構成獣医師の声

全国の獣医師は日本獣医師会のもとに団結を

―日本獣医師会組織財政委員会答申を受けた対応について思うこと―

中間實徳(山口県獣医師会会長(山口大学名誉教授))


 現在,全国の獣医師数は約3万人で,その内日本獣医師会の構成獣医師は27,132人で,加入率は約90%である.この加入率は日本医師会のそれよりも高いが,その理由の一つは全国55地方獣医師会が会員となっており,各獣医師会が会員確保のために努力していることによる.しかし,最近若い獣医師や現職の公務員獣医師が獣医師会を脱会するという行為も出ているのは遺憾なことである.多くの公務員は,もっと獣医師という職業の自覚とプライドを持つべきであろう.

1.組織財政委員会答申における構成獣医師対策について
 平成15年1月29日に組織財政委員会(委員長:林 良博・東京大学農学部長)から提出された答申によると,日本獣医師会の役割は,個々の獣医師では対応が困難な課題を組織の力で,しかも全国レベルでの活動を展開する場を提供することにある.すなわち,全国的視点に立ち広域的に推進すべき課題,制度的な整備を要する課題,指導的な立場で取り組むべき課題に対処する役割を有するのが日本獣医師会であると述べている.また,構成獣医師の職域が,公務員,団体・民間会社,開業者と大きく3分割されている中で,開業者である構成獣医師についてはその多くが独立して獣医業を営むものであること等から,全国横断的な獣医師活動の場を日本獣医師会に求めている事情にある.そして,これらの構成獣医師の意見が日本獣医師会の事業運営に反映し得るよう組織の在り方を含めた体制整備を検討する必要があると述べている.私もこの答申を尊重して真剣に取り組んで貰いたいと考え,以下に具体的な事項を掲げて提案をすることにした.

2.獣医師倫理に反する行為者への処置
 小動物開業獣医師は年々増加しており,この分野の獣医師は将来に不安を抱いている.すでに幾つかの県では,国家的予防事業である犬の狂犬病予防注射を勧誘診療の手段に使い,あたかもスーパーマーケットの目玉商品のごとくに扱うなど獣医師倫理を逸脱した行為が行われており,獣医師会はその対応に苦慮しているのが現状である.獣医師倫理の逸脱行為者に対しては厳重な処置ができるよう早急に対処していかなくてはならない.

3.動物看護士(AHTあるいはVT)について
 小動物開業者の多くは,(社)日本動物病院福祉協会や日本小動物獣医師会の認定校である動物看護学校の卒業生の他,これらの学校等を出ていない者でも個人動物病院では採用しており,動物看護に関わる職種については何ら規制もなければ,処遇についても放任されている.日本獣医師会では前記2団体とも十分な協議をして,全国的に一定の基準を定めたカリキュラムを入れた認定校を創るようにすべきであろう.これから益々増加する小動物医療に従事する人々のレベルアップや処遇改善にも日本獣医師会小動物委員会で検討をしてもらいたい.

4.獣医師生涯研修制度
 平成12年度から試行的に開始された本事業は3年を経過し,平成15年度から本格実施に移った.しかし,この3年間でのポイント申告者数及び履修証交付者数は,最も期待されている小動物分野でも毎年少数にすぎない.診療獣医師の技術や知識の向上という点では,卒後研修事業はきわめて重要であるが,最低限のレベルを維持するためには毎年どれ程のポイントが必要かを義務付けるようにすべきではなかろうか? 大学の獣医学教育も6年制一貫教育となって20年以上にもなるが,社会からは十分な評価を得るにはいたっていない.特に,公務員や企業等の定年退職者が,小動物臨床の十分な再教育も受けずに安易に小動物病院を開設するのはどうかと考える.獣医師会では獣医師の社会的地位の向上を訴えてきているが,文書による開業届けだけで,現場の立ち入り検査もなければ,検査装置や診断装置等の設備や施設,あるいは技術等についても何ら制約のない現状では,社会からの信頼確保という点では逆行する感がある.

5.獣医学部創設問題
 平成16年度から国立大学の法人化が発足し,学長の権限が大幅に増大することになる.獣医学科を有する新制8国立大学の学長の多くは自助努力で現在の大学内に獣医学部を創設しようとしているが,国家公務員定数の25%削減が予定されている現在では,定員増は至難のことである.教育学部等の縮小化等で生じた教官定員を獣医学科へ当てようという話も聞くが,獣医臨床や獣医公衆衛生など専門性の高い獣医師免許の要る分野には到底そぐわないものである.「大学の獣医学部創設を急げ」と題して,本誌(第55巻第3号,198頁)にも私は書いているが,欧米の先進国のように大学家畜病院にインターン・レジデント制を導入すべきである.日本では,現在毎年約1,000人の獣医師が誕生しているが,この数は日本獣医師会を初め,先の答申でも妥当な数であろうとしている.しかし,現在の獣医学科のある大学ですべてが獣医学部を創設となると,18以上の講座数と72名以上の教官数が確保しなければならない.一昨年2月に出された「獣医学教育のあり方に関する懇談会」(座長:黒川 清・日本学術会議副会長)の答申でも獣医系国立大学は3〜4校に再編整備することを謳っている.日本獣医師会は後に続く獣医師のためにも,世界に通用する獣医学部創設の早期実現に努力すべきである.

6.日本獣医師会総会のあり方
 年に1回開催される通常総会は日本獣医師会の最高意思決定機関であるが,会議の資料は事前に配布されているので,当日の会では重要な点のみを簡単に触れて,地方会の意見を聴く時間をもっと多く取ってもらいたい.全国会長会議は折角全国から集まって行う会議であるので,地方で抱える諸問題に耳を傾け,真剣に取り組む姿勢を望みたい.



† 連絡責任者: 中間實徳(山口県獣医師会)
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