馬耳東風

 
 なぜ鯨を捕ってはいけないのか.鯨はどこも捨てるところがない貴重な資源で,尾の身の刺身はすばらしく,縁が赤い例のベーコン,酢味噌で食べる晒し鯨は美味.
 それが今ではめったにお目にかかれず,あっても高価だ.国際捕鯨委員会(IWC)が捕鯨を禁止したから.
 ではなぜ鯨を捕ってはいけないのか.IWCの総会で捕鯨反対国は,鯨は見る動物だから捕って食べてはいけないのだといい,日本の調査捕鯨は科学に名を借りた商業行為だと決めつけ,環境団体も反対運動を展開する.
 1972年,鯨が減ったからと日本を除いた各国が捕鯨から撤退した.それ以降ミンク鯨を始め鯨は確実に増え続けている.それでも鯨は捕ってはいけないのか.鯨は賢くて平和な動物だからというが,反捕鯨の理屈にも根拠にもならないと思うのだが.
 日本では縄文時代から鯨を捕った形跡があり,江戸時代の文化文政の頃(1800年代)になるとすでに庶民の食卓に上っていたという.世界の捕鯨をみると,17世紀にはイギリス,オランダが捕っていて,鯨のヒゲは高級婦人下着の素材として,鯨油と共に莫大な利益を上げていた.19世紀に入りアメリカ,イギリス,オーストラリア,ニュージーランドなどが鯨を乱獲し,特にアメリカはハワイ諸島附近でセミ鯨,マッコウ鯨などを大規模に捕獲していた.20世紀になると日本,イギリス,ノルウェーなどがキャッチャーボートに火薬を使った砲を積み,母船と船団を組んで南氷洋を舞台に41か国が出漁し,第二次世界戦争終結まで続けていた.
 そこで,当然鯨が減少し,1946年国際捕鯨条約が締結され,2年後IWCが捕獲規制をし,1962年国ごとに捕獲数を割り当てた.それから10年後アメリカはベトナム戦争に突入し,72年国連人間環境会議で例の枯葉作戦が批判され,地球環境を守るという名目で捕鯨反対にすり替え,1頭の鯨を守れずにどうして地球と人類が守れるかと10年間の捕鯨禁止となってしまった.
 そして82年IWCは商業捕鯨停止を決め,環境団体を巻き込み,鯨は捕っても食べてもいけないと決議した.
 以来鯨は増加し,現在南氷洋にはマッコウ鯨195万頭,ミンク鯨76万頭,ナガス鯨12万頭などとIWC科学委員会は調査結果を発表している.ならば年間繁殖率5%以内での捕鯨は,減少の心配はないといわれる.
 ところで鯨が増え過ぎると,世界中の漁獲量9千万トンに対し,鯨は3〜5億トンの魚を捕食するというから,逆に海の生態系が崩れるという.肉食は道義に背くか.
 昨年5月下関市で開催のIWC総会の際,外国の捕鯨反対の委員が市内の料理店で特上のすしを注文したというが,鯨は駄目で鮪はいいのか.

(寅)