Melioidosis in Captive Marine Mammals and Birds Reimi E. Kinoshita and David A. Higgins Veterinary Hospital, Ocean Park Corporation, Wong Chuk Hang Road, Aberdeen, Hong Kong, Department of Pathology, The University of Hong Kong, Queen Mary Hospital, Hong Kong |
緒 言 |
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類鼻疽はグラム陰性桿状のBurkholderia pseudomallei(以前はLoefflerella,次いでPseudomonas pseudomallei)に起因する疾病で東南アジアおよび北部オーストラリアの地方流行病である.一般に,これら地域ではB.
pseudomalleiは土壌や水から分離される死物寄生菌類の一つである[5].また,本菌は馬や人に鼻疽を起こすB. malleiに近似の菌である.類鼻疽は広範囲の動物種や人が罹患する.感染は,汚染した土壌や水に暴露されたのちに起こる.また,B.
pseudomalleiは,山羊乳から分離されていることから公衆衛生上からも重要である[21]. 動物の類鼻疽は1913年クアランプールで実験動物であるモルモット,ウサギおよびラットでの流行例が最初である[4].オーストラリアでは1950年にクインズランド州でめん羊での発生が最初である.次いで,豚,牛,めん羊,馬および山羊に発生があり,家畜の重要疾病である[11, 12].なお,文献は少ないが,動物園の動物や多種類の野生動物での発生例もある.たとえば,有袋動物[8, 19],ラクダ[23],霊長類[17, 18],シカ[16]および鳥類,特にオウム類[14, 20, 22]についての発生例が報告されている.流行地域での犬や猫などの伴侶動物での症例も報告されている[1, 13].しかし,これら動物は本病に対して低感受性であり,症状の経過および感受性には種間に差があるようである[2].1978〜79年のパリのJardin des Plantesでの発生では,多数の哺乳動物や鳥類が罹患した.パリは流行地とは異なる温帯に位置していることから,フランスでは,本菌は中国から輸入されたジャイアントパンダまたはイランから輸入された馬によって持ち込まれたと,また,土壌中に1年以上も存続したと考えられている[15].この発生は,非流行地では動物の輸入を介して,また人および動物移動の増大が類鼻疽の発生する可能性のあることを強調している. |
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水族館における海洋哺乳動物および鳥類の類鼻疽 |
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類鼻疽は,1976年ホンコンの水族館で急性死したイルカの症例が最初である[10].このイルカは非流行地の日本から輸入されたものであった.したがって,感染源は輸入された地域に存在したと考えられている.類鼻疽は,この水族館内において多数の鳥類,陸棲動物,ひれ足動物(オットセイ,アザラシ,セイウチなど)および他の鯨類の動物を侵している.鯨類の動物(クジラ,イルカなど)は,この水族館では最も感受性の高い動物のようである.すなわち,本病に起因する死亡率は少なく見積っても35%である.海洋哺乳動物における類鼻疽は,オーストラリアでのアシカおよびマレーシア(私信)における座礁したイルカを除きこの水族館以外では報告されていない[3].最近(1996〜2000),この公園では9羽のオウムとシマウマが類鼻疽に罹患したのみで,それ以前には,1989におけるペンギンの1例のみであった. |
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臨 床 症 状 |
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人における類鼻疽の臨床症状は,変化に富んでいる.したがって,そのニックネームは「偉大なる模倣者」と呼ばれている.臨床所見としては,肺型では,短期間の急性敗血症および治療をしないと高致死率を示し,慢性型では,ほとんど全臓器に膿瘍がみられる[6].しかし,感染症の大多数は,軽症または無症状である.本水族館における症例の多数は,急性型の類鼻疽であった.クジラにおいては,食欲減退,発熱および昏睡が主徴で,血液所見では炎症反応を伴っていた.症状が発現したのち,平均4日で死亡した.ほとんどの鳥類は,突然,昏睡状態に陥り,食欲不振および24時間以内に死亡した.また,構内で臨床症状を示さない死亡例も発見された.しかし,バンドウイルカとカリフォルニア・アシカにおいては,ほとんど気づかない程度の慢性経過を示した.このイルカは5カ月間にわたり食欲の減退,体重の減少,次いで,胸部,脊椎,腰部に発現した重度の膿瘍と骨髄炎による回転運動の減少を示した.いっぽう,アシカは死亡前の41日間にわたり食欲不振,けん怠,乳房周辺の腫脹を呈した.この腫脹した部位に生検用針を刺入すると,粘稠な黄色/クリーム様の膿汁が吸入され,この膿汁からはB.
