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ラテンミュージックと,その母語であるスペイン語の美しさに魅せられスペイン語の勉強を始めて20年になる.私はかねがね片言でも話が通じるようになったら,この残酷ショーとも思える闘牛を国技としているスペインの人達に,その意識調査をしてみたいという想いを持ち続けてきたのだが,平成12年の秋にマドリードの闘牛見物がセットされたツアーに参加して,長年の夢であったスペイン人の闘牛観をじかに聞く機会を得た. 闘牛開始は午後5時半,といってもヨーロッパ西端のスペインではまだ陽は高く,観客席はLUZ(日向)とSOMBRA(陰)がはっきりわかれ,運良くSOMBRA側にあるロイヤルボックスの真下に陣取って観ることができた.ファンファーレとともに正装した闘牛士の一団が重厚なマットで防護した馬に乗り,長槍を持ったピカドール達を従えた入場行進に次ぎ,大きな羽根飾りのついたつば広帽子をかぶった中世の騎士姿の2人が馬に乗って一周してセレモニーが終わり,ゲーム開始の興奮と緊張感が高まるうちにアレーナの扉が開かれると,興奮した猛牛が躍り出るやピカドールの馬に向かって猛進する.これをピカドールが馬上から槍で背中を一突して気勢を削ぐ.次には,飾りの付いた銛(バンデリージャ)を2本持った闘牛士が,ピンクの布を振って牛を誘いながら斜め前から背中に一対を突き刺す.3人が合計6本の銛を刺し,血を流した牛は口を開け喘ぐ.そして,最後に本命のマタドールが真っ赤なムレータという布に長剣を包んで登場すると,場内の興奮が最高潮に達する.しばしの間,マタドールはムレータを操って流麗な身のこなしで牛の攻撃をかわし,やがて剣を持ち替えると息詰まる瞬間の後に,ねらいを定めた肩甲間より心臓を目がけたとどめの一突が,牛をその場に腹這いにさせる.牛の鼻と口から鮮血が吹き出るが,この時こそが闘牛の究極の瞬間と人々は酔い,拍手と歓声が渦巻く中をマタドールは賞賛と花束を受けながら場内を一周する.これが6ゲームも次々と展開されるのだが,映画やテレビで断片的に見たことはあったが,実物の印象は強烈な迫力とともに何とも残酷な印象の強いシーンであった. そこで,早速場内で見かけた各年齢層の男女に質問を試みたが,答は異口同音,「闘牛には残酷な面もあるが,人間と動物の闘いを芸術的な様式でセレモニーにした歴史と伝統あるわが国の文化の華である.」との答が返ってきた.「動物の死は,すなわち人間の勝利であり,同時に食糧の収穫につながる.」という狩猟民族の子孫である彼等の世界観が伺うことができた.残酷さの面だけを強く意識していたわが農耕民族の子孫の発想の違いを体感して,納得したわが栗庵先生の満足のスペイン旅行であった. そこで感じたことは,昨今,動物愛護運動のかまびすしい時も外国の非難や抗議もなんのそのと,スペイン人は胸を張って闘牛は自国の文化の華であるといって,今日もロイヤルボックスのある闘牛場には国旗がへんぽんとひるがえり,血に染まって倒れた猛牛とこれを一突きで倒したマタドールに「オーレー!」と惜しみないエールを送り続けることであろう. 私は,つくづくわれわれ日本人も自国の文化を誇りを持って保護し,外国から非難されている捕鯨にしても,「わが国の食文化を支えてきた歴史があるのだ.」といって,絶滅どころか増え過ぎて莫大な漁業資源を喰い尽くさんとしているという調査結果に基づいて,「WWCとやらを脱退してでも適正捕鯨を続けるべきである.」との意を強くしたものである. |
† 連絡責任者: | 栗村 正(甲子園獣医科) 〒663-8113 西宮市甲子園口3-4-30 TEL 0798-67-4698 FAX 0798-67-7100 |