意見(構成獣医師の声)

BSEその教訓

藤井玄吉(広島県獣医師会理事)

  1.は じ め に
 本誌7月号論説で唐木英明先生の「わが国におけるBSE対策の現状と課題」を拝見した.
 わが国ではじめてBSEが確認されて以来3年が経過しようとしている.当時私は県の食肉関係団体に勤務しており,上部団体からの指示を受けて国産牛肉の買上げ・隔離から,サンプル検査,焼却に至る一連の業務に関った.
 仕舞い込んでいた新聞の切抜きを引き出して,いまだにスッキリとしない気持ちを押さえながら目を通し,思いをめぐらせた.
 2001年9月11日のBSE確認以来,マスコミは連日のように「狂牛病」を人にも感染の危険ありとして報道し,特にテレビメディアは神経症状の罹患牛を生々しく映し出し,みる人を恐怖の闇に巻き込んでしまった.
 BSEは1986年イギリスに発生以来18万頭にも発生が及び近隣諸国を巻き込んでの大パニックを経験している.このことはわが国においてもマスコミで報道され,専門家の間でもいつ何処でBSEが発生してもおかしくないとの認職は示されていた.
 私は,わが国で発生したとしてもイギリスほどの混乱はあるまいと思っていた.それが世界で初めてBSEが発生したかのようなこの大騒動である.世にミスリードという言薬があるなら正にそのものだと思っている.
 何故このようなパニックを起こすことになったか.起こさねばならなかったのか.冷静な反省が必要と思っている.
 日米牛肉交渉は,近く決着の方向となると思うが,それで「BSE」問題の決着となるのであろうか.国は全頭検査によりBSE感染牛の肉は市場に出回ることはないと説明し,国民は感染議論から遠ざかり.「安全」意識が定着し始めていた.
 今回の見直しが,日米交渉による米国からの提案が発端であり,これに対する日本の姿勢は米国の論理に押し切られ,全頭検査からずるずる後退したとの感が強い.このことが不幸であるか,幸であるかは見守る必要があるが,科学的な安全と,政治的な安心の関係は,「安全」が確立されてこそ「安心」があることを忘れてはならない.過剰的反応は,時期とともに見直しが必要になる.
 食品安全委員会は,多くのデーターを蓄積しているものと思っている.今回は迎合型でない安全の根拠を示してもらいたい.

 2.BSE騒動に対する反省
 今回のBSE騒動は,世界的なものともいえる.病原体とされるプリオンについては論じる知識を持たないが,問題はBSEの発生メカニズムである.原因はBSE感染牛の「肉骨粉」と言われており,イギリスでは感染試験も行われているようだが,果たして明確な成績が得られるのはいつになるのだろうか.
 わが国では,どのような試験が行われているのか,死亡牛検査のデーターがどのように生かされてくるのか,先ずはこれらの成績を待たねばなるまい.
 先般,NHKテレビがスイスの食肉処理場における統一された脊髄除去の場面を写し,わが国における処理法のばらつきと不徹底ぶりとを比較していた.わが国でも危険部位の完全除去を徹底し,今後適当とされる検査月齢をあわせて設定することこそ安全・安心の対策ではなかろうか.
 国民に対して,常に疑問と不安を持たせたのは,これらの対策によっても残るリスクの説明ではなかろうか.このことが説明されないで「安心」を急ぎすぎた感が強い.人の安全を確保するための最低限のリスクを何処に置き,如何なる対策を強化するか.必要なのは明確なリスクコミュニケーションではなかろうか.
 あいまいな説明が次々と疑問と問題を起こし,いつまでも不安を付きまとわせることになったように思われる.
 今回の「BSE」は,確認当初における農水省の不適切な対応があり,指導の不徹底や事実確認の甘さは非難を受けても仕方がないと思われる.加えてその後の国の対応は,マスコミに揚げ足を取られたまま連日の攻勢になすすべもなく,政治が動き冷静な判断もないままに莫大な予算を「安全・安心」のためとしてなりふりかまわず注ぎ込んだ.
 マスコミも報道が仕事とはいえ,些か過度の風評を広めてしまったのではなかろうか.
 今回の政治主導はマスコミの声に振り回されて目測を誤った日替わりメニューの対応をばたばたと繰り出し無駄骨と無駄金を労した気がしてならない.
 3.BSEに対する認識
 政府の食品安全委員会が8月4日に開かれた.「全頭検査」見直しについて公募で選ばれた関連業界や消費者など9人との意見交換会である.
 新聞報道によると意見の内容は消費者や生産者などからは,「国内で危険部位の除去が十分でない段階で見直しは時期尚早」,「安心のためには全頭検査を」など5人が見直し反対で,流通業関係者からは,「検査には限界がある.危険部位除去が最も重要」,消費者の1人からも「問題にならないほどのリスクで牛肉が食べられないのは問題」など全頭検査の緩和を支持する意見が述べられたとのことである.
 この意見の内容をみたかぎりでは,3年を経過する現在,ようやく一般の理解は進み「BSE」の人に対する危険度とその危険を回避するための対策は何か.何をなすべきかはおおむねの理解は醸成されて来ているのではなかろうか.
 4.BSE対策に望む
 必要なのは,唐木先生の言葉のとおり危険部位の完全除去である.フグ毒の除去までには行かなくとも,この手法が安全であることの明解な説明である.為にする政策や政治でない純粋に人の命と生活を守る国民的立場からの専門家の科学的論拠が判断の基本に置かれなければならない.
 専門家の先生は,いわゆる消費者迎合ともとれる評論家のようなあいまいな説明をするのでなく,責任ある自信をもった説明がなければいつまでも世論はおさまらない.
 牛への感染原因がなお残されているように思えるが,如何にあるにせよ「BSE」は危険部位を一定量食べなければ感染を起こすことがないこと.その危険部位は如何なる手法で排除し安全を確保するのか.そのことにあわせて行われる検査により牛肉は安心できる.このことを徹底することが大切と思う.
 日々BSE関連業務に黙々と努力を続けていただいている関係者の方々に深い敬意を表したい.

