トイレ談義のおこぼれを少々.
ヨーロッパ,特にフランスを旅行すると,ホテルの部屋にはたいていビデが設置されている.ビデオではない.ビデである.トイレの便器が二つあるようなものの片方のあれだ.われわれ日本人にはその使い方が実に難解な問題となる.もちろん旅慣れておられるお方にはどうってことはないだろうが,初めてお目にかかるとこりゃなんだという疑問と戸惑い,そして備えられている以上はどう使おうかと悩むことになる.
私が初めて目にしたのはもう30年も前,南仏で語学研修を受けているときに宿舎としてあてがわれた大学の女子寮でであった.当初は大と小の使い分けかなと思った.両者似てはいるが片方は大の流れが悪そうに見えたからだ.しかし,どうせ水と一緒に流してしまうのに,排泄物の大と小を分けて処理しなければならない理屈が理解できない.それに噂では男子寮には設置されていないらしい.
放り込まれた寮はでき立てで,何もかもがピカピカである.しかも大学の寮とはいえ個室ときた.見ている人はいない.使い方は俺の勝手でどこが悪いと考えた.そこで熟考の末,流れの悪そうな方を靴下専用の洗濯器(機ではない)とした.ハンカチやシャツ,パンツは洗面槽を使い,靴下と選別できたことに爽快感さえ覚えた.よく考えるとパンツと靴下を分ける根拠などなかったのだが.後でそれとなく2〜3の友人(しかも大学の先生)に聞くと「俺は足洗い専用だよ」という奴もいた.皆田舎者だったのである.
ごく最近,あるツアコンが書いた本を読む機会があった.やはり今でもあった,ビデにまつわる面白い話が.ある旅行で,トイレが流れないという苦情の電話を受けたという話が載っていた.しかも同じ添乗で2回も経験したらしい.ビデにやっちゃったのである.想像力貧弱な人はやはりいる.あそこででかいのが流れる訳ないではないか.ところが逆に想像力が実に豊かな人もいる.夏の暑い時期にあるお客さんが,持参したポットでこれも日本から持ち込んだそうめんを茹で,それを冷すところを探していたらしい.そして格好の場所を見つけたのだ.水は少しずつ流れるしこんな上手い場所はない.何人か呼んで皆でビデに箸を突っ込んで美味しく冷しそうめんを食べていたという.そこに呼ばれた添乗員は仰天し何とかへ理屈つけて退散したが,それが何に使われるものか教えなかったらしい.えらい! そう知らぬが仏,知ることが幸せとは限らない.知れば同じそうめんでも味に極端な差が出ること間違いなしだ.
世の中には知ること必ずしも幸せでないことはいくらでもある.それでも知りたいのは人間の本能か. (子)
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