農林水産省の家畜衛生試験場は,中央省庁等改革の一環として平成13年4月1日に独立行政法人農業技術研究機構傘下の動物衛生研究所として新たな一歩を踏み出した.家畜衛生試験場は明治24年に農商務省仮試験場内に設置された2研究室を起源とし,110年に及ぶ長い歴史を持っている.その間,わが国唯一の獣医学国立専門研究機関として,その時々の重要な家畜衛生問題に取組み,わが国の畜産業の振興に寄与したばかりでなく,海外技術協力を通
じ発展途上国の開発に貢献するなど,社会の要請に応えてきたと自負している.昨年の口蹄疫発生に対する対応をみるまでもなく,家畜衛生試験場の業績は内外から高く評価されており,これも多くの関係機関および関係者のご支援とご協力の賜と深く感謝している.
当研究所は大正10年に獣疫調査所として独立,また昭和22年には家畜衛生試験場へ改組と2度の大きな変革に加え,今までに幾多の組織改革を経験した.しかし,今回の組織改革は独立行政法人化というかつて経験したことのない質的に異なる組織改革であり,組織体制ばかりでなく業務運営の方法が従来とまったく異なった仕組みとなる.むしろ業務運営の変革を主目的とした改革といえる.
独立行政法人における業務運営の仕組みは今までと異なり,国の関与が事前と事後に限られる.主務大臣は3〜5年を見通 した業務運営の効率化や国民に対するサービスの向上等に関する目標(中期目標:研究機関では5年)を示し,法人は中期目標を達成するための計画案(中期計画)を作成して主務大臣の認可を得る.また,中期計画とは別
に,法人は毎年年度計画を作成し,主務大臣に届け出る必要がある.法人はこれらの計画に基づいて業務を実施することになるが,実施にあたって国の関与はない.しかし,中期計画の終了時には主務官庁に設置される外部評価委員会による評価があり,中期目標の達成度など業務実績が厳しく評価される.評価結果
は公開され,評価結果によっては業務内容や運営方針等について改善勧告が出されることになっている.このように,法人の業務運営に対する国の関与は事前(中期目標の提示と中期計画の認可)と事後(評価)に限られ,この間の予算の執行や内部組織の設計,要員の配置など,業務の実施に必要な事項の多くは法人の自主性と裁量
に委ねられる.また,大学・公立・民間機関等との連携や共同研究,受託研究の実施や外部資金の導入についても,法人の判断で今まで以上に実施しやすくなる.このように法人の自主性と独自性が認められたことが法人化の最大の利点であるが,それだけ責任と透明性,また評価に耐えうる業務運営と研究成果
が求められる.新研究所が社会から期待されていることは,動物衛生に関わる研究ニーズを的確に捉え,それらに着実に応えることである.そのためには,研究ニーズを捉えるアンテナを常日頃から磨くとともに,着実な研究の推進,積極的な研究成果
の公表や広報活動等を通じ,説明責任を果たすことが重要と考える.
新研究所の発足に備えるため,家畜衛生試験場では2年前から研究問題の重点化と新研究所の内部組織,運営方針等について検討してきた.しかし,いかに準備を進めたとはいえ,実際の運営になると思いもかけない問題が発生することも予想される.そのような場合には,一つ一つ問題を解決し,よりよい研究所を創るよう努力しなければならない.要は自主性や独立性,柔軟な組織運営,広範な連携協力関係,事務の効率化など,独立行政法人の利点をいかに活用して研究所と研究活動を活性化するかにかかっている.また,常に状況の変化を先取りして,組織体制や柔軟な業務運営のあり方等を検討する必要がある.そのためには,全職員の不断の努力と意識改革,研究成果
に対する厳しい自己評価等が不可欠となる.
動物衛生研究所の目的と責務は,動物の衛生と疾病問題の解決を通じて,家畜生産の損耗防止と安全な畜産物の生産技術を開発することである.これらに的確に応えるため,動物衛生研究所は「動物を守る,ヒトを守る」を理念として,動物衛生に関わる基礎研究から疾病の診断・予防・治療法の開発にいたるまで,新世紀に相応しい研究を実施しなければならない.
新研究所の発足にあたって,所員一同心を新たにして業務遂行に最善を尽くす所存である.従来の家畜衛生試験場と同様に諸兄姉の変わらぬ ご支援とご協力をお願いしたい.
|