意見(構成獣医師の声)

日本獣医師会に女性理事の登場を期待する

松山 茂(茨城県獣医師会会員)

 戦後の新しい社団法人日本獣医師会が発足してから半世紀以上が過ぎた.この間獣医界を取り巻く環境は著しい変貌を遂げた.しかしなんと言っても最も大きな変化は獣医界そのものの変貌で,女性獣医師の進出ではないかと思う.戦前の獣医界では考えられなかったことではなかろうか.獣医学教育が6年制になった時点で女子受験生数が減少するのではないかと予測する人がいたが,あにはからんや女子受験生数は増加の一途である.今や獣医学科の女子学生が半数を占める大学がいくつもあると聞く.しかも卒業式に出席すればわかるが,優等生はたいてい女子学生である.これから誕生する新女性獣医師数は増えることはあっても減ることはあるまい.にもかかわらず日本獣医師会の執行部には過去現在を通じ一人の女性獣医師も登場していない.これでいいのだろうか.
 女性獣医師の増加は日本に限ったことではない.25〜6年前,私が関連調査でアメリカの獣医科大学を訪れた時女子学生が半数近くいるという大学がいくつもあった.これは当時の獣医科大学の教授連も想像できなかったことらしい.そして現在のアメリカ獣医師会会長はテキサス大学のBonnie Beaver教授で女性である.アメリカといえども全米獣医師会会長に女性が選ばれることはそう多いことではないが,Beaver教授が始めてでもない.もちろん彼女は突然会長に選ばれたわけではない.すなわち彼女にはテキサス州獣医師会の役員,会長を経験という経歴がある.翻って,一人の女性理事も存在しない我が日獣に女性会長が出現するのはいつの日であろうか.
 とかくお手本にしたり比較したりさせてもらう日本医師会ではとっくの昔に女性理事が誕生している.しかし残念ながら我が日獣に女性理事は過去現在とも存在しない.
確かに現在の日獣の理事は民主的な方法によって選出されている.女性獣医師の数が増えれば,いずれ女性理事も登場するに違いない.しかし現在の選出方法では,百年河清を待つではないが,恐らく相当な時間がかかるであろうと多くの人が思っているに違いない.そろそろなんらかの策を講ずる必要がある時期ではないかと思う.
 かつて私は霞ヶ関に居たことがある.「男女共同参画社会基本法」の成立より20年も前の話だ.当時の内閣は国の審議会委員に積極的に女性を登用すべくある策を講じた.恐らく閣議決定を受けて当時の総理府から指示が出たものと思われるが,大臣官房から各種審議会事務局を担当する部署に積極的に女性委員を推薦するようにとの文書とともにこの中から選べとばかり参考リストが配られた.獣医師あるいは獣医学関連のリストを見て私は思わず吹き出したものである.ご本人及びリストを作成した方には大変申し訳ないがもう時効と思われるのでここに紹介すると,「東京大学教授望月公子,日本獣医畜産大学教授磯田政恵……」とあったのである.断るまでもないと思うが,両先生とも立派な男性である.特に我が恩師望月公子(コウシと読む)教授は当時農学部長もしておられたので,ちょっと調べれば男性か女性かはすぐに分かったであろうに,これがお役所仕事なんだなと思ったものだ.それはともかく審議会委員に女性を登用すべく政府もそれだけの努力をしたのである.過去及び現在,われわれはそのような努力あるいは配慮をしたことがあっただろうか.そして当時1割にも満たなかった国の女性審議会委員の数は,今や26.8%(内閣府調査2004年8月現在)と大幅に増えている.すなわち国の審議会委員は1/4強が女性である.一方「男女共同参画社会基本法」が施行されてから5年経つにもかかわらず日獣には一人の女性理事もいない.
 ところで,多くの公益法人の理事(執行部)には学識経験者という非常に便利な枠がある.たいてい理事長あるいは会長推薦で,理事長あるいは会長の運営方針がやりやすい執行部作りに役立ている.そこで提案であるが,日獣も理事に学識経験者枠を設けては如何なものであろう.すでに日獣には専務理事という会長推薦枠がある.この枠を広げて,3〜5名の学識経験者枠とする.もちろんこの中に専務理事も含める.そしてこの枠の中に会長推薦として2〜3名の女性理事候補を入れるようにしてはどんなものだろう.その必要が無くなれば学識経験者枠を縮小するかもっと有効に使うようにすればよい.定款の改正が必要であるので,理事会及び総会の英断が期待される.
 内閣に女性閣僚が登場してから久しい.初期の小泉内閣では5名の女性閣僚が誕生している.あらゆる分野で女性の社会進出はめざましい.小学校校長は2割近く,大学の学長ですら1割近くが女性であるという.民間企業の管理職や役員にも女性の進出はめざましい.極めつけは社団法人日本獣医師会の監督官庁の担当課長が女性であることではなかろうか.このような社会情勢にもかかわらず,わが日獣のみがゼロを堅持する理由も哲学も存在するとは思えない.
 アテネオリンピックで獲得した金メダルは過半数が女子選手によるものであった.これには送り出した日本選手団の半数以上を女子選手にしたJOCの英断によるところも大きいと思う.国民の半数を占める女性からもっと理解,納得を得る日獣にするためにも,女性の視点からの問題提起ができる執行部にしなければならない.日獣の活性化にも必ずや役立つと信ずる.そのためにはそろそろ我が日獣の理事にも女性を登場させなければなるまい.いや登場してもらわなければ困る.



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