(社)日本獣医師会 開業(小動物)担当 理事 山 縣 純 次 |
||||||||||
![]() さらに,これからの獣医療の進歩には,獣医師のもとに,というよりも獣医師とともに,より多くの動物看護士を高い倫理観,学術,技術を持つ獣医療提供者として養成し,確保することが必要不可欠となっている. そこで,日本における動物看護士の現状と将来像について考えてみたい. |
||||||||||
動物看護士のおかれている立場 |
||||||||||
医療,歯科医療には公的資格を有する補助者制度があるが,獣医療については公的補助者制度がない.獣医療に関しては,獣医師の直接の指導または監督下においてのみ獣医療の補助ができると考える.つまり,飼育動物の診療業務は獣医師の独占業務である. 獣医師免許を有しない者は,診療業務の全部または一部を行ったり代理業務を行うことは一切認められていない. しかし,獣医療の現場では,動物看護士という職種が存在し,獣医師の診療業務の中で補助業務を行っているのが現状である. もし,獣医師が雇用する動物看護士に獣医療過誤があった場合,その責任は動物看護士とともに,獣医師も負うことになる. 例えば,交通事故などで出血中の動物が獣医師不在の病院に来院した場合であっても動物看護士が救命措置等の診療行為を施すことは許されない.しかしながら,止血のための応急措置として圧迫包帯等の処置を行うこと程度は許されると考える.つまり,今の動物看護士の役割と職務内容は,法的な裏付けがない放任行為と考えるべきであり,放任行為とは,その行為を行った結果被害が生じない限り,社会的に許容し得る範囲の行為と解することができる. 一方,医療の場合は,保健婦助産婦看護婦法37条で,看護婦(士)が医師の指示なしに独自の判断で「臨時応急の手当て」をすることが明確に認められている. |
||||||||||
動物看護士の定義と役割 |
||||||||||
動物看護士とは,獣医師の直接の指導または監督のもとに傷病動物の看護および獣医療の補助を成し,あわせて保健衛生指導,飼育指導を行うことを業とするものである. 動物看護士は,獣医師のよき協力者として生命倫理および動物看護の精神に徹し,動物のよき理解者であり,動物飼育者のよき助言者でなければならない.また常に必要な知識の習得と技能の研鑽に努め,獣医師法,獣医療法,その他の関係法令に違反するなど,その業務について信頼を損うような行為をしてはならないと考える. 獣医師の独占業務である診療業務の中で,診断,手術,処方を除く他の業務については,獣医師の直接の監督下であれば診療の補助業務として許してもよい範囲があるのではないだろうか.この許容範囲については,世論の動向を見極めながら慎重な検討が急がれるところである. |
||||||||||
動物看護士の養成と教育制度 |
||||||||||
動物看護士の養成施設は,全国に180余を超えると思われる.その中で学校法人は,わずかに10数校である. 大多数の各養成校が独自のカリキュラムの中で教育し,修行年限も1〜3年で,学生数は1学年30〜120名の範囲となっている.授業料は1年間50〜120万円位で,入学金は20〜50万円位となっている.他に実習費,教材費で年間20〜50万円余徴収しているようである. 動物看護士の認定の仕組みとしては,日本小動物獣医師会(以下日小獣という)および日本動物病院福祉協会がある. かつて,日本獣医師会においてもAHT養成校認定システムの骨子案をまとめたことがある.1989年,本会小動物部会の専門委員会としてAHT制度検討委員会を設置し,AHT養成学校の認定基準の制定等について種々検討を行い,一定の骨子案が作成された. 当時,乱立しつつあった教育内容の不備な養成校,その他類似校の乱立を抑制するとともに,一定の基準に基づいて認定された学校で教育を受けた質の高い動物看護士を雇用することにより,代診と称される雇用獣医師を研修医として位置付け,より濃密な診療業務に従事させ,病院の経営が容易になることが期待された. 日小獣では,1980年,アシスタント制度委員会を設置して検討に入った.1984年には名古屋動物看護学院(名古屋市獣医師協同組合)が開校し,1988年に日小獣の認定校となり,1988年に第1回認定試験を実施した.受験資格は認定校修了者または日小獣会員病院に3年以上勤務した者で病院長の推薦する者とした(現在は2年).爾来,本年で第14回となり,5カ所(札幌,仙台,東京,大阪,新潟)で実施されている.その間,認定した動物看護士は3,900名余となる.認定校の認定は,一定のきびしい認定基準に達したものを認定校とし,日小獣出版の動物看護士教育図書(全16巻,既刊5巻随時出版中)の使用を課している. 日小獣のこういった動物看護士資格認定制度は,日本における動物看護士養成に大きな意義を持つだけでなく,将来,動物看護士の獣医療補助者としての資格職種として,その地位を確立するために大きな役割を果たしていると考える. |
||||||||||
諸外国における動物看護士の認定制度について |
||||||||||
英国においては,VN(Veterinary Nurse)と呼ばれ,Veterinary Surgeon(開業獣医師の組織)が認定した施設(学校あるいは小動物病院)で一定の基準にもとづいてアニマルナース(Animal
Nurse)の養成を行い,試験を実施して資格を附与している. VNになるための研修生の応募資格は非常に厳しく,高校の成績がかなり高いレベルでなければならないとしている.資格が非常に厳しい反面,獣医師に準ずる資格となっており,採血,注射,臨床検査,投薬,麻酔の管理,術中,術後の管理なども行っている. 米国では,VT(Veterinary Technician)と呼ばれ,アメリカ獣医師会の認定する動物看護士養成のための短期大学が各州にあり,獣医看護実務教育に必要な設備が完備され,獣医学の各科に相応する実習を中心としたカリキュラムとその教育にふさわしいスタッフと教育の質,量が確保されている.アメリカ獣医師会の認定する短期大学で2年間,正確な知識と技術を修得した卒業生は,各州ごとに定められた資格要件を満たせば州のVeterinary Boardの認定を得ることができる.また,VTでは,獣医師と同じ獣医療提供者と位置付けられ,エックス線撮影など高度な技術者として養成されている.1982年には全米VT協会が設立され,VTは米国の獣医界のみならず一般社会でもゆるぎない地位を獲得している. オーストラリアの動物看護士養成の現状は,各州の技術学校(専門学校)で学ぶことができ,「動物看護士の認定証」のコース以外に学校によっては,「応用科学の学士認定証」「収監動物の認定証」「オフィスアシスタント(薬剤処方法やコンピューター)の認定コースに分かれている.これら各資格の認定証のうち,動物看護士の認定証は,オーストラリア獣医師会の認定証となっている. これら諸外国の共通点は,動物看護士の教育または資格認定等に獣医師会組織が係っているということである. わが国においても,これからの動物看護士養成と認定について考えさせられるところである. |
||||||||||
獣医療における動物看護士の位置づけ |
||||||||||
|
||||||||||
本年度事業計画に基づく小動物委員会の検討課題は,小動物医療体制の構築としてAHT制度のあり方を主要課題として取り組むことになった.同委員会の実りある協議を期待するとともに,私も全力投球する決意である. |