地方会だより

動物愛護推進への新たな取り組み

遠山吾市(茨城県獣医師会会長)

 風光る朝,早朝の診療から帰宅して微睡の一時……突然電話のベル音……それは日本獣医師会長五十嵐幸男先生が熊谷市の自宅からの電話であった.「本朝,テレビ放送で茨城県の野犬対策や学校飼育動物関係の対応を拝見した,勇気ある決断と行動に敬服する……」旨の慰労と激励をいただき,今回の記事を日獣会誌に掲載願いたい旨の依頼であった.
 茨城県獣医師会では,昭和58年に動物愛護の観点から県内初の動物霊園「慈苑」を設立運営するとともに,県が主催する「動物愛護フェスティバル」事業を積極的に後援し,動物愛護絵画ポスターコンクール展や動物愛護功労者及び動物愛護実践校(小学校)表彰式典に会長賞を授与するなど,これまで動物愛護思想の普及啓発の一翼を担ってきた.
 この他,本会の独自事業として「ペット無料健康相談事業」を県内4ブロックで地区産業祭等にあわせ毎年開催し,平成8年度からは,犬及び猫の避妊・去勢手術助成事業を開始し,これまでの7年間で犬・猫それぞれ去勢約1,400頭,避妊約3,600頭の助成を行い,動物の愛護及び管理に関する法(以下「動愛法」という)に規定する繁殖制限措置を積極的に促進してきた.幸いにも,この助成事業が先導的役割を果たすこととなり,県内8市町村が逐次助成制度を創設するという喜ばしい波及効果もあった.さらに,平成9年度からは,「飼い犬のしつけ方教室」を独自事業に加え,これまで6年間で約2,000名の受講者に,講演や実演を通じた正しい飼い方の普及にも努めてきた.
 しかし,行政と連携したこうしたさまざまな動物愛護対策にも関わらず,動愛法18条に基づき県に引き取りを求められる犬や猫の頭数は,年間16,000頭にものぼり,この業務を行う全国自治体中,第2位という不名誉な位置に甘んじ,しかも引取数の約7割が子犬・子猫という憂慮すべき状況にあった.
 こうした現状に直面している県の担当課や動物指導センターの会員はもちろんのこと,茨城県獣医師会としても,この状況を脱却し,動愛法の趣旨理念があまねく徹底される茨城づくりを進めたいとの日頃の熱い思いを募らせていたところ,茨城県では平成14年度事業として動物愛護推進のための基本政策ともなる計画づくりに着手することとなった.茨城県獣医師会もこの計画策定作業に積極的に参画することとし,動物愛護に造詣が深い中川志郎先生(茨城県自然博物館長)を委員長に,行政・教育・県民・ボランティア等各分野の代表を構成メンバーとして,一年間をかけて計画策定作業を進めてきた.その結果,人と動物が共生する地域社会の実現に向け,県民一人ひとりに動物を愛護する心を育み,動物に関する正しい知識や習性を理解した飼育方法等を普及するために,県,市町村,関係機関・団体,地域,動物の飼い主や県民等の関係者が担う役割や相互の連携,今後取り組むべき方向を明確にする等,具体的内容を盛り込んだ計画を策定することができた.これに基づき,県は,平成15年度を初年度とする10カ年計画として,茨城県動物愛護推進計画を決定したので,この計画の主な特徴を以下に紹介する(計画概要:別紙).
(1) 動物愛護推進のための具体的目標の設定
[1] 計画5カ年後に,犬及び猫の引取頭数半減化(現況:全国第2位)平成13年度:16,000頭→平成19年度:8,000頭未満
 ・引取窓口の段階的縮小と有料化の推進
 ・目標達成のための市町村別目標値の設定
[2] 捕獲された犬の返還率向上(現況:全国最下位)平成13年度:1.2%→平成24年度:10.0%以上
 ・所有者明示の普及徹底(鑑札装着の徹底に加えてマイクロチップの導入等)
[3] 究極的な目標として,犬及び猫の致死処置頭数「ゼロ」の達成
(2) 動物愛護団体等の育成強化と動物愛護推進協議会の設置
 動物愛護を担う県民ボランティアの育成と活動を支援するとともに,計画全体の進行管理を行うために,動愛法第22条の規定に基づく動物愛護推進員の活動支援のための協議会機能を併せ持つ動物愛護推進協議会を設置する.
(3) 学校獣医師及び学校飼育動物支援委員会の設置
 県から本会への受託事業として,平成元年度から小学校児童を対象とした「動物ふれあい教室」を開催し,動物愛護を通じた児童への情操涵養に寄与してきたが,教育との連携の重要性に鑑み,会員のボランティア的協力を得て,学校獣医師設置モデル事業を試み事業評価を行うこととした.対象となる各小学校には,学校飼育動物支援委員会(以下「VTP委員会」:Veterinary(獣医師)・Teacher(学校長等),Parents(PTA又は地域のボランティア等の関係者)を設置し,学校飼育動物の健康保持や学校教育への支援策を話し合う場を設けることとしている.この事業はモデル的な位置づけとし,毎年度末には,前述の各小学校に設置されたVTP委員会がそれぞれの小学校での活動を発表する機会を設け,教育的効果についても関係者に評価していただくこととしている.この試みが教育関係者の高い評価を得るとともに学校獣医師の必要性が認知され,学校医制度に比類する制度として確立されることを願うものである.

