近年,情報通信技術の発達に伴い,インターネット等を利用し,海外で製造販売されている商品を個人が自ら輸入することが容易になっている.
人体用のダイエット用健康食品による健康被害の原因となった未承認医薬品は個人輸入されたものであったが,動物用においても個人輸入に係る薬事法に抵触する行為が薬事監視における大きな問題となってきている.今回,個人輸入された医薬品等について,食品の安全性確保に対する社会的要請の高まりという現下の情勢も踏まえ,その要点について紹介することとしたい. |
1.個人輸入の現状 |
現在,薬事法に基づく医薬品等の輸入承認,輸入販売業の許可を得なくとも,[1] 獣医師が自らの診療に使用する場合,[2] 個人が自己所有の動物に使用する場合,[3] 研究機関が研究に使用する場合等の輸入は,個人輸入として認められているところである.
個人輸入は,治療,研究等に必須な動物用医薬品等であるものの,承認・許可を得ておらず,日本国内で入手できないことからやむを得ず選択されるべき手段であり,価格が安いから等の理由で安易に安全性の確認されていないものを輸入し,使用することは本来のあるべき姿ではない.
しかしながら,近年,インターネット等を利用した個人輸入が急増している.
この様な状況の中,人体用の未承認医薬品である,いわゆるダイエット用健康食品による健康被害事件が起こった.御承知のとおり,数名の方が亡くなられた事件である.原因となった未承認医薬品は,その多くがインターネットを通じて個人輸入されたものであることが判明しており,介在した個人輸入代行業者が,実際には未承認医薬品の輸入や未承認医薬品の広告を行うなど薬事法に違反する行為を行う事例もみられたところである.
動物用医薬品等においても,個人輸入件数の増加に伴い,個人輸入代行業者が未承認医薬品の広告を行うなど,薬事法に違反する行為を行っている事例が増えてきている. |
2.個人輸入等に係る主な規制 |
個人輸入およびそれにより入手した未承認医薬品等の使用にあたり関係する主な規制については,薬事法および獣医師法において規定されている.
薬事法では,動物用医薬品等の品質,有効性および安全性の確保のために必要な規制を動物用医薬品等の輸入,使用等の各段階において規定している.また,獣医師法では,飼育動物の診療業務の制限等について規制しており,その概要は次のとおりである.
(1) |
輸入段階
薬事法においては,有効性および安全性確保のため,効能・効果,用法・用量,残留性等を品目ごとに審査する承認制度を設けている.また,動物用医薬品等を国内に提供する輸入者について,その営業が保健衛生上問題なく行われることを目的とした輸入販売業許可制度を設けている.
個人輸入によって入手した医薬品は未承認医薬品に該当することとなるが,これらは,有効性および安全性が審査・承認されていないことから,その使用に起因する結果等については,輸入者自らが責任を負うことになる.そのため,自己の診療に使用している獣医師は十分な自覚が必要である.
また,個人輸入により入手した未承認医薬品等をその量の多少に係わらず他人に販売又は授与することは無許可販売等にあたり,個人輸入の範囲を逸脱して,許可の必要な輸入になると判断されることから,薬事法に違反する行為である.
なお,未承認医薬品等の広告は薬事法で禁止されており,インターネット,ダイレクトメール等により広告する行為も薬事法違反である. |
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使用段階
薬事法においては,畜水産物への動物用医薬品の残留により,人に健康被害が発生することを防止するため,このようなおそれのある動物用医薬品を使用する際に遵守すべき基準として「動物用医薬品の使用の規制に関する省令」(以下「使用基準」という.)を定めている.
個人輸入によって入手した未承認医薬品であっても,使用基準の定められた医薬品に該当する場合は,当該基準が適用され,その使用は規制されることとなり,当該基準を遵守しなかった場合には薬事法違反となる.
また,獣医師の診療と適切な指示に基づくのであれば,当該基準に定められた以外の用量等で使用することも可能であるが,たとえ有効成分が同一の医薬品であっても,含有する賦形剤等の違いによって家畜体内での残留性は異なることから,個人輸入によって入手した未承認医薬品については,十分な知見に基づき責任を持って適切な投与方法,投与量,出荷制限期間等の指示をすることが必要である.
獣医師法においては,獣医師でなければ診療を業務とすることができない飼育動物として,犬,猫,牛,馬,豚,鶏等が定められている.このため,獣医師ではない者が,預かっている犬,猫等に個人輸入によって入手した未承認医薬品等を使用することは,獣医師法に違反する行為である. |
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3.個人輸入された未承認医薬品と安全性 |
BSEの発生を始めとし,偽装表示,中国産野菜における農薬の残留,無登録農薬の使用など食品に対する安全性の信頼がぐらつくような問題が立て続けに起こっている.
動物用医薬品に関しても,厚生労働省が10月に公表した平成13年度畜水産食品の残留有害物質モニタリング検査では,輸入畜水産物だけでなく,国産の鶏卵,はちみつ,ウナギにおいても抗生物質や合成抗菌剤が検出された.これはともすれば,わが国畜水産物に対する国民の信頼を失うことによって消費が落ち込み,畜水産業界に多大な影響を及ぼす事態にもなりかねないものである.そのような事態を避けるために,獣医師の医薬品使用にあたっての慎重で正確な判断と,家畜等の飼育者への適切で力強い指導がきわめて重要であり,畜水産業界に携わる獣医師への期待は大きなものとなっている.
海外にはさまざまな物質が存在している.前述したとおり,未承認医薬品は審査・承認を得ていないため,どの様な用法および用量,どれくらいの使用禁止期間をおけば畜水産物に残留がなくなるのか明らかになってはいない.また,その他の安全性についても確認されていない物質である.獣医師は,このような未承認医薬品を診療において使用することは,必要な獣医療を提供する上でやむを得ない場合に限定し,かつ,その場合には,各自の専門知識の裏付けに基づき,結果責任についての十分な認識で行っていただきたい.
なお,ここでは食品の安全性について重点を置いて紹介したが,犬,猫等の小動物の場合においても,獣医師はじめ,獣医師の指示に基づき個人輸入した医薬品を使用する者の責任について同様の認識で対応することが必要である. |
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