行政・獣医事


狂犬病予防対策に係る朝日新聞への意見掲載

 狂犬病対策は,現在,[1]発生予防対策としての飼育犬の登録と定期予防注射,未登録犬の捕獲と抑留,[2]侵入防止対策としての犬等の特定動物に対する輸入検疫,[3]発生時のまん延防止対策としての感染動物の隔離と移動の制限.これらの動物対策を国,都道府県や市町村が獣医師との協力体制の下で実施するとされているが,ワクチン抗体による十分な免疫力の賦与が確認された動物の輸入前の事前確認を柱とする輸入検疫体制の整備が農林水産省において実施されるとする中,先の厚生労働省研究費による新興・再興感染症研究事業の研究報告書(平成16年3月)において,飼育犬の登録の不徹底による定期予防注射実施率の50%水準を割り込む状況が指摘されたこと等を受け,本会から,[1]飼い主責任(動物所有者の責務)としての狂犬病予防対策の重要性への理解の醸成と[2]地域において狂犬病予防法の執行に当たる自治体の事務執行体制の整備に関する提言(別紙)を朝日新聞に投稿した.

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【別 紙】
2004年(平成16年)9月4日(土曜日)
朝日新聞
〈私の視点・ウイークエンド〉
狂犬病:犬の登録と予防注射の徹底を
日本獣医師会専務理事 大森伸男
 家庭動物として犬の飼育が普及し,国内では1,100万頭を超えるほどになった.だが,市町村への登録と狂犬病の予防注射は,飼い主に義務づけられているのに,周知・徹底されていない.狂犬病は,国内で半世紀近く発生していないが,世界的にみると,蔓延している国は多い.グローバル化の時代に,狂犬病が日本にふたたび侵入する可能性は高まっており,危機管理を徹底することが急務だ.
 狂犬病は,狂犬病ウイルスの感染による人と動物の共通感染症で,すべての哺乳類が感染する.多くの場合,狂犬病に感染した犬にかまれて感染し,発症すると100%死亡するとされる.それだけに不断の予防対策が重要である.
 日本では,56年を最後に,犬の発生例はないが,世界では例外的だ.日本のような清浄国は13カ国・地域にすぎない.インド,中国,韓国などアジア諸国を始め,各地で発生.昨年,大流行した中国では,9カ月間に1,300人以上が死亡し,社会問題になった.
 世界保健機関(WHO)のガイドラインによると,流行を防ぐには,感染源となる動物の少なくとも7割以上の頭数に十分な免疫力が必要だ,としている.
 国内の狂犬病の予防注射の実施率は,厚生労働省の研究事業の報告によると,5割を下回る水準にある.一方で,犬にかまれる事故は,毎年6千件以上の届け出がある.万が一,狂犬病が侵入すれば,現状の予防注射の実施率ではパニックを引き起こしかねない.
 飼育犬の登録と定期予防注射は,狂犬病予防法に基づいた社会防衛のための措置で,飼い主の義務だ.罰則規定も設けられている.
 定期予防注射の実施時期は,毎年4月から6月まで.飼育者は,世界の状況に目を転じ,狂犬病を蔓延させない予防措置の大切さに気づき,責任を果たしてほしい.市町村も危機感をもち,飼育犬の登録を徹底させたうえで,犬の飼い主全員に狂犬病の知識を啓発し,予防注射実施の徹底を図ってほしい.
 感染動物の侵入を防ぐために,輸入検疫の強化も必要になる.農林水産省は,[1]マイクロチップで犬や猫の個体識別ができるようにし,輸出検査証明書の偽造を防ぐ[2]輸出国での予防注射,血液検査を徹底させ,免疫力を示す抗体価の事前チェックを強化する,という検疫体制の見直しを,速やかに実施してほしい.