【書 評】 |
「知っておきたい獣医科診療室の法律」 佐々木伸雄(東京大学大学院農学生命科学研究科)
獣医学教育が6年制に移行し,その卒業生が世に出てから10年以上経過した.この間,社会の獣医師に対する要求,評価は大きく変化し,獣医系大学の入学希望者,特に臨床家希望の入学希望者は著しく多い.大学もこれらの学生に対し,より高度な臨床教育を行うべく努力はしているが,施設設備等の充実は図られているものの,まだまだ不十分な状況にある. 一方,このような学生に対する獣医学の基礎となる法律についての教育もきわめて不十分なままである.従来の教育では,公衆衛生上重要な家畜伝染病予防法などに力点が置かれ,獣医師の根幹に関わる獣医師法,獣医療法,あるいはこれからの社会で獣医師の役割として認識されるべき動物の愛護および管理に関する法律についてきちんとした教育を行っている大学は著者の大学も含めて少ないのではなかろうか.国家試験を統括する獣医事審議会においてもこの問題は取り上げられ,平成12年度から国家試験には法律,倫理に関する問題を獣医療における基本的事項として出題するようになった. 本書は,長年獣医事に関心を寄せ,さまざまな講演,雑誌などで獣医事関連の法律の重要性やその問題点を述べてきた池本卯典先生が前著の獣医事法学(インターズー,1998)の版を改める形で出版したものである.内容は獣医事法の概要や考え方,獣医療制度などに始まり,獣医師が飼育動物に対する獣医業を行うにあたり,獣医師法,獣医療法だけでなく,民法,その他法律等も含めて説明されている.さらには獣医療過誤の問題に多くのスペースを割いており,それに関連したPL法,薬事法などにも触れている.またいくつかの事例も解説されている.付録としては憲法に加え,各獣医事関連法規が掲載されている. このような内容は本来獣医師はすべて知っているべきことではあるが,少なくとも臨床業務を行っている獣医師はすべて手元に置いておくべき1冊であり,また獣医学生の教育にも役立つ1冊と思われる.
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「知っておきたい獣医科診療室の倫理」 佐々木伸雄(東京大学大学院農学生命科学研究科)
本書は「知っておきたい獣医科診療室の法律」のいわば兄弟本である.獣医療における倫理については,日本において書籍として取り上げたものはほとんどない.その最大の理由は,倫理はあくまで社会の変遷に連れて変化するものであり,また個人によっても異なっており,普遍的で体系づけられたものではないことによるものと思われる. 著者は獣医事問題を考える上で倫理の問題を避けて通れないこと,しかし,日本の中できちんとした形の獣医療倫理が確立されていないことなどから,本書を書くに至ったものと思われる.したがって,本書ではまず倫理の意味,医療における倫理,インフォームドコンセントなどを歴史的背景を含めて取り上げ,獣医療における倫理の問題点を述べている.次いで人と動物の関係の歴史的な変遷をもとに動物福祉の動向を述べている.さらに,伴侶動物だけでなく,実験動物,産業動物の福祉の観点から,これらを扱う人が持つべき倫理ならびにそれと関連する法律を解説している. また,動物介在療法,クローン技術,安楽死,医薬品の臨床試験といった広い分野における倫理についても述べ,最後に最も重要な動物医療過誤における倫理面 の問題点を概説している.参考資料として,獣医師法,獣医療法をはじめ,動物の福祉に関係する各種の動物の飼養と保管に関する基準を載せてある. 著者はこれらを通して個人の倫理観を提示してはいない.むしろそれは避け,できるだけ世界あるいは人の医療における過去や現在の倫理基準を述べ,読者である獣医師に動物を扱う上での倫理を考えるよう求めているものと思われる.
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「獣医繁殖学 第2版」 佐々木伸雄(東京大学大学院農学生命科学研究科)
本書は1995年に獣医系大学学生向けに出版されたが,今回はその第2版である.繁殖学の分野はこの数年に特に遺伝子工学,発生工学面 で大きな伸展が見られており,それが忙しい中での改訂作業に繋がったものと思われるが,各著者,編集者の努力に頭が下がる. 第2版ではしたがって生殖工学として胚移植,体外受精,遺伝子組換えなどが比較的大きなスペースをとって説明されている.また生殖を取り巻く内分泌に関しても最近明らかにされた情報が述べられており,さらに各種の成長因子などに関する概説も加えられている.これらの分野はきわめて学際的な領域であり,また今後大きな伸展が期待される分野である.教科書としてこれらを包括的に取り上げている点は高く評価できるが,今後の伸展の方向などについてもう少し踏み込んでもよいのかもしれない. 一方,編集者も悩んだ点であろうが,本書の内容は従来と同様に産業動物の比重がきわめて大きい.これは本書が学生の教育に使われることを考慮したものであり,かつ,現在の教育時間,教育体系,従来からの伝統といったことから致し方ないものと思われる.しかし,現在の学生の進路方向を考えると,犬,猫(比較的多くの頁を割いている)だけでなく,小型齧歯類,フェレットなど,実際の診療でみる可能性の高い動物種についても多少触れるか,あるいはせめて参考文献をあげる,などを考慮してもよいのではないかと感じられた.また,日本でみられる野生動物の繁殖関連の資料について簡単な付表を付けてもよいのかとも思われる. 以上私見としていくつかの問題点を書いたが,全体としては非常にバランスもよく,よく編集された教科書と思われる.繁殖学は日本の獣医臨床の中で唯一ひとつの臓器分野を基礎から臨床まで教育できる分野である.外科,内科についても早く細分化を図り,このような教育体系に持っていくことが日本の獣医学発展のために非常に重要であろう.
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【獣医師募集】 |
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【事 務 局 日 誌】
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【構成獣医師の訃報 】 竹下貞義氏(開業 熊本県山鹿市鹿校通2-12-8) 濱田輝男氏(会社役員 北海道札幌市清田区真栄4条3- 14-15) |