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野鳥の保護治療.リハビリは飼鳥に比し,ストレスを考慮するため,全治まで臨床家は慎重な取り扱いを必要とする.わが国で野鳥取り扱いの基礎になる解剖学・生理・生態を指導する機関はなく,動物園の獣医師に教えを受けるのみである. 地球上には1000種以上に及ぶ野鳥を保護して持ち込まれても種の同定が出来ないと肉食・菜食鳥の判断がつかず給餌ができない.(嘴の型で食生の判断できるものもある)このように鳥についての知識を広範囲に知る事は永年野鳥の保護に携わっている私も自信を持てない治療で難しい翼は完治しないと飛翔出来ない,これには外科治療と同じくリハビリが重要である. このため7年前から3年間北米獣医学会副委員長推薦の野鳥外科の権威フロリダ.オーランドのDr. Hessとマイアミ市のDr. Harissの病院へ単身で訪問して外科手技とおもな疾病の治療法とリハビリについて新知識を得た.特に外科関係には治療とリハビリが同等の日数を要することを力説されていた. このたび報告するミネソタ州立大学猛禽センターは,アラスカから北米大陸5大湖へ渡る白頭ワシをはじめタカ類(猛禽類)の移動コースにあたり,車の衝突事故・電線衝突・ワナ事故・銃猟事故・鉛嚥下事故・薬物中毒等が多く,州政府によって欧米で唯一の猛禽類保護治療専門(年間約700羽を取扱う)として大学構内に設立された施設で総合病院として運営されている. センター長Dr. PATRIC REDIGほか,獣医師2名,アシスタント・鷹匠を含めた18名のスタッフと登録されたボランテア300名(おもに学生,主婦)がおり,年間24,000時間(勤務者にして12名に該当)が奉仕してる. センターは独立棟で,50名は座れる後方映写室,スクリーン付き階段教室,隣に100名は入れるスクリーン付きの集会室のほか,デスカッション用の3部屋・治療関係にX線室・検査室・準備室・治療室があり,治療室には4機の診療・外科兼用治療台にいずれも麻酔器・無影灯が設置されていた.覗き窓付き入院室・20メーター程の通路はカーテンで仕切り両端に脚立を置き小型鳥の飛翔訓練用に使用されていた.棟の外側に大型猛禽類の入院舎が並びオオワシ,タカ,フクロウ等12羽が個室に居て,15羽は入るケージが置かれていた.寒冷の地(−10〜−20℃)に応じた暖房は1羽ごとに工夫されていた野鳥の病院としてのは類を見ない施設で感嘆した. 2002年におけるセンターの救護実績は870羽,うち白頭ワシ150羽をはじめフクロウ・チョウゲンボウ等.救護率は死亡15%・安楽死41%・リハビリ放鳥率42%・在院2%である. 研修ツアー参加の顔ぶれは多彩で,開業獣医師,獣医学系大学女子学生,地方行政鳥獣保護関係職員,動物関係研究所のボランテア等の23名で通訳を兼ねる赤木智香子女史を含めると女性12名という華やかな研修が行なわれた. 野鳥各論についての日本グループの研修は5日間にわたり全員朝6時起床,7時20分出発,8時講義開始,実習は2〜3グループに分かれ行なわれた. 第1日目:午前中は,施設見学(病院―試験室・X線室・外科室・診療室・準備室・屋内入院室・屋外入院舎),ハンドリング―(TRCオーデトリアムおよび診療室),午後は猛禽の診療・猛禽の感染症(カンジタ.チアギノーシス.アスペルギルス.トリコモナス)の講義. 第2日目:眼科(会議室.診療室),内視鏡(手術室),血液学(診察室.臨床検査室)の3科目を3グループに分かれ,専門教師の指導で約80分の解説と実習.その後1時間,物理療法について専門医のタカの個体による講義.この2日間は猛禽類に多い疾病の講義,検査診断法及び実技指導. 第3日目:参加者が2グループに分かれ,猛禽を使ってハンドリングのほか診察室での取り扱いの実習.午後は白頭ワシの生息現地であるミシシッピー河上流へ出向き,営巣箇所と数羽の飛翔の観察. 第4日目:センター長による整形外科・骨折の講義と実技ピンニングと体外固定法を見学.(翼の骨折は野鳥の飛翔に100%の治癒が望まれる.上腕骨折の治癒率は低く注意を要する.特に3頭筋腱が重要で上腕遠位端を貫通しないように注意する(ネジ付きピンを使用)これにローリングせぬようにネジ付きハーフピンで体外固定をする.)午後は包帯法の実習(翼の(8の字他)包帯巻は関節,翼膜が伸びなくなるため長い日数巻いたままにしない.(限度は10日以内)) 第5日目:リハビリについて1時間講義を受け,屋外で2名宛3組の鷹匠による飛翔訓練を見学.この後,他で実施されていない接羽の実習が2名に猛禽1羽宛与られ実習(死亡した猛禽の羽を防虫して保管された1本宛与えられ軸に竹串を削って接着剤をぬり差し込む法を習得).午後飼養管理の講習の後,終了式がありセンター長から各人に終了証の授与. まとめ:5日間の研修はセンター長をはじめ,スタッフ全員が効率的な研修日程により短時間に判りやすく丁寧な指導を得た.10〜20年前に日本の愛鳥家がこの指導をうけていたら野鳥保護治療は,大きく前進していたことと思われる.環境庁時代に鳥獣保護室の担当官から,国は直接でなく都道府県に主体的に対応いただいている旨をお聞きした.一方,欧米ではボランテアと寄付制度が定着しており動物愛護思想が根強く感じられ,野鳥の治療技術は北米が先進的であり,リハビリについてはヨーロッパが合理的に対応されていた.また,ウィーン国立獣医科大学には別棟に鳥科があり,ベルリンの国立動物学研究所では,世界中からの相談を受けていた. 行政主体の長い政策の続くわが国では,福島県が財団法人の立派な自然保護施設を有し,実績を上げており,同様に北陸各県も施設を有しているが,専任獣医師が居ないところが問題である.そして,動物園を頼りにする国民性では自然保護思想の発展は望めないと思われる. なお,この有意義なミネソタ大学猛禽センターの研修が平成16年3月1日から5日間実施されるので,多数の参加を期待する. |
† 連絡責任者: | 河内咲夫(河内獣医科) 〒690-0063 松江市寺町99-58 TEL 0852-21-1634 FAX 0852-21-1635 |