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行政・獣医事

家畜防疫・衛生及び小動物医療体制整備促進の
農水省要請活動及び農水省における
小動物医療対策の検討状況

1.農林水産省要請活動
(1) 動物医療に係る制度運営等に関しては,地区獣医師大会の決議要望事項,本会専門委員会等全体会議の検討結果,関係職域団体からの要請等をふまえ,関係省庁の施策への反映を目指し要請活動を行っている.
 今回,農林水産省に対し,動物医療提供体制の整備促進を要する事項として,[1]家畜防疫・衛生対策及び [2]小動物医療提供体制の整備・充実に関し,【別紙1】を内容とする要請活動を行った.
 農林水産省からは,中川 坦消費・安全局長,栗本
まさ子衛生管理課長,矢野隆司獣医事班課長補佐,大石弘司小動物獣医療班課長補佐に出席いただき,本会からは,五十嵐会長,辻副会長,大森専務理事らが対応した.
(2) 中川消費・安全局長からは,家畜衛生対策の推進に当たっては,逐次,法整備と指針制定に対処してきた.獣医師,獣医師会とのネットワークの構築の重要性は十分認識している.今後とも獣医師会との協力関係が不可欠であり全面的協力をお願いしたい.小動物医療対策については,専管の担当ポストを設置し,また,専門家による検討会を立ち上げ先月から検討を開始した.日本獣医師会の要請については,すでに対応してきているものもあるが,十分検討し可能なところからできるだけ素早く,また,検討を要する課題については時間をかけて対応に努めたい.
 栗本衛生管理課長からは,家畜防疫員の民間任命については現行制度においても対応可能と理解している.都道府県に誤解があるのであれば理解を求めていきたい.家畜保健衛生所整備については,要請の内容は法改正を要する事項であり,全体としてどのような対応がよいのか,慎重に検討したい.獣医師手当については現状で医師の手当と著しく均衡を欠いているとは考えていない.小動物医療対策については検討会の検討経過をふまえつつ,今後とも日本獣医師会と意見調整を図りたい.旨等の見解が示された.
 
2.農水省における小動物医療対策検討状況
(1) 小動物医療対策については,これまで念願であった小動物医療対策を専管する小動物獣医療班が衛生管理課に設置されたが(会報第57巻第12号757頁参照),本会においては小動物医療提供体制の計画的整備の推進を実現するためには獣医療法に基づき国が定める「獣医療体制整備基本方針」の見直しが必要との立場から,今回,【別紙1】の記の2に掲げる事項についての整備目標制定の検討を要請した.農林水産省においては,小動物医療を取り巻く情勢を専門的見地から分析し,課題に対する対策を検討するため,学識経験者からなる検討会を設置し検討を開始した(【別紙2及び3】).
(2) 検討会は,1月末に第1回が開催され7月をめどに報告のとりまとめを行うこととされている.検討会委員のうち,小動物医療臨床分野については,本会から推薦した候補者のうち3名の方(中川秀樹(日本獣医師会理事・横浜市獣医師会会長),岡本有史(日本獣医師会理事・日本小動物獣医師会副会長),細井戸大成(大阪市獣医師会副会長・日本動物病院福祉協会専務理事))が検討会委員に委嘱されている.
 第2回の検討会は,4月上旬開催予定,会議は公開で開催され傍聴が可能とされている.

 

【別紙1】
要  請  書
16日獣発第223号
平成17年2月4日
農林水産省消費・安全局長
中川 坦 様
社団法人 日本獣医師会
会 長 五十嵐幸男
動物医療提供体制の整備促進について
 
 昨今の社会経済,国民生活を巡る情勢をみると,人と動物の共通感染症(共通感染症)の発生予防やまん延の防止,医薬品の適正使用等を通じての畜水産食品の安全性の確保,更には,海外からの動物感染症の侵入防止体制の整備・強化が課題とされる一方,人と動物の共生社会の構築が志向される中,犬,猫等の家庭動物の保健衛生の向上,更には動物愛護・福祉対策を推進する上で小動物医療提供体制の整備が求められてきております.
 これら諸対策の担い手は,国・地方公共団体の公務員獣医師,産業動物・小動物診療獣医師,農業団体・民間会社・大学・研究機関等の勤務獣医師であります.
 つきましては,家畜防疫・衛生に係る危機管理対策及び小動物医療提供体制の整備・充実に関し,下記事項の実現につき特段のご尽力を賜りたく要請します.
 
