【 読者の声 】


「僕アスペルです」

山口光昭(宮崎県獣医師会会員)


 私の所属する動物病院に現在,2頭の盲導犬がかかりつけでおります.1頭は10歳,雌,ラブラドルレトリーバーの「フランシス」,もう1頭は8歳の雄のラブラドルレトリーバーの「アスベル」です.
 盲導犬達は,目の不自由な人すべてに行き渡っているものではありません.まず,オーナーさんも厳しい基準で選ばれます.障害の程度が1級から2級の方,頭の中で地図が描ける方(さすがの盲導犬も地図は理解できませんから),自分の身辺処理ができる方(自分のことができない方に盲導犬のケアはできません),そして大事なことは犬が好きな方(当然)などをクリアした方が盲導犬の伴侶になります.
 しかし,これらの基準を満たしても,盲導犬の絶対数が少ないため,すべての方には行き渡ってないのも現実です.この盲導犬を1頭世の中に輩出するには約350万円かかるそうです.
 話は,うちに来ている盲導犬に戻りますが,非常に偉いのです.何が偉いかというと,飼い主さんです.自分中心ではなく,非常に社会に溶け込もうと努力しています.まず,常に公共の場所に行く際は,ナイロン製の服を着せています.獣医師としての立場ではついつい,「ファッションのために服なんか着せて……」と初めは思ったのですが,この方は,「公共の場所には犬が嫌いな方や,大の毛がつくことを嫌う方がいらっしゃるので……」とおっしゃられました.健常者(この表現は嫌いなのですが)の中でも平気で公共の場所で,ペットのブラッシングや,排便をさせる人がいる中で……とすごく嬉しくなったことを覚えています.また,診察にみえた際,必ず,こちらから「診察台に乗せましょう」と手を差し伸べると,「ありがとうございますが,結構です.私のできることは私がします」とひょいと35kgの体を診察台に乗せます.盲導犬だからといって診療費を安くするとかタダにするとかが嫌いな人です.福祉という名のよい意味の差別も最低限しか受けず健常者と対等に暮らしています.決して自分から求めない態度が逆に周りの人を快くこの方達のため,この犬達のためと草の根運動的になってきているのだと思います.
 そういった中,東京在住の歌手の金子裕則氏が,「僕アスペルです」という曲をCDで売り出し,レコード会社も了承の上,売上金のすべてを盲導犬育成の基金にという話を耳にしました.この歌の「アスペル」というのは本院のかかりつけの「アスベル号」だということも人伝えに聞きました.
 そして,私にできることを考えました.1枚1,200円のCDを全国の獣医師が1人1枚買うだけで,10数頭の盲導犬,動物関係の企業の社員が1人1枚買ってくれたら数10頭の盲導犬,各動物病院の患者さんが1人1枚買ってくれたら数100頭の盲導犬が……と夢が膨らみ始め,いても立ってもいられなくなりついついペンを執った次第です.
 一方,金子裕則氏の地道な活動に関してお話しさせていただくと,金子氏は「僕アスペルです」発売後,盲導犬の理解とCD販売の目的・目標のために,わが宮崎県を皮切りに小学校や中学校を廻り,コンサートを開催しています.1日に3〜4件の学校巡りコンサート,そして去る2月26日その忙しい合間を縫ってアスベルの主治医である本院に顔を出してくれました.その時の金子氏は過密な学校コンサートの途中で,無理がたたり急性の肺炎で養生中のことでした.御自身も一時右の耳が聞こえなくなり,以降,福祉に興味を持たれて何か役に立つことはないかと模索した活動だったようでした.コンサートの際,小学生の子が翌日お母さんからお小遣いをもらってきて買ってくれた話など,子供には純粋に心に響いたのではないかと私は感じました.この金子氏も,アスベルの飼い主同様に自分から寄附してくれとか買ってくれとかいわない物静かな方で,不思議と,この人たちの役に立てないかと私自身も感じました.そして,全国の獣医師諸氏にも何とかこの思いとこの運動が伝わらないかと思っています.
 九州獣医師連合会では,先だってツシマヤマネコ,イリオモテヤマネコの保護を目的に「ヤマネコ保護活動募金」を起こし,対馬,西表島に診療施設を設立し,家猫の不妊・去勢術の活動を行っています.九州地区獣医師会員は1口1,000円の募金,また,病院内に募金箱の設置などを行っています.今回のアスペル基金も私はこれと同様に1口1,200円の募金だと思い,少なからず盲導犬と縁のある獣医師によって広めていければいいな〜と考えております.また,盲導犬を通してペットの飼育やモラルに関しても訴えていければと思っています.
 たとえば,たかが犬を放し飼いにする問題(地方だけの問題かもしれませんが)も盲導犬を通して考えてみると,もしも,離れた犬が仕事中の盲導犬の周りで威嚇したとしたら仕事に支障が出ます.また,小さいお子さんが仕事中の盲導犬におやつをあげようとしたら……仕事に支障をきたすだけでなく,下痢や嘔吐につながり(盲導犬でも我慢できなくなることだってある),公共の場で粗相してしまうと「盲導犬なのにうんこしてるよ〜」とか「うちの店はお断りします」と社会から認められなくなります.たかが,よかれと思い他人の犬におやつをあげただけでこういうこともあるということを,盲導犬を通して,獣医師から飼い主さんへの犬の飼育指導や盲導犬の理解にもつながると考えています.
 現在の取り組みですが,わが町延岡市では獣医師会支部のみならず,病院,調剤薬局,教育機関,郵便局,飲食店などが草の根運動で広がっています.
 本院でも,CDを院内に流していると,飼い主さんの小学生や,難しい年頃の中学生までもが,「あっアスペルだ!」と喜んで,私と盲導犬の話や雑談に発展していきます.ほとんどの子供が口ずさめる曲なんです(逆に私の方がみんな知っていることに驚きました).
 わが東九州の小さな地方都市延岡から全国へ向けて発信された草の根運動に各獣医師,各獣医師会において何卒ご協力頂けるようにお願いします.1人1枚1,200円で盲導犬を増やしましょう!
 2月28日現在の草の根運動のアスペル基金状況は1,190枚1,418,350円と盲導犬1頭分にもなりませんが,まだこの運動は始まったばかりです.これから多くの人に知ってもらい,理解して協力頂けたらいいな〜と思っております.(宮崎でのキャンペーンは,4月末をもって終了し,今後,全国でのキャンペーンを予定しています.)

*「僕アスペルです」
販売価格 1,200円(税抜き価格1,140円)
出版社:MBレコード
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