診療室

インフォームド・コンセントの重要性について

大野秀樹(埼玉県獣医師会会員)

 小動物を診療される先生方の中には,飼い主さんとのコミュニケーションおよびインフォームド・コンセント(医療内容について獣医師から具体的に十分な説明を受け,飼い主が納得できる医療内容を獣医師とともに形成していくプロセス)の不足により,トラブルになった経験がおありかと思う.これからの小動物の獣医師は,動物の診療・治療する前に飼い主へのインフォームド・コンセントをしっかりする必要があり,また,そのことが大変重要になると思われる.よって,インフォームド・コンセントの重要性について少し考えてみたいと思う.
 最近,高齢の犬・猫を診療する機会が多くなった.それも,お年寄りが自分の子供以上に可愛がっているケースがよくある.犬・猫の10歳は人間の年齢に換算すると60歳を超えることになる.加齢に伴い,循環器・消化器・泌尿器・生殖器などいろいろなところに障害が出始める.私の病院では,手術を必要とする場合には病気の説明を丁寧にして同意を得た上で,手術に極力立ち会っていただく.入院した場合には,できるだけ毎日お見舞いに来ていただく.状態が悪い子の場合には,飼い主もある程度覚悟して説明を聞いてくれるので問題は少ないのであるが,見掛けは元気だけれども実際は重症の場合には特に注意して説明する必要がある.手術後あるいは入院治療中に残念にも亡くなってしまった場合,インフォームド・コンセントがしっかりしていれば,医療の最善を尽くしたことに対して,飼い主はお礼の言葉をかけてくれる.しかし,飼い主が納得していないで亡くなってしまうと,「大切な子が動物病院で殺された.手術なんかしたくなかったのに無理やり手術させられた.入院なんかしたくなかったのに無理やり入院させられた.」ということになる.同じ手術や入院治療したにもかかわらず,インフォームド・コンセントがしっかりしているかどうかで感謝されたり,恨まれたりもする.犬・猫も家族の一員としての地位を占められるようになってきた.そして,益々高度医療が求められるようになってきた.しかし,インフォームド・コンセントが不十分なまま治療中の動物が亡くなってしまうと,その後の飼い主の心のケアーはとても大変になる.私たち獣医師は,犬・猫に最善を尽くした治療をすることはもちろんであるが,飼い主にとっても最善の治療をする必要がある.
 今後,犬猫その他の動物が家族の一員として,また,私たちの心の友として,益々重要な存在になってくる.飼い主も,自分の子供以上に可愛がっているために自然と神経質になってくる.私たち小動物の獣医師は,トラブルや裁判にならないためにも飼い主さんとのコミュニケーションおよびインフォームド・コンセントに十分力を入れていく必要があるのではないではないか.

大野秀樹  
―略 歴―


1981年 北里大学卒業
1988年 埼玉県本庄市で開業
1994年 日本獣医畜産大学獣医外科学教室 研究生
1998年 北里大学獣医解剖学教室 研究生


† 連絡責任者: 大野秀樹(大野犬猫病院)
〒367-0032 本庄市大字栗崎5-2
TEL 0495-24-7911
FAX 0495-21-7992