 


† 連絡責任者: 藤井玄吉(広島県獣医師会)
〒734-0034 広島市南区丹那町4-2 県獣医畜産会館内
TEL 082-251-6401 FAX 082-255-3424


意見(構成獣医師の声)

BSEその教訓

藤井玄吉(広島県獣医師会理事)

  1.は じ め に
 本誌7月号論説で唐木英明先生の「わが国におけるBSE対策の現状と課題」を拝見した.
 わが国ではじめてBSEが確認されて以来3年が経過しようとしている.当時私は県の食肉関係団体に勤務しており,上部団体からの指示を受けて国産牛肉の買上げ・隔離から,サンプル検査,焼却に至る一連の業務に関った.
 仕舞い込んでいた新聞の切抜きを引き出して,いまだにスッキリとしない気持ちを押さえながら目を通し,思いをめぐらせた.
 2001年9月11日のBSE確認以来,マスコミは連日のように「狂牛病」を人にも感染の危険ありとして報道し,特にテレビメディアは神経症状の罹患牛を生々しく映し出し,みる人を恐怖の闇に巻き込んでしまった.
 BSEは1986年イギリスに発生以来18万頭にも発生が及び近隣諸国を巻き込んでの大パニックを経験している.このことはわが国においてもマスコミで報道され,専門家の間でもいつ何処でBSEが発生してもおかしくないとの認職は示されていた.
 私は,わが国で発生したとしてもイギリスほどの混乱はあるまいと思っていた.それが世界で初めてBSEが発生したかのようなこの大騒動である.世にミスリードという言薬があるなら正にそのものだと思っている.
 何故このようなパニックを起こすことになったか.起こさねばならなかったのか.冷静な反省が必要と思っている.
 日米牛肉交渉は,近く決着の方向となると思うが,それで「BSE」問題の決着となるのであろうか.国は全頭検査によりBSE感染牛の肉は市場に出回ることはないと説明し,国民は感染議論から遠ざかり.「安全」意識が定着し始めていた.
 今回の見直しが,日米交渉による米国からの提案が発端であり,これに対する日本の姿勢は米国の論理に押し切られ,全頭検査からずるずる後退したとの感が強い.このことが不幸であるか,幸であるかは見守る必要があるが,科学的な安全と,政治的な安心の関係は,「安全」が確立されてこそ「安心」があることを忘れてはならない.過剰的反応は,時期とともに見直しが必要になる.
 食品安全委員会は,多くのデーターを蓄積しているものと思っている.今回は迎合型でない安全の根拠を示してもらいたい.

