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茨木隆雄†(宮城県獣医師会会員)
宮城県動物愛護センターは平成元年に管理部門が,平成2年に愛護部門が設立され,現在所長以下4名の獣医師が在職している. センターの担当事務は,第一に管理部門として狂犬病予防法により県内各保健所(仙台市を除く)で捕獲・抑留され,抑留期限の切れた犬の評価・処分・焼却.動物の愛護及び管理に関する法律により各市町村や保健所(仙台市を除く)で引き取られた犬・猫の処分・焼却や負傷犬・猫の収容.その他,人と動物の共通感染症の調査研究などである. 保健所から搬入される動物数は,平成3年度の10,611頭をピークに平成14年度は8,288頭となっているが,内訳でみると抑留犬は平成元年度2,338頭から平成14年度860頭と減少し,引取犬も平成元年度4,122頭から平成14年度1,731頭と減少している.一方,猫は平成元年度3,555頭から徐々に増加し平成10年には5,944頭に,その後は横ばい状態で平成14年度5,697頭となっている. 犬については,狂犬病予防法や飼い犬取締条例(宮城県条例)などの規制する法令があり,動物の愛護及び管理に関する法律による適正飼養指導が効果を上げ,飼い主の適正飼養意識の向上が図られたため減少したと考えられる.猫については,飼育形態の相違や,県内では市町村による登録等の制度もないこと,さらに飼い主の適正飼養意識の欠如等に原因があるものと考えられるため,保健所や市町村での適正飼養指導の徹底をお願いしているところである. 人と動物の共通感染症の調査研究は,これまで犬回虫の保有状況,公園砂場の回虫卵汚染状況,犬・猫における食中毒起因菌やクリプトスポリジウム等保有状況,Q熱抗体保有状況等の調査を実施している.当センターだけで調査不可能なものは保健環境センターと共同して調査しているが,感染症予防の観点から将来は臨床獣医師や人の医療関係者とも協働し,さらなる公衆衛生の向上に寄与することが必要と考えている. 次に,愛護部門では,動物の愛護及び適正な飼養にかかる知識の普及啓蒙に関することとして愛護館・ふれあい広場を設置し,年末年始を除く平日の10時から15時まで,子犬,ウサギ,モルモットをサークルに放し,来場者が自由にふれあえるようにし,ポニー,ヤギ,ニワトリやセキセイインコ等鳥類など一寸前までは身近にいた動物を展示している.ふれあい広場は平日の開場にもかかわらず,来場者は年々増加し年間1万人を超えており,来場者に管理部門の現状を説明したり,動物とふれあってもらうことにより動物愛護意識の啓発及び適正飼養管理知識の普及を推進している. 保育所,幼稚園,小学校低学年を対象とした動物ふれあい教室では子犬,ウサギ,モルモットの習性や接し方の指導を実施後,サークルの中で実際にふれあい,馬車に乗った後馬と接し,さまざまな動物の観察や餌やりをすることで,命ある動物に対する慈しみや労りの気持ち等,情操の涵養を図っている.また,犬による危害防止のため,道路や公園で知らない犬に出会った場合の対処法や飼い主と散歩中の犬に接するマナー等の指導をしている.宮城県のように自然豊かな地域の子供でも動物とふれあう機会が少ないようで,動物に触るのが初めての子供も多くいる.また,クラスに1人2人は動物に近づけない子供がいるが,みんなが楽しくふれあっていることで,教室が終わる頃には,少なくとも動物を触ることができるようになっている. ふれあい動物として活躍し,3カ月令程度になった子犬は,毎月第4水曜日に譲渡会を開催し,18歳以上の県内在住者で,適正飼養できる環境条件の整った人に,適正飼養講習会を受講していただき,模範的な飼い主になることを条件に譲渡することにしている.1回に譲渡する犬は10頭前後で,毎回譲受希望者が犬の数より多く,抽選となっている.譲渡犬は同腹子や他の子犬と集団生活を行うことや,多くの人とふれあうことで,家庭犬としての社会性をある程度身につけているため,飼いやすいと譲受者から好評を得ている. また,最近は小学校高学年,中学校,高校の総合学習や動物関係専門学校の授業の一環として動物愛護についてテーマを持ち,センターでの学習希望がある.これらについて積極的に受け入れ,犬・猫の現状や関係法令について話をし,処分施設も含めた施設見学,動物とのふれあい等を行っている.学習後の感想文には,「センターに来る前は処分する所という暗いイメージや,ただ可愛いとか可哀想という安易な動物愛護意識しか持っていなかったが,犬・猫の現状を学び,動物とふれあうことで,命ある動物を飼う責任の重さや,どうすれば処分される動物が少なくなるかなど,自分たちも真剣に考えます」というような内容を多くの生徒が書いており,命や動物愛護について考えるよい機会となっている. 命をあまりにも粗末に扱う悲惨な事件が毎日のように報道される今日,当センターで実施しているふれあいや見学学習は学校教育や社会教育に必要不可欠なものと考え,センターにおいて獣医師が携わる主要な事業として取り組んでいるが,予算や人員を削減せざるをえない現状の自治体の事業だけでは,県内すべての要望に到底応えられない状況である. 折しも,獣医師会で学校飼育動物の関係事業が出てきていることもあり,今後,私ども動物愛護行政に携わる獣医師としては,小動物臨床獣医師との協力,連携が益々必要になってきていると考えている. |
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† 連絡責任者: | 茨木隆雄(宮城県動物愛護センター) 〒981-3326 黒川郡富谷町明石字下向田69-4 TEL 022-358-7888 FAX 022-358-9424 |