現在の欧米諸国ではあまり珍しくない現象であるが,研究や教育のための動物利用に疑問を抱く学生がわが国の獣医大学にも現れてきている.家畜利用は別としても,動物愛護の最前線に位置付けられるべき獣医師教育や獣医学研究において,生きた動物を利用することの是非を真剣に悩んでいる学生は少なくない.この問題は,日本獣医師会ではかなり前から検討されてきたが,動物を用いる獣医学教育について日本獣医学会が正式に取り上げることはなかった.
一昨年の東京農工大の解剖学実習に対する動物愛議団体からの抗議がひとつの契機となって,第133回(平成14年3月,日獣大)および第134回(平成14年9月,岐阜大)獣医学会において,獣医学教育における動物利用の是非に関する連続したシンポジウムが開催された.
通常は,獣医学教育における動物利用に関する一般的な議論(総論)を受けて具体的な対応策の議論(各論)に入る流れであるが,この問題に関する獣医学会員の理解は必ずしも十分に深まっているとは思われなかったので,動物を用いない教育の可能性(各論)を先に扱った.なお,試験研究や生物製剤製造のみならず専門教育に用いられる動物も法的に実験動物である.今回のシンポジウムでは,獣医学教育における“実験動物”の利用のあり方について討議した.
2つのシンポジウムは予想以上に関係者の関心を集め,各演者の話題提供もフロアからの発言もきわめて積極的かつ建設的であった.この議論が獣医学会の中に止まっていることは残念で,多くの関係者の目に触れるような資料として残すことした.
ただし,獣医学会シンポジウムの順序とは掲載順序を逆にし.第134回記録(総論)を先に第133回記録(各論)を後とした.誌面の制約で記述は簡潔であるが,各演者(演者所属は当時のもの)の発言趣旨は理解頂けると思う.また,一部の演題については,当日のシンポジウムと異なる標題に改められている. |