 2.BSE騒動に対する反省
 今回のBSE騒動は,世界的なものともいえる.病原体とされるプリオンについては論じる知識を持たないが,問題はBSEの発生メカニズムである.原因はBSE感染牛の「肉骨粉」と言われており,イギリスでは感染試験も行われているようだが,果たして明確な成績が得られるのはいつになるのだろうか.
 わが国では,どのような試験が行われているのか,死亡牛検査のデーターがどのように生かされてくるのか,先ずはこれらの成績を待たねばなるまい.
 先般,NHKテレビがスイスの食肉処理場における統一された脊髄除去の場面を写し,わが国における処理法のばらつきと不徹底ぶりとを比較していた.わが国でも危険部位の完全除去を徹底し,今後適当とされる検査月齢をあわせて設定することこそ安全・安心の対策ではなかろうか.
 国民に対して,常に疑問と不安を持たせたのは,これらの対策によっても残るリスクの説明ではなかろうか.このことが説明されないで「安心」を急ぎすぎた感が強い.人の安全を確保するための最低限のリスクを何処に置き,如何なる対策を強化するか.必要なのは明確なリスクコミュニケーションではなかろうか.
 あいまいな説明が次々と疑問と問題を起こし,いつまでも不安を付きまとわせることになったように思われる.
 今回の「BSE」は,確認当初における農水省の不適切な対応があり,指導の不徹底や事実確認の甘さは非難を受けても仕方がないと思われる.加えてその後の国の対応は,マスコミに揚げ足を取られたまま連日の攻勢になすすべもなく,政治が動き冷静な判断もないままに莫大な予算を「安全・安心」のためとしてなりふりかまわず注ぎ込んだ.
 マスコミも報道が仕事とはいえ,些か過度の風評を広めてしまったのではなかろうか.
 今回の政治主導はマスコミの声に振り回されて目測を誤った日替わりメニューの対応をばたばたと繰り出し無駄骨と無駄金を労した気がしてならない.
 3.BSEに対する認識
 政府の食品安全委員会が8月4日に開かれた.「全頭検査」見直しについて公募で選ばれた関連業界や消費者など9人との意見交換会である.
 新聞報道によると意見の内容は消費者や生産者などからは,「国内で危険部位の除去が十分でない段階で見直しは時期尚早」,「安心のためには全頭検査を」など5人が見直し反対で,流通業関係者からは,「検査には限界がある.危険部位除去が最も重要」,消費者の1人からも「問題にならないほどのリスクで牛肉が食べられないのは問題」など全頭検査の緩和を支持する意見が述べられたとのことである.
 この意見の内容をみたかぎりでは,3年を経過する現在,ようやく一般の理解は進み「BSE」の人に対する危険度とその危険を回避するための対策は何か.何をなすべきかはおおむねの理解は醸成されて来ているのではなかろうか.
 4.BSE対策に望む
 必要なのは,唐木先生の言葉のとおり危険部位の完全除去である.フグ毒の除去までには行かなくとも,この手法が安全であることの明解な説明である.為にする政策や政治でない純粋に人の命と生活を守る国民的立場からの専門家の科学的論拠が判断の基本に置かれなければならない.
 専門家の先生は,いわゆる消費者迎合ともとれる評論家のようなあいまいな説明をするのでなく,責任ある自信をもった説明がなければいつまでも世論はおさまらない.
 牛への感染原因がなお残されているように思えるが,如何にあるにせよ「BSE」は危険部位を一定量食べなければ感染を起こすことがないこと.その危険部位は如何なる手法で排除し安全を確保するのか.そのことにあわせて行われる検査により牛肉は安心できる.このことを徹底することが大切と思う.
 日々BSE関連業務に黙々と努力を続けていただいている関係者の方々に深い敬意を表したい.

 


† 連絡責任者: 藤井玄吉(広島県獣医師会)
〒734-0034 広島市南区丹那町4-2 県獣医畜産会館内
TEL 082-251-6401 FAX 082-255-3424


意見(構成獣医師の声)

BSEその教訓

藤井玄吉(広島県獣医師会理事)

  1.は じ め に
 本誌7月号論説で唐木英明先生の「わが国におけるBSE対策の現状と課題」を拝見した.
 わが国ではじめてBSEが確認されて以来3年が経過しようとしている.当時私は県の食肉関係団体に勤務しており,上部団体からの指示を受けて国産牛肉の買上げ・隔離から,サンプル検査,焼却に至る一連の業務に関った.
 仕舞い込んでいた新聞の切抜きを引き出して,いまだにスッキリとしない気持ちを押さえながら目を通し,思いをめぐらせた.
 2001年9月11日のBSE確認以来,マスコミは連日のように「狂牛病」を人にも感染の危険ありとして報道し,特にテレビメディアは神経症状の罹患牛を生々しく映し出し,みる人を恐怖の闇に巻き込んでしまった.
 BSEは1986年イギリスに発生以来18万頭にも発生が及び近隣諸国を巻き込んでの大パニックを経験している.このことはわが国においてもマスコミで報道され,専門家の間でもいつ何処でBSEが発生してもおかしくないとの認職は示されていた.
 私は,わが国で発生したとしてもイギリスほどの混乱はあるまいと思っていた.それが世界で初めてBSEが発生したかのようなこの大騒動である.世にミスリードという言薬があるなら正にそのものだと思っている.
 何故このようなパニックを起こすことになったか.起こさねばならなかったのか.冷静な反省が必要と思っている.
 日米牛肉交渉は,近く決着の方向となると思うが,それで「BSE」問題の決着となるのであろうか.国は全頭検査によりBSE感染牛の肉は市場に出回ることはないと説明し,国民は感染議論から遠ざかり.「安全」意識が定着し始めていた.
 今回の見直しが,日米交渉による米国からの提案が発端であり,これに対する日本の姿勢は米国の論理に押し切られ,全頭検査からずるずる後退したとの感が強い.このことが不幸であるか,幸であるかは見守る必要があるが,科学的な安全と,政治的な安心の関係は,「安全」が確立されてこそ「安心」があることを忘れてはならない.過剰的反応は,時期とともに見直しが必要になる.
 食品安全委員会は,多くのデーターを蓄積しているものと思っている.今回は迎合型でない安全の根拠を示してもらいたい.

