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陸軍獣医部の巨星 宮本三七郎先生を偲ぶ
五十嵐幸男(日本獣医師会会長) |
陸軍獣医部の逸材とし敬仰された宮本獣医中将が戦病死されて早や60年の歳月が流れた.筆者は1938年陸軍獣医学校乙種学生時代直接魂の教育を受けた者の一人として今日でも閣下の英姿が眼を離れない. ことに白河軍馬補充部の牧野で衛生学の野外実習指導を受けた時教官は急に体調の不良を訴えられたが牧野を学生とともに行動し,疼痛がおこると牧野に仰臥し休み,疼痛が和らぐとまた学生と行動をともにする状況を繰り返し,放牧馬の採食する草の種類とその量を調査し,その全量を衛生学教室で分析する作業を進められた教官としての責任感と忠実な実験を進める態度は正に心の教育ともなり科学者としての真摯な態度が今日なお脳裏に鮮明に浮んで来る.閣下は1892年茨城県潮来町にご誕生.水戸藩の儒者で勤王の志士水雲氏を曾祖とする名門の出身で長じて佐原中学より第三高等学校,東京大学獣医学科を経て陸軍獣医部将校勤務に服し,この間陸軍獣医学校教官,幹事,研究部長,陸軍省軍務局課員を経て北支方面軍獣医部長の栄職につかれご活躍中のところ不幸にして病魔の侵すところとなり1943年53歳にして戦病死された.故宮本中将ご生存中のご活躍は博学にして行動性の軍政手腕も具有せられ陸軍の科学勲功に対し「陸軍技術有効章甲」を受賞.1957年には日本草地研究会長より牧野草類の飼料科学面の研究創始者として第一回の本会賞を追贈されている.また植物学の造詣も深く有毒植物に関する著書も残っている.1949年には「馬の骨軟症に関する研究」で日本農学賞も授与されている.さらに筆者の印象に深く残っている業績として閣下が食糧事情不良の中で雑草から作り出す栄養豊富な「ちぐさパン」とか茶殻献納運動に関連し馬の飼料化の問題等に広汎多岐にわたる業績が思い出される.閣下が生涯をかけて研究完成した遺品の一部約40点が当時陸軍省大講堂に展示され東條大将,土肥原大将をはじめ多くの将星が来場参加したとの記録もあり,その展示の主なものとして軍用動物の栄養剤,健馬剤,圧搾馬糧,茶殻利用,塵芥利用,繊維化酵素利用,雑草の食糧化,加工蛹,愛馬褥,牛糞から良質セメント抽出,アンドレス,トリパノール,リクゾールなどの医薬品,防毒剤等があり軍陣獣医学の輝かしい成果といえる.あらためて第二の宮本閣下出でよと叫びたい.ちなみに元日本小動物獣医師会長宮本 讓先生は閣下の次男であることを申し添え稿を終えたい. |