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永田雅彦†(東京都獣医師会会員)
| 開業の先生方から皮膚科難治例のご紹介をいただくようになり早8年が経った.立ち上げ時は思わず絶句するようなご批判も受けたが,今や全国700件を超える動物病院とお付き合いさせていただくに至り,至福の感がある.当施設では1例に重きを置いた診療を目指し,専門的な経験や技術は開業獣医師との信頼関係をもってはじめて機能しうると考えている.このような意識のもと症例を大切に扱うことが,紹介してくださった先生に対する最大のお礼と信じていた.ところが数日前,その理念に再考を迫られる症例に出会った. 症例はまだ若い雄のスコティシュ・フォールドで,平成14年12月尾背に皮疹が生じ,ベテランの先生の病院を受診された.先生はお正月を返上して診療に当たり,さらに抗生剤,包帯療法,レーザーなどを駆使するも改善なく,飼い主のご希望もあり平成15年5月ASCどうぶつ皮膚病センター紹介受診となった.皮膚病は尾背に生じたざ瘡様皮疹であり,種や家族的な発症素因とともに,誘因として環境ストレス,季節,増悪因子として二次的な感染症,種々の医療行為の関与が疑われた.疲れ切っていた飼い主を養護し,これまでの処置が本症の治療に必要であったことを説明した上で,リスクはあるもストレス回避を優先した治療として,包帯を除去し,さらに猫に快適と思われる生活作りを優先したいと提案した.一時舐性行動による発赤を認めたが,その後明らかな育毛を認め,さらに猫が生き生きとしてきたと報告を受け,あえて薬物療法を選択せず生活指導を継続した.皮疹は軽微ながら持続するも悪化なく,幸いにも受診2カ月後に通院を終了させることができた.推測の域はでないが,種々のストレス回避と季節的な性ホルモンの変調による脂腺活動の低下が,症状の安定に繋がったと考えた. 本症の病態に種や家族的な素因が関与することを考慮し,今後生活や季節の変化による再発の可能性があることを飼い主に伝え,その翌日ご紹介頂いた先生にお電話で報告をした.すると先生は,昨日飼い主より電話があったこと,当院で何もせず症状がよくなったと言われたこと,そして支払った治療費を返還して欲しいと要求されたことを教えてくださった.結果的には,私が行った処置で当方を紹介してくださった先生に思わぬトラブルを投げかけてしまい,瞬時にお叱りを受ける覚悟をした.先生はその後も電話口で淡々と語られた.たしかに早く紹介すればお互い辛い思いをしないで済んだのかもしれず,それを思うと今回の経験に対する授業料だと思って先方の意向に従ったとのことであった.大先輩が私のような駆け出しになかなか言える内容ではなく,先生のお言葉に畏敬の念を抱いた. 臨床施設において,なかなかよくならない症状を多角的に治療し,それに伴う多大な診療費を請求するケースはどこにでもあり,インフォームドコンセントをもっても自分自身に歯がゆい思いをすることがある.自分で対応しかねると判断した症例は適正な施設と連携したケアが必要であるが,紹介の判断には個々の医療理念や経験,そして地域性などが大きく反映され,その適応や時期を単純に規定することができない.さらにわれわれは診察室で患者と1対1の関係をもちながら,時に飼い主から1対多として一獣医師に獣医療そのものを問われることがある.患者は良質な獣医療に医療ネットワークが不可欠であることをすでに熟知し,わが国の獣医療組織の立ち後れにさまざまな形で不満を訴えているかのように感じられることもある.今回の症例はまさにそのような事例であったのではないだろうか.今後われわれ臨床獣医師は,自分の技術知識を磨くとともに個々の役割を認知し,お互いが十分なコミュニケーションを図ることで,見せかけではなく機能性をもった獣医療ネットワークを築く必要があることを改めて認識させられた. |
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| † 連絡責任者: | 永田雅彦(ASCどうぶつ皮膚病センター) 〒182-0012 調布市深大寺東町1-3-2 TEL 0424-80-9342 FAX 0424-41-6095 |