 2.BSE騒動に対する反省
 今回のBSE騒動は,世界的なものともいえる.病原体とされるプリオンについては論じる知識を持たないが,問題はBSEの発生メカニズムである.原因はBSE感染牛の「肉骨粉」と言われており,イギリスでは感染試験も行われているようだが,果たして明確な成績が得られるのはいつになるのだろうか.
 わが国では,どのような試験が行われているのか,死亡牛検査のデーターがどのように生かされてくるのか,先ずはこれらの成績を待たねばなるまい.
 先般,NHKテレビがスイスの食肉処理場における統一された脊髄除去の場面を写し,わが国における処理法のばらつきと不徹底ぶりとを比較していた.わが国でも危険部位の完全除去を徹底し,今後適当とされる検査月齢をあわせて設定することこそ安全・安心の対策ではなかろうか.
 国民に対して,常に疑問と不安を持たせたのは,これらの対策によっても残るリスクの説明ではなかろうか.このことが説明されないで「安心」を急ぎすぎた感が強い.人の安全を確保するための最低限のリスクを何処に置き,如何なる対策を強化するか.必要なのは明確なリスクコミュニケーションではなかろうか.
 あいまいな説明が次々と疑問と問題を起こし,いつまでも不安を付きまとわせることになったように思われる.
 今回の「BSE」は,確認当初における農水省の不適切な対応があり,指導の不徹底や事実確認の甘さは非難を受けても仕方がないと思われる.加えてその後の国の対応は,マスコミに揚げ足を取られたまま連日の攻勢になすすべもなく,政治が動き冷静な判断もないままに莫大な予算を「安全・安心」のためとしてなりふりかまわず注ぎ込んだ.
 マスコミも報道が仕事とはいえ,些か過度の風評を広めてしまったのではなかろうか.
 今回の政治主導はマスコミの声に振り回されて目測を誤った日替わりメニューの対応をばたばたと繰り出し無駄骨と無駄金を労した気がしてならない.
 3.BSEに対する認識
 政府の食品安全委員会が8月4日に開かれた.「全頭検査」見直しについて公募で選ばれた関連業界や消費者など9人との意見交換会である.
 新聞報道によると意見の内容は消費者や生産者などからは,「国内で危険部位の除去が十分でない段階で見直しは時期尚早」,「安心のためには全頭検査を」など5人が見直し反対で,流通業関係者からは,「検査には限界がある.危険部位除去が最も重要」,消費者の1人からも「問題にならないほどのリスクで牛肉が食べられないのは問題」など全頭検査の緩和を支持する意見が述べられたとのことである.
 この意見の内容をみたかぎりでは,3年を経過する現在,ようやく一般の理解は進み「BSE」の人に対する危険度とその危険を回避するための対策は何か.何をなすべきかはおおむねの理解は醸成されて来ているのではなかろうか.
 4.BSE対策に望む
 必要なのは,唐木先生の言葉のとおり危険部位の完全除去である.フグ毒の除去までには行かなくとも,この手法が安全であることの明解な説明である.為にする政策や政治でない純粋に人の命と生活を守る国民的立場からの専門家の科学的論拠が判断の基本に置かれなければならない.
 専門家の先生は,いわゆる消費者迎合ともとれる評論家のようなあいまいな説明をするのでなく,責任ある自信をもった説明がなければいつまでも世論はおさまらない.
 牛への感染原因がなお残されているように思えるが,如何にあるにせよ「BSE」は危険部位を一定量食べなければ感染を起こすことがないこと.その危険部位は如何なる手法で排除し安全を確保するのか.そのことにあわせて行われる検査により牛肉は安心できる.このことを徹底することが大切と思う.
 日々BSE関連業務に黙々と努力を続けていただいている関係者の方々に深い敬意を表したい.

 


† 連絡責任者: 藤井玄吉(広島県獣医師会)
〒734-0034 広島市南区丹那町4-2 県獣医畜産会館内
TEL 082-251-6401 FAX 082-255-3424