構成獣医師の声

学校飼育動物と近親交配の危険性について考える



 一昨年の冬,ある小学校の先生から,こんなメールをもらった.「私の学校ではウサギを8羽飼っていましたが,寒さのせいでしょうか,6羽が次々と死んでしまいました.子ども達は裏山に穴を掘ってその都度埋めています.こんな状態で,子ども達が動物の死に慣れてしまうのではないかと心配です.」という内容のものであった.
 また,ホームページを開いている関係もあり小学校のホームページをみる機会も多く,そうした中には,「2年続けてチャボが卵を抱いたのですが,ふ化しませんでした.来年はヒナがふ化するといいです.」といったページや,「ウサギの子が産まれたのですが,3羽しか産まれず,そのうち1羽は間もなく死んでしまいました.どうしたらいいでしょうか.」という内容のものも結構ある.
 今,数多くの野生動物が絶滅の危機にあり,その保護対策が行われていることはご承知のとおりである.トキなどはすでに絶滅してしまい,現在,佐渡のトキ保護センターでは100羽までは人工的に増やそうと懸命の努力が払われている.ここで羽数が問題になるのは,近親交配による種の退化(近交退化)が危惧されるからである.
 私は動物学者ではないが,野生の動物が滅びる原則は環境悪化→頭羽数の減少→近交退化ではないかと考えている.
 ちなみに,養鶏試験場に在職中,極端な近交鶏を作出してみようと思い,兄妹交配をして100羽の集団を作ったことがあった.当然,受精率,ふ化率,育成率が悪く,100羽の集団にするのがやっとであった.そして,次の年,この集団から同じような交配方法で100羽の集団を作ろうとしたが,50羽にもならず試験は中止せざるを得なかった.近交退化の恐ろしさを身をもって体験させられた.
 現在,鶏の改良においては近交を避けるため,雄と雌は少なくとも3世代遡っても共通祖先がないことを原則としており,以前はこれを手作業で行っていたが最近ではコンピュータを使って交配できる雄と雌を探すことができるようになった.
 ウサギでも実験用や製薬会社に出荷する養兎家は,種兎に使うものは5グループ位にわけ,同じ部屋の雄と雌は交配しないようにしている.ただし,日本鶏飼養者にあっては戻し交配等も行われており,近交になっている可能性は高い.
 さて,小学校でウサギやニワトリを飼い始める場合に,雄1羽に対して雌2羽程度で,しかも同じ月齢のケースが多い.となると,兄妹の可能性は非常に高く,兄妹交配ということになる.当然,近交の弊害が起き,冒頭のような問題が生じてくる可能性がある.もちろん,原因は近交だけではないが,教育の現場ではこのようなことはあまり考えられていない.したがって,近交の問題は野生の動物だけではなく,もっと足元をみていく必要がある.
 このことを具体的に考えてみたい,丈夫な動物を作るために…….
1) オスとメスが親子,兄妹の可能性があるときは,近くの学校等とオスを交換する.
2) 繁殖計画を作る.
 ウサギはオスとメスは必ず,別飼いとし,子供を作る時にのみ一時一緒にする(交配).
 ニワトリは卵を抱き始めてもヒナが欲しくないときは卵を取り上げてしまう.
3) 名前を付けて,個体記録を作り,親子兄妹関係を明確にしておき,子供をとるときに近交にならないように交配する.
こんな指導をしてみてはどうだろうか.



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