世の中はテレビコマーシャルなどの影響もあり,大変なペットブームと思われているが,犬・猫の飼育頭数は10年前に比べて,僅かな増加に留まっているのが現状である.
ペット関連業界としては,動物病院,フード,関連商品,ショップ,ホテル,トリーミングなど,年間1兆数千億円を売り上げ,毎年右肩上がりの成長を遂げている.
2000年における動物病院の総収入推定額は2,500〜3,000億円で僅かながらの増加を示しているが,クライアントとなる愛玩動物の増加の伸びが鈍いにもかかわらず,小動物獣医師の新規開業者は全国で約400件とハイペースに推移し,なかでも女性獣医師の進出が顕著である.
このような過当競争が進んでいるなかで,小動物開業医師が積極的に獣医師会に参画し活性化を図ろうとするには,いささかの困難があるものと思われる.
しかしながら,このような厳しい状況のなか,私どもは公益法人の一員として,事業活動を通じて,社会に貢献することの重要性を十二分に認識し,獣医師会の活性化をより推進して行くためにいくつかの提言をしたいと思う.
1.地区三学会の土日・祝祭日開催及び女性獣医師の参加しやすい環境づくり
近年,小動物開業者においては土日診療,平日休診形態の病院が多く見られるようになってきた.しかしながら,大部分の小動物関連学会・研究会等は,週末・祝祭日開催であるにもかかわらず,ある程度の活気を呈している.地区三学会においては,土日・祝祭日開催の地区が徐々に多くなってきている現状ではあるが,開催期日のほぼ一定している週末の会合においては,診療時間・日程などを事前調整することにより,多くの会員が参加することができ,さらに,自己研鑽,獣医師生涯研修事業ポイント獲得を目指す小動物病院勤務獣医師あるいは他分野獣医師にとっても参加の機会が多くなることから,全地区での土日・祝祭日開催に向けての検討・早期実現を願うものである.
また,より多くの会員の参画を促すうえで,育児を抱えている女性獣医師については,2001年度の日本獣医師会雑誌において女性会員より「女性獣医師の社会的進出に支援を」という題目で寄稿されている.育児が拘束要因となるのではなく,勉学意欲のある多くの女性獣医師が参加できるような学会運営をお願いしたい.
日本獣医学会・動物臨床医学会などで徐々にではあるが託児所導入の兆しが見られており,多くの学会・研究会での拡がりを期待している.
2.生涯研修事業について
開業獣医師は,社会の要請に応えることができるよう最新の知識・技術を習得し,常に高い診療技術水準を維持するよう生涯学習に努めなければならない.
獣医学系大学卒業生の大多数が臨床の仕事に就く米国においては,日本の国家試験に相当する,獣医師会が実施する試験(National Board)と,自分が働くあるいは開業する州の試験(State Board)の両者に合格しなければ獣医師としての職に従事することができない.さらに,州により多少の違いがあるものの,State
Boardのライセンスを維持するためには,年間10〜20時間以上の卒後教育を受講することが義務づけられている.このことが,獣医師の平均的レベルの維持とクライアントからの信頼を得る大きな要因となっているのである.
わが国においては,日本獣医師会が獣医師生涯研修事業として,その試行を実施されてきたが,獣医師専門医制度と相俟って検討を重ねつつ,早期に制度を確立し,諸外国並みのレベルに到達しなくてはならない.
3.動物愛護活動について
近い将来,大規模地震が起る可能性が高いとされている仙台市及び宮城県においては,災害時のペットの対策が急務である.
1995年の阪神・淡路大震災では約9,500頭の動物が被災したとされ,延べ21,000人のボランティアが救護に携わった.しかしながら,避難所ではペットは敬遠され,飼い主と他の被災者との間で少なからずトラブルがあったという.また,野放し状態のペットは人に危害を加える恐れもあり,被災地の保安上の問題として提起された.
仙台市では大規模地震が起こった場合のシミュレーションとして,101万市民のうち長期避難者を42,000人から95,000人と想定している.この割合を単純に犬に当てはめてみると,1,600頭から3,500頭が被災する計算となる.
けがの手当て,行方不明となったペット・飼い主を失ったペットの保護,避難所での受け入れなど,作業を円滑にするためのマイクロチップによる個体識別の導入など,動物救護活動を盛り込んだ危機管理マニュアルを行政及び獣医師会が連携して作成し,非常時に備えることが急務と考えられる.
また,学校獣医師制度すなわち「学校における動物飼育に係る獣医師の役割」については,情操教育の一環として飼育されている動物の正しい飼い方,接し方,動物との触れあいの楽しさなどを指導することが,その主たる目的であるが,専門知識のある教諭は少なく,その第一歩として公益法人が広く学校に動物を飼育する意義についての理解を求めることが重要課題と思われる.
4.高度動物医療について
コンパニオンアニマルと家族の絆が強くなった昨今,獣医師は現在治療中の動物の飼い主対しては,何時でも連絡をとれるようにしておく義務がある.また,十分なインフォームドコンセント,セカンドオピニオン,高度獣医療を求められることは当然のことであり,大学・獣医師会などのバックアップ・連携による高度動物医療,エマージェンシーなどの病院設置が望まれる.
エマージェンシー病院の役割としては,基本的に夜間・休日の急患の診療に当たるが,開業獣医師が週末の学会出席などで治療継続が出来ない場合の患蓄に対するICUとしての役割も担うものである.
5.事業資金融資制度について
産業動物の診療業務を行う開業獣医師には長期かつ低利な農林漁業金融公庫の融資制度を利用できるが,小動物開業分野においても新規開業者,獣医療の充実を目指す小動物医師のための有利な融資制度の創設をお願いしたい. |