診療室

NOSAI秋田・家畜診療所に勤務して

藤島信賢(秋田県獣医師会会員)

 小さい頃,犬や猫が好きで獣医師になりたいと思っていた私が,気がつくと牛や,豚の産業動物診療獣医師として仕事をするようになり15年が過ぎようとしている.私が育った町は,周りを田んぼに囲こまれた稲作地帯で,牛の姿をみることは無かった.そんな私が何の縁か牛の診療を主とするこの職場にいることが不思議である.現在の診療所勤務になるまでほぼ県内全域をまわり,その地域,地域での特色を感じた.ひとつは言葉の違いであり,同じ秋田県でもこれほど発音が違うのかと驚かされ,もうひとつは牛の品種にも地域差が大きかった.特に日本短角種の診療に携われたことは,良くも悪くもいい経験であった.診療は牛たちの痛みや症状だけではなく,畜主である農家の人を癒す事も大きな仕事である.一緒に一喜一憂できるのもこの仕事ならではなのではないか.農家の人と同じ目線に立ち,同じ様に経営を考えていくのも大切であると考える.そのためにも事前に疾病を予防し,農家の生産性を向上させ,安全で高品質な畜産物を供給できるように,私達臨床獣医師には求められており,責任も重大である.
 さらに私達は獣医師である前に,一消費者である事も忘れてはいけない.農家の生産した畜産物を消費する事も,大切な事であると感じている.わが国でもBSEが確認され,牛肉離れが起こった時,他県の先輩達から「牛肉食うぞー」と励ましのメールがあり,うれしく思った.
 東北6県では家畜臨床部会を立ち上げ,乳牛,和牛のそれぞれの部会に分かれ,生産獣医療や診療技術に関する情報交換を行い,さらに大学や研究機関との連携を深め,疾病予防や遺伝病の解明,肥育牛の生産性向上等取り組んでいる.力不足ではあるが,研鑽を積み少しでも貢献したいと思う.
 15年の歳月をかけて産業動物臨床家として得たものは,人とのつながりの大切さと,腰の軽さである.日々進歩しているこの業界で,とりあえず現状維持している私である.ただ思うのは産業動物,いわゆる家畜と称されるものも大切な命ある生き物である事には違いない.
 「伴侶動物」とまではいかないが,ある程度長生きで,健康であることが求められていくことだろう.産業動物診療獣医師にも各県では若手が多くなり羨ましく,また頼もしいかぎりである.これからの畜産界の先頭に立ってほしい.
 毎日の診療の中で思うことをとりとめも無く書いてしまったようだが,今の産業動物診療は私にはむいているのかなと思う今日この頃である.皆が思っていることだが,私達獣医師,さらに関係諸団体,県,国が畜産農家の経営安定に役立つ事が,後継者不足の解消や,安心で安定した畜産物の供給に寄与できると確信している.そのためには私がもう少し,いやもっと努力していかなければならない.
 最近,2歳の子供が異常に牛を好きだと言い出した.この仕事でなければ牛と接する事も無かったと思うと,辛く,きついがこの仕事でよかったと思う.

藤島信賢  
―略 歴―

1989年

北里大学卒業
  秋田県農業共済連合会
  仙北家畜診療所勤務

1997年

県南家畜診療所 雄勝分室勤務
現在に至る
藤島先生写真


† 連絡責任者: 藤島信賢
(秋田県農業共済組合連合会県南家畜診療所雄勝分室)
〒012-0033 湯沢市清水町6-13
TEL ・FAX 0183-73-3483