資  料

小動物医療における夜間救急診療対応について

―ネオベッツの活動状況―

 

は じ め に
 
 夜間救急疾患に対する医療施設が地域ごとに必要なことは,小動物開業獣医師は無論,動物と暮らす人々なら誰でも感じることです.
 大阪府の(株)ネオベッツは,12年前の1989年9月に日本初の夜間救急動物病院を開業して以来(資料1),試行錯誤を繰り返しながら事業を継続してきました.その現状を同社代表取締役吉川博敏先生(兵庫県獣医師会理事)に伺い,ここに紹介します.今後の夜間救急診療に対する参考になれば幸いです.
 
ネオ・ベッツの歩み(資料1)
 
1989年 6月   開業獣医師26名により,株式会社ネオ・ベッツ設立
  9月   大阪市淀川区十三に日本初の夜間救急動物病院を開設
1992年 4月   大阪府堺市に夜間救急動物病院を移転,これを機に株主・会員病院53病院になる
1993年 6月   現在地の土地建物を購入,2階にセミナー室,本社事務所を設置
1996年 12月   夜間救急動物病院およびセミナー室の改装
2000年 3月   現在,ネオ・ベッツ株主・会員病院77病院
2001年 10月   CTセンター開設

夜間の救急疾患に対する施設の必要性
要約すると下記の6点があげられる.
1. 社会の要望として
 クライアントを対象としたアンケート調査では,時間外診療受け入れの要望が最も多い.
2. 獣医師の責務として
 「主治医は現在治療中の動物の飼い主には,連絡を何時でも取れるようにしておく義務がある.ただし,夜間の診療所に行くように指示あるいは,留守番電話にその旨を入れておくことに代えることができる」(Dr. KAEL E. BLACK氏の言葉)
3. ヒューマンアニマルボンドとして
 「動物に対する夜間診療専門の病院」の存在は,獣医療が人医療に近づきつつあるというイメージを与え,動物と人との共存,愛護精神の啓発に繋がる.
4. 獣医師の社会に対する貢献
 公共性の高い夜間診療は,公益性が高い.
5. 開業および勤務獣医師への負担の軽減
 個人で夜間診療を行うには,肉体的,精神的,経済的負担が大きすぎる.
6. スタンダードな診療内容,料金の設立
 公共性の高い夜間病院がオープンなかたちで運営されることで成し得る.

 

ネオベッツ夜間救急動物病院の運営形態
 
住  所: 大阪府堺市
電話番号: 072-222-8132
ホームページ: http://www.neovets.com/
スタッフ: 獣医師7名,AHT・受付8名
診療時間: 午後9時30分から午前5時(7.5時間)
診察料: 初診料8,000円 再診料5,000円
ただし,株主会員病院より紹介の場合はそれぞれ4,000円と3,000円
平均診療費: 24,543円/件

 

年度別来院件数
 
 平成5年から平成13年までの主治医の有無およびネオベッツ内外のクライアント来院件数を表(資料2)で表した.ここ3〜4年においてネオベッツ外からの紹介数の増加が顕著である.また,主治医を持たないクライアント数が毎年減少している.


 

 

月別来院件数
 
 月別診療費収入を表に表した(資料3).一般病院が休診日の多い8月・5月・1月に来院件数が多いことが特徴である.

 

曜日別来院割合
 
 曜日別の来院割合をグラフにした(資料4).一般病院が休診日の多い土曜日と日曜日で40%近くを占める.

来院曜日別割合グラフ(資料4)

 

時間別来院割合
 
 時間別の来院割合をグラフに表した(資料5).午後9時30分から午前2時までの間で全体の80%以上を占める.この傾向は毎年変わらない.

時刻別来院割合(資料5)

 

動物種別来院件数
 
 動物種別の平成13年来院件数を表にした(資料6).

 

疾患別来院件数
 
 平成13年の疾患別来院件数を表にした(資料7).消化器系疾患が全体の4分の1以上を占める.交通事故を含む外傷が10%を越えているのも夜間病院の特徴である.

 

経営状況
 
 損益計算書を平成3年から平成13年まで表にした(資料8).特記すべきことは,売上に対し人件費が50%を超えることである.また,昼間の病院に比べ仕入れ額が少ない.

 

運営上の問題点
1.医療過誤
   獣医師の経験不足によって起こる事例が多いため,対策としてスタッフ教育の充実,院内マニュアル作成,診療カルテチェック等を行っている.また,すべての症例を翌朝主治医に返すことを実践しており,主治医からの情報のフィードバックも大切にしている.
2.コミュニケーション不足
   夜間病院では,すべてが初診で継続治療ができないことと,クライアントがパニック状態に陥っている比率が高いため,クライアントとのコミュニケーションが不足しがちである.対策としてできるかぎり文章や図解して説明する.
3.動物の置き去り
   身分証明書の提示や車のナンバーをひかえる.
4.不審者・泥酔者
   防犯カメラと防犯ベルの設置,警察への通報,非常時職場放棄などのマニュアルを作成している.
5.近隣住民とのトラブル
   診療時間が夜間であるため,車の騒音,人や動物の声が昼間以上にトラブルの原因となる.対策として駐車場の確保や病院周囲の定期見回りを行っている.
6.金銭トラブル
   すべて初診で夜間診療のため,未収金が発生しやすい.対策として受付電話時の徹底した料金説明とクレジットカードの使用で未収金を発生させない努力をしている.

 

スタッフの雇用条件
 
 スタッフの雇用条件を別表に示す(資料9).
●獣医師(臨床経験1年以上)
―正 社 員 4日/週 25万円〜50万円/月
―アルバイト 22時〜2時
・院 長 2万円/日 残業2千円/時
・勤務医 1万円/日 残業2千円/時
●AHT
―正 社 員 4日/週 173,000円以上
―アルバイト 900円/時
スタッフの雇用条件(資料9)

 

お わ り に
 
 各地の夜間動物病院施設は,現在のところネオベッツ以外に北摂夜間救急病院(大阪府箕面市),南京都夜間動物診療所(京都府久世郡),ニューメック夜間救急動物医療センター(神奈川県平塚市)などが知られている.
 しかし,ネオベッツを含めどの施設も開業獣医師有志が集まって運営しているのが現状である.さらなる公共性や公益性をもった病院作りをしていくには,たとえば,各都道府県市獣医師会が中心となって開設,運営するのも一つの手法であると考える.
 さらに,近い将来,夜間診療施設のみならず,高度獣医療を担うセンター病院が,獣医師会が中心となって開設されることを願う.
 (今回の取材に快く応じていただいた吉川先生,病院長盛田耕作先生および獣医長片渕千鶴子先生に改めてお礼申し上げます.)