 この他,計画中には.動物愛護を担う動物愛護推進員などの民間ボランティアや団体の育成と連携,さらには動物愛護推進拠点のあり方と連携など,茨城県が抱える現状について動物愛護推進のための方向を盛り込んでいる.
 茨城県獣医師会としても,いよいよ動物愛護事業の正念場に差しかかったと思われ,これまでの活動実績を踏まえ,行政や民間ボランティア,動物の飼育者の皆さん達と相互に連携し,動物愛護プラザの建設を視野に入れて,この計画の推進に全面的な協力支援を行いたい.これから行われる動物愛護に関する新たな試みが実を結び,やがて文化の成熟度合いを示すバロメーターとも言える動物愛護意識が県民一人ひとりに定着し,本県が動物愛護の先進県となることを心から願うものである.


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【別 紙】
「茨城県動物愛護推進計画」の概要
1.策定の趣旨
 「人と動物が共生する地域社会」の実現に向けて,県民一人ひとりに動物を愛護する心を育み,動物に関する正しい知識や習性を理解した飼育方法等を普及するため,県,市町村,関係機関・団体,地域,動物の飼い主や県民等のさまざまな関係者が担う役割や,今後取り組むべき方向を明確にし,相互に連携しながら推進すべき動物愛護に関する具体的内容を計画として策定する.
2.位置付け
 茨城県長期総合計画の推進にあたって,「ゆたかさを実感できる安全快適な生活環境づくり」を動物の愛護と適正な管理の普及啓発の観点から実現する役割を担う.
3.計画期間
 平成15年度から24年度(10年間)
4.基本理念
「人と動物が共生する地域社会」の実現
  動物が命あるものであることを基本原則に,動物の適正な取扱いや飼養管理を確保することにより,動物と人のよりよい関係づくりを進め,生命尊重,友愛等の情操の涵養を図り,心豊かな社会を実現する.
5.計画の特徴
(1) 動物愛護推進のための具体的目標の設定
[1] 計画5カ年後に,犬及びねこの引取頭数半減化(現況:全国第2位)
目標達成のための市町村別目標値の設定
[2] 捕獲された犬の返還率の向上(現況:全国最下位)
[3] 犬及びねこの致死処置頭数「ゼロ」の達成
(2) 動物愛護団体等の育成強化と動物愛護推進協議会の設置
 動物愛護を担う県民ボランティアの育成と活動を支援するとともに,この計画全体の実行方策等に関する協議と進行管理を行うために,法第22条の規定に基づく動物愛護推進員の活動支援のための協議会機能を併せ持つ「動物愛護推進協議会」を設置する.
 構成員:県,市町村の代表,獣医師会,動物愛護推進員代表,動物愛護を目的とする公益法人その他の団体の代表,動物取扱業者の団体の代表等
(3) 学校獣医師及び学校飼育動物支援委員会の設置
 「動物ふれあい教室」を発展的に展開させた「学校獣医師」設置モデル事業の実施にあわせ,対象となる各小学校に,学校飼育動物支援委員会(獣医師Veterinary,学校長等Teacher,PTA又は地域のボランティア等の関係者Parents)を設置し,児童への情操教育の一助とする.
(4) 県の動物愛護推進体制の強化
 動物指導センターと本庁担当課に動物愛護担当職員を配置する.
(5) 全国2番目となる計画
 動物愛護の推進に関する長期計画としては,静岡県(平成12年8月策定)に次いで,本計画が全国2番目となる.(環境省自然環境局総務課動物愛護管理室に確認)


† 連絡責任者: 遠山吾市(茨城県獣医師会)
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