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衛藤真理子†(農林水産省動物検疫所)
開業の先生方が多く紹介されている〈診療室〉であるが,今回は動物検疫所の検査室から一言である. 地方の大学の獣医学科を卒業した私が,日本の畜産を守るような仕事をしたいと農林水産省動物検疫所に就職し,家畜防疫官として水際防疫に携わって29年である.畜産物の検査3年,動物の検査10年,精密検査部門16年で,大半を検査室で過ごし,動物・畜産物の輸出入検疫の一端を担いながら,検査室の窓から日本の畜産と家畜衛生を眺めてきた. 入省以来,約30年の中で家畜防疫官として最大のショックは口蹄疫(FMD)である.本病の診断に関しては,JICAからの派遣でタイ国のFMDセンターにおいて1年間の経験があり,国内での発生時には,動物衛生研究所海外病研究部で診断の一員に加えてもらう機会があった.約50日間は特殊実験施設にたてこもりながら検査に専念した.動物衛生研究所,動物医薬品検査所の方々と,毎日100枚近いELISAプレートの山にひたすら挑み続けた“プロジェクトX”の日々であった. 現在,鳥インフルエンザ,西ナイルウイルス感染症等について対策が検討されているが,絶対に安全・安心はあり得ない世の中なので,如何にリスクを軽減させるかの対策を講じなければならない.目に見えない敵(ウイルス等の病原体)との戦いは今後も続くため,新たな技術も導入しながら,診断体制を整えなければならない.動物衛生研究所や大学との共同研究を進めたり,OIEの国際基準に従った診断法の導入に努めている.家きん肉からの鳥インフルエンザウイルスやニューカッスル病ウイルスの分離や加熱処理肉の加熱状況の検査も行っている.さらに,われわれの検査は,家畜の伝染病の診断に関するものだけでなく,BSE関連の対策として,魚粉中の動物性加工蛋白の含有の有無や獣脂中の不純物の検査にまで多種多様に及んでいる. 検査法は,ELISAやPCRなど新たに開発された手法であり,感度や迅速性に優れている.しかし,これらの手法で検査を行い,最終的に判定や診断をするのは人である.「陽性」とするか「陰性」とするかで,動物の命と他人の財産を左右するため,検査の正確さに関しては最大限の注意を払うのは当然のことである.常にこれでいいのか,間違いないのかと,検査ごとに自問自答し点検を怠らないよう心がけている. 検査や診断業務が大好きで,責任と自信を持てる分野であり,自分に最適と思える道に出会ったこと,それに従事させてもらっていることは幸いである.手に震えがでて,オートミキサーの役をするまで,試験管やピペットは手放せないので,決して最前線に出ることはないが,検査室にて水際防疫を支えていきたい. |
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† 連絡責任者: | 衛藤真理子(農林水産省動物検疫所精密検査部) 〒235-0008 横浜市磯子区原町11-1 TEL 045-751-5921 FAX 045-752-5466 |