診療室

私 の 診 療 室
−病院のアイドル−

石田浩三(川崎市獣医師会会員)

 「キャー!」と飼い主さんの悲鳴が,病院中に響き渡った.
 最近のエキゾチックアニマル人気や飼い主さんの意識の向上に伴い,これらの来院数が増える傾向にある.特に私自身,爬虫類への造詣が深く(?)カメ,トカゲ等の来院数がここ何年間増え続け,積極的に診療している.爬虫類の飼い主さんへの説明用にと,いくつかの爬虫類をケージに入れて病院においてあるが,飼い主さんを驚かせたのは,開院以来のスタッフの一人であるケヅメリクガメの“もめた”であった.彼は,病院をずっと見守ってきた最古参の一人でもあり,アイドルでもある.爬虫類が大好きで,今では百数十頭飼っている爬虫類の中の一頭である.とうとう市販や,自作のケージでは飼えなくなるくらい大きくなり,結局病院での放し飼いとなった.リクガメはトイレの躾ができないので,いつも赤ちゃん用のオムツをしており“おしめをしているカメ”で少し有名になっている.いつも自由気ままにとことこ歩き回り,好きなところでお昼寝をし,のんびり一日を過ごし,時にはあいさつをしに飼い主さんの足元へやってきて驚かせている.
 衛生上少し問題はあるかもしれないが,“もめた”はいろいろ役に立っている.「ここには大きなカメがいるのよ.」「このカメは,アフリカのカメで,…」とかいろいろ飼い主さん同士で会話が弾んでいたり,2回目,3回目来院する時は,お子さんやお孫さんを連れてこられたりと,見ているとなかなかおもしろいものである.受付をする前に,「先生! カメは?」とか,病院に入ってきてきょろきょろして「おっ! いたいた.」と安心している飼い主さんや,近所の子供達が「動物見せてください.」と大挙押し入ってくることもあり,完全にアイドル化している.
 “何か元気がない”と犬が連れてこられ,診察台の上でグターとしている犬(特に下痢や嘔吐などの症状なし)なんか,もめたが診察台の周りをのしのし歩いているのを見つけると,むくっと立ち上がり尾を振って,もめたを目で追いかける犬に対して,“大丈夫でしょう”ってお返ししたりしても,その後“なんでもなかったよ”という例もしばしばあり.病院の空気が重くなった時など,もめたが“どうしたの?”といわんばかりにやって来ると,なぜかパァーと空気が和んだりすることもある.もちろん説明用にいろいろ触られたり,ひっくり返されたりしてかわいそうなときもあるが,院長に次いで,病院のことをよく見てきたスタッフの一人といっても過言ではないようである.
 ここ数年の爬虫類ブームも手伝ってかインターネットや専門情報誌等で爬虫類の飼育,疾病に対する情報が溢れている昨今,こと爬虫類に関しては的確に診断できたり,検査方法まで指定してくる飼い主さんも少なくない.飼育方法や治療方法など確立していない分野なのでなかなか診療し辛いときもある.このことは,犬や猫の場合でも今後このようなことも増えるのだろうなと時々考えさせられ,今後の病院のあり方や,診療方針までもが変わってくるのではと思うときもある.
 何か別世界でマイペースに生きている“もめた”を見ながら,いろんな発見をし,心癒され,学術的なことはもちろん,密輸の問題,密放流の問題や環境破壊までいろんなことを思い考えながら,毎日過ごしている.

石田浩三  
―略 歴―


1991年 麻布大学卒業
  東京都内の動物病院で勤務
1994年 神奈川県川崎市にて石田動物病院開院
現在に至る

石田先生写真



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