馬耳東風

 
 またまた正月を迎えることとなった.子供の頃「♪松竹ひっくり返して大騒ぎ〜♪」と歌った頃が懐かしい.今では「正月は冥土の旅の一里塚嬉しくもあり嬉しくもなし」が実感できる年になっている.今の若い人は不思議に思うかも知れないが,昔は日本国中皆一斉に正月ごとに年を取ることになっていたからだ.だから生まれた年を聞けば年齢がわかったものだ.今のように誕生日まで聞かないと正確な年齢がわからないことはなかった.したがって,生まれ年の干支には今以上の親近感があったものだ.
 さて,今年は酉年,正確には乙酉である.酉はトリと読み十二支では鶏を当てているが,本来酉はサンズイをつけたら酒で,醸造する器あるいは酒を入れる器を意味する象形文字である.特にカメのなかに留まっている麹の発酵を表す意味があり,中に醸し出されている新しい勢力の爆発を暗示している.そこで,昔からこの年には革命が起こったり,新しい勢力がつくられたりするのだという.最も近い乙酉の年は今から60年前で1945年つまり昭和20年で,世界初の原子爆弾が2発も日本に落とされ,日本が無条件降伏をした年である.
 1945年と言えば60年前とすぐわかるが,昭和20年と言っても今から何年前だったのかすぐにはピンと来ない.同じ乙酉の年で大阪の豪商淀屋辰五郎が追放されたのが宝永2年と聞いて今から何年前のことかサッとおわかりの方は何人おられるだろうか.宝永2年は1705年で 300年前のことである.還暦(60年)の整数倍で徳川時代の前半だから 300年前だろうと推測された方は偉い.それはともかく,年号表記は年数計算が実にややこしい.もう亡くなったが私の母は明治生まれで,年齢を人に聞かれたり書類に記載するたびに息子の私でさえ数えるのに苦労したものだ.明治は遠くなりにけりというが,高々百年前後の話である.警視庁の発足は明治14年であるが今年で何年になるかおわかりだろうか.年号表記の年は何年前か実にわかりにくい.有名な壬申の乱は壬申の年であることは間違いないが,弘文元年だと言われてもさて何年前の事だかさっぱりわからない.
 わが国の公文書はすべて年号記載を義務づけている.西暦では受け付けてくれない.これは何とかならないか.今では新聞でも発行日付は両方記載で,中の記事は多くは西暦だ.公文書も考え時ではなかろうか.
 酉は「取り込む」という語呂合わせもあって福を取り込むという.東京浅草の大鳥神社は縁起を担いで「おとりさん」として有名であるが,今年は日本国民すべてに福が取り込まれる年であって欲しいものである.

(子)