 
1 家畜防疫・衛生対策の整備・充実
(1) 悪性家畜伝染病の広域発生等に備えた地域体制の整備
 家畜防疫を効果的に推進する体制を整備するため,逐次法整備が行われるとともに,「家畜防疫を総合的に推進するための指針」をはじめ各般の「特定家畜伝染病防疫指針」等が定められているところであるが,引き続き,獣医師が組織する団体としての獣医師会及び産業動物診療獣医師との連携の下で地域防疫の円滑な推進が図られるよう,次の事項について検討願いたいこと.
ア. 「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」の施行に伴い,家畜防疫員の任命は都道府県職員に限定されたが,獣医師会及び産業動物診療獣医師との連携による地域防疫推進体制の整備のため,獣医師を都道府県非常勤職員に採用すること等による家畜防疫員の確保
イ. 国,都道府県関係機関と獣医師会との間の防疫情報等のネットワーク化と都道府県関係機関及び獣医師会による地域防疫推進会議の推進
ウ. 国,都道府県関係機関,獣医師会等関係団体等による全国及びブロック単位での家畜防疫実働演習の継続実施による初動防疫体制の点検整備
エ. 防疫活動に従事する公務員獣医師及び診療獣医師に対する共通感染症の感染防護措置の徹底
オ. 家畜伝染病予防事業等の推進に当たり都道府県の防疫対策に支援・協力する診療獣医師の獣医師手当について,医師等医療関係者の同種事業の処遇と均衡を欠くことのないよう引き続き配慮
(2) 都道府県家畜保健衛生所の組織・機能の拡充・整備
 地域畜産振興推進の一環として家畜防疫対策や衛生指導業務を担うとされている家畜保健衛生所については,死亡牛の検査や共通感染症対策等へ業務範囲が拡大する等社会的使命とともにその職責が高まってきている.
 一方,家畜保健衛生所については,行財政改革の一環として再編統合が進められているが,家畜保健衛生所を家畜防疫対策に加え共通感染症対策,食の安全安心対策,獣医事・薬事対策を含め地域の動物衛生対策を担う中核的機関として位置づけるため,家畜保健衛生所法を改正の上,名称を「動物保健衛生所」に改称するとともに,その組織・機能の拡充・整備を願いたいこと.

2 小動物医療提供体制の整備・充実
 犬,猫等の家庭動物の飼育が普及する一方,獣医学系大学卒業者の半数が継続して小動物診療分野に就業.また,小動物医療補助業の社会進出が見られるとおり,小動物医療に対する需要と期待が高まる中で,小動物医療については,臨床技術の高度化,多様化.更には適正化等の質の向上対策が課題となっている.
 ついては,獣医療法に基づき国が定める「獣医療体制整備基本方針」に新たに次の事項に係る整備目標を定めること等により,小動物医療提供体制の計画的整備を推進願いたいこと.
(1) 獣医師法が求める卒後臨床研修及び生涯研修等獣医師に対する研修実施体制の体系的整備
(2) 動物臨床技術の高度化,多様化並びに専門分化等の需要の動向に対応した獣医師専門医制度の創設及び高度動物医療,夜間・救急診療体制の整備等の診療機関の連携体制の整備
(3) 動物医療補助業に対する資格制度の創設を含む法規制とその健全育成の在り方の検討・整備
(4) 獣医学生の臨床実務教育における飼育動物診療への関与の在り方の検討
(5) 緊急災害時の動物救護対策の在り方の検討
(6) 家庭動物用飼料の品質確保対策と獣医師専用処方食(療法食)の表示等流通の在り方の検討

 

【別紙2】
小動物獣医療に関する検討会開催要領
 
第1 趣  旨
 近年の少子化,一人暮らしの増加等により家庭における伴侶動物の存在意義が変化・増大していること,飼育動物の種類も代表的な犬,猫,小鳥に加え,げっ歯類や爬虫類など多種多様なものとなっていることから,小動物臨床獣医療に対する社会のニーズの高度化,多様化が進んでいる.
 このような中,現在の小動物獣医療を取り巻く情勢につき専門的な見地から分析を行い,今後検討が必要な課題を洗い出し,その対策を講じることとした.
 このため,課題に対する対応策を総合的に取りまとめることを目的として,小動物獣医療に見識,造詣の深い学識経験者等からなる検討会を開催することとする.
第2 検討事項
 小動物獣医療の適正な提供に資するため,現行の小動物獣医療の課題とその対応策等について検討する.
第3 組  織
1 検討会は,委員11人以内で組織する.
2 委員の任期は検討が終了するまでの間とする.
3 検討会には座長及び座長代理を置く.
4 座長は,委員の互選により選任し,座長代理は,委員のうちから座長が指名する.
5 座長代理は,座長を補佐するとともに,座長が出席できない場合等は,その職務を代理する.
6 検討会は,必要があると認めるときは,その下に作業部会を置くことができ,その構成員は,座長が指名する.
第4 運  営
1 検討会は,座長が運営し,全体を総括する.
2 検討会は,原則公開とする.
3 検討会は,必要があると認めるときは,関係者の出席を求め,意見を聴くことができる.
4 座長は,本要領に規定していない事項については,検討会委員の了承を得た上でその取扱いを決定するものとする.
第5 そ の 他
 検討会の庶務は,農林水産省消費・安全局衛生管理課が行う.

 

【別紙3】
小動物獣医療に関する検討会委員名簿
 
伊藤 伸彦  北里大学獣医畜産学部獣医学科教授
岡本 有史  開業獣医師
佐々木伸雄  東京大学大学院農学生命科学研究科教授
塩谷  勝  東京都産業労働局農林水産部食料安全室課長補佐
島田 壽子  協和綜合法律事務所弁護土
中川 秀樹  開業獣医師
細井戸大成  開業獣医師
森田 邦雄  (財)日本冷凍食品検査協会常務理事
矢ヶ崎忠夫  (社)日本動物用医薬品協会専務理事
山崎 恵子  ペット研究会「互」主宰
若尾 義人  麻布大学獣医学部獣医学科教授