをこの時はまだ知らなかった.卒業後は北海道へ戻り,とある動物病院で2年間ほどお世話になったが,実際の臨床に立ってみると獣医師になりたての身では動物の命を救うなんておこがましいのである.逆に動物たちに教えられることばかりであった.その後,九州は福岡へ移り現在の病院で小動物臨床歴12年目に入るが,最近になってようやく『動物の命を救う』ことにおいて少しだけ手助けできるようになったのではないかと思う.
 近年の小動物臨床は専門の時代,つまりスペシャリストの時代になりつつあるように思う.整形外科,眼科,循環器科,腫瘍科など今後ますます診療における細分化が進むのではないだろうか.事実,各分野の学会や研究会では多くの認定医も輩出されている.飼い主がわれわれ臨床獣医師に求める医療レベルは確実に高くなってきている.その要望に応えるためには,専門分化の傾向は自然の流れなのかもしれない.飼い主が求める高度医療の実践には,臨床獣医師のレベルアップとともに十分なインフォームド・コンセントもまた必要不可欠であると強く感じる.最善の治療をしたにもかかわらず不幸な結果に終わってしまった場合,インフォームド・コンセントが十分になされていれば感謝されるが,不十分であった場合,逆の結果を招くこともある.動物の存在がすでに家族の一員となっている昨今,飼い主が求める医療のレベルや質は今後も高くなっていくと思う.
 私自身も一般的な診療の他に自分の得意分野を持つ必要性があると考え,血液及び腫瘍性疾患に力点を置いてる.今後は各分野の認定医などの先生方が,各地域の中核をなす存在になると思われる.できれば自分もその中核的存在に近付きたいと思う.道はまだまだ続く.

高橋義明  
―略 歴―


1994年 鹿児島大学卒業
  北海道岩見沢市にて研修医
1996年 福岡市にて勤務医
現在 ペットクリニック ハレルヤ副院長

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† 連絡責任者: 高橋義明(ペットクリニックハレルヤ)
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