前章で,動物由来感染症対策で臨床獣医師に求められる事項を示し,その実行のためにはまだ多くの課題が残されていることを述べたが,その課題を取り除いていく上で,行政側が以下のような点で支援できるのではないかと考えている.
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臨床獣医師サイドで得た情報を集計するシステム・データベースの構築 |
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医学との連携の橋渡し
上記の各項目について,行政の今の取り組みと今後の検討事項を整理し以下に示した. |
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「動物由来感染症に関する情報提供」について
感染症法では「事前型対応」が重要事項として位置づけられている.感染症対策では実際に感染症が発生する前に国,自治体,医師等,国民の各自で必要な準備をしておくことが重要ということである.動物由来感染症に対する臨床獣医師の事前型対応を考えてみれば,自ら必要な知識を習得して業務に反映させ,飼い主へ正しい知識を普及啓発し,あわせて収集した疫学情報(健康危害情報)を発信していくことであろう.
結核感染症課では動物由来感染症の情報提供体制を整備する中で,以下のように臨床獣医師への動物由来感染症の情報提供を行っている.
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ホームページの開設
昨年夏,結核感染症課のホームページ「動物由来感染症を知っていますか」を開設し,1)動物由来感染症に関する基本事項の解説,2)日本や世界の動物由来感染症のトピックス紹介,3)飼い主や一般の方が動物由来感染症に関して注意すべき事項の啓発,4)専門家向けの動物由来感染症に関する研究・法律・制度の概要・疾病情報の提供,等を行っている(注10).適宜更新し,情報発信の中核としたく考えている.臨床獣医師に知っていただく情報としてはまずは十分な内容と考えており,ぜひご覧いただきたい. |
[2] |
ハンドブックの作成
動物由来感染症とその対策の概要を知ってもらうために,今年5月に「動物由来感染症ハンドブック」を作成した.この小さな冊子(A5判16ページ)に動物由来感染症についての知識を凝集させたつもりである.自治体,関係機関とともに日本獣医師会にも配布を予定している.臨床獣医師が飼い主への啓発にも使用できる内容と考えている.なお作成に際しては本章の(6)で紹介する「人と動物の共通感染症研究会」の協力をいただいた. |
[3] |
シンポジウムの開催等
(ア) |
昨年秋,「狂犬病国際シンポジウム(副題:40年の空白の時を過ぎて世界の視点から)」を,米国(ハワイ州),豪州およびタイから専門家を招聘し,厚生科学研究事業の山田研究班(注11),北海道大学大学院獣医学研究科公衆衛生学教室 高島教授,近畿動物管理関係事業所協議会の協力を得て,東京,札幌および神戸の3カ所で開催した(注12).
自治体や研究機関等の業務担当者とともに,多くの臨床獣医師にも参加いただき,わが国が狂犬病発生にどう備えるべきか,いかにして清浄国であり続けるか等の有意義な議論を行った.今後も機会を得て動物由来感染症のシンポジウムを企画し,情報提供の場としたい.
なおこのシンポジウムにおいて,わが国と同様に狂犬病の非発生国であるが,犬にワクチン注射の義務付けを行っていないハワイ州と豪州の専門家から,わが国でのワクチンの必要性に関し次のような傾聴すべき発言があった.専門家は,両国と日本との動物管理の違いを指摘した上で,「非発生国であり続けるためには,その国独自の最善の方法がある.日本が過去40余年にわたり現在の方法で発生を防いできたのであれば,その方法が日本の対策の基本になると考えられる」と発言した.またハワイ州の専門家からは,狂犬病対策として,外国からの動物の侵入の可能性がある地域で,スポット的にサーベイランスを行っているとの紹介があった.これを参考に,本年度より厚生科学研究事業の山田研究班が,ロシア船の入港の多い北海道と富山県の4カ所の港湾地域で,地元自治体の協力を得て,狂犬病のスポット・サーベイランスの研究を開始している(注13). |
(イ) |
昨年12月に日本獣医師会が主催した一般公開シンポジウム「炭疽の正しい理解のために」について,結核感染症課もシンポジウムの企画立案段階で積極的に支援をさせていただいたところである. |
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