紀行・見聞

タイでの世界小動物獣医年次大会及び
日本人向け飼育者講習会での思い出

清水宏子(横浜市獣医師会会員)

 スイカが一年中収穫され,半そでの夏服しかいらない国,タイの首都バンコク.ここで開かれた世界小動物獣医年次大会(WSAVA)に参加した(登録者は約2,000人).日本の秋に出発し,6時間後のタイは33°,真夏である.サワッデーカー(こんにちは)・デチャンヒロコシミズ(清水宏子です)・コップンカー(ありがとう),この3つができれば,タイ語はとりあえず何とかなる.
 世界の獣医師が集まるガラディナーでは,ニュージーランド・スリランカ・アメリカ・チュニジアの獣医師と情報交換をした.チュニジアの獣医師には「ヒューマンアニマルボンドでセミナーに来て」と頼まれ,「英語ができないから」と言うと,「日本語でOK,翻訳するから,旅費も出すから」と,その際,ブローチまで頂いた.
 また,一方,10月27日,タイ在住の日本人向けに講演を依頼されていた.タイに在住の文中(Boonchu)先生自ら学会会場まで迎えに来てくれ,講演先のトンロー動物病院へ直行.なんと正面玄関と2階のロビーにたれ幕が.「Japanese special day. 清水先生講演会」.トンロー動物病院は4階建て,スタッフ70名,獣医師20名,日本人スタッフ3人という大きな病院(内科・外科・皮膚科・眼科・歯科・産科などに分かれている).さらに猫専門クリニックも増築し,そこに飾る絵も頼まれていたので,私が描いた30×40cmの楽しい猫の絵もおみやげに持っていった.
 当初30人のセミナー参加予定者が当日には50人とふくれ上がり,日本人の飼い主が熱心なことに驚いた.タイは犬が80%,猫が15%,エキゾチックが5%とのことで,われわれの病院30・30・40%とは異なる比率である.丁度開業した25年前の日本のようである.病気は,1年中暑いのと雨期があるので皮膚病が多いそうである.
 セミナーの内容は,病気を治す三つの力・楽しいエピソード・お役立ち情報(zoonosis・食べると困るもの・躾のポイントetc.)・クイズ(歯は何本? おっぱいいくつ? 動物の年齢の数え方)を約1時間.メモをとってくださる方も多く,景品つきクイズも大好評ですばらしい盛り上がりであった.
 驚いたのは,質問者の質疑がセミナーの時間より長くかかってしまったことである.さらに,タイで在住している日本人の方々が,言葉の壁で悩んでいるようであった.コミュニケーションが思うように十分取れない異国の地において,専門用語を使った会話をタイの獣医師としなければならない状況を考えると,参加者の日頃のフラストレーションはいかばかりかと心にずっしりと重くのしかかるものがあった.「今日は診察もしてもらえるんでしょうか」,「毎年あるとうれしいんですけど」と,質問責めで飛行機の時間に間に合わなくなりそうであった.
 転勤でタイにいる友人が「世界何十カ国もプライベートやビジネスで行ったけど,この国が一番気に入った」と教えてくれた.一言でいうとタイはほっとする「微笑の国」である.辛いという評判のタイ料理も,自分の好みで調節できるので問題はない.手を合わせてあいさつをする風習が,優しさを引き立てて温かい気持ちになれる街.異国から何か得るものはないかなど,好奇心いっぱいで輝きのある若者の瞳も印象的であった.



† 連絡責任者: 清水宏子(清水動物病院)
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