pseudomalleiが分離された. |
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病理学的所見 |
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海洋哺乳動物および鳥類において,病変がみられた臓器は,おもに肝臓,脾臓および肺であった.これら臓器では,腫大,浮腫,点状出血,斑状出血および粟粒大から数cm大の白黄色の壊死巣がみられた(図1).顕著な組織所見は,組織のタイプに関係なく中心壊死巣,小膿瘍,出血,繊維素性滲出物および多形核好中球の蓄積であり,これら病変は,いずれの流行時にも肝臓(図2),脾臓および肺(図3)に分布していた[9].検査した25例中7例のこれら病巣部には,細長いグラム陰性桿菌がみられた(図4).少なくとも2例の海洋哺乳動物は慢性経過を呈した.バンドウイルカは,背鰭の棘状部に広範囲の膿瘍とび爛および腰部脊椎の骨髄炎を呈した.カリフォルニア・アシカにおける肉眼的所見では,広範囲のクリーム黄色の膿瘍物が皮下組織内に分布し,かつすべての乳腺が侵されていた.アレキサンダーインコでは,淡黄色の斑点に覆われて肥厚した心嚢ならびに慢性心内膜炎がみられた.他の臓器で侵された唯一の組織は,胸腔および腹腔の気嚢であり,これらは肥厚しており,1〜2cm大のクリーム様白色斑点が気嚢の表面に散在していた.この鳥は前駆症状なしに死亡したが,病理所見からは,慢性経過を呈したことが示唆された. |
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微生物学的性状 |
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類鼻疽菌は血液寒天および他の一般的に使用されている栄養分を含んだ寒天培地でよく増殖するが,選択培地を使用しないかぎり,分離培養は困難である.選択液体培地は,他の細菌の増殖抑制に効果的であり,かつ有用である.Ashdown氏の選択寒天培地で数日間培養後にみられるえぐり取られたような乾燥性コロニーは特徴的である(図5).疑わしいコロニーは,API20NEを用いた生化学的テストにより同定が可能である[7].この水族館において類鼻疽に罹患して死亡した動物におけるB.
pseudomalleiの生前分離は,非常にまれであった.2年前までは,選択液体培地を使用していなかったことが,また水族館で飼われている野生動物では病獣を発見し難いことが,菌分離の失敗の原因であったようである.しかし,B.
pseudomalleiは,死後数時間内の剖検時の血液や多数の臓器からは純培養された. |
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考 察 |
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類鼻疽は,ホンコンの水族館において死亡例の有力で有意な原因であることが確認された.海洋哺乳動物は,本質的にはこの陸上の病原菌に対してきわめて高い感受性動物のようである.また人において明らかにされているように免疫系の機能の低下などの危険因子は,感染の結果を決定するうえで重要な役割を果たすと思われる.流行地の臨床獣医師は,もし剖検時に多数の膿瘍や肉芽腫を発見した場合は,類症鑑別の点から類鼻疽を考慮すべきである.選択培地の使用は,B.
pseudomalleiの同定および正しい診断に役立つであろう.流行地からの輸入動物に起こる可能性のある疾病として類鼻疽を承知していることも重要である.安全でかつ注意深い剖検処理および衛生学的処理が推奨される.また,このような処理は本菌の人への暴露,環境への常在化および散逸を防ぐ一助でもある. |
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引 用 文 献
(® bioMerieux China Ltd., Hong Kong) |