(別 紙)
平成11年度 家畜由来細菌の抗菌剤感受性調査

  平成11年度から動物医薬品検査所で開始した薬剤耐性菌対策事業(家畜由来細菌の抗菌剤感受性調査)の調査成績の概要を報告する.

  1. 材料および方法

     検査材料としては,全国47都道府県の家畜保健衛生所から送付された健康家畜の糞便515検体(肥育牛178,肥育豚179およびブロイラー158検体)を用いた.各県での採取検体は各動物種について,それぞれ4検体,原則として1農家1検体とした.糞便からのサルモネラ,カンピロバクター,腸球菌および大腸菌の分離・同定は,生化学的性状検査等の常法に従って行った.分離菌株については,15〜18種類の抗菌剤に対する感受性(薬剤の最小発育粗止濃度:MIC値)を,日本化学療法学会標準法に準拠した寒天平板希釈法により測定した.

  2. 調査成績

    (1)サルモネラ
     サルモネラが分離された検体は全体の約12%であったが,公衆衛生上,重要となるS. Enteritidisなどはまったく検出されず,その多くがO7群に型別された.
     分離された124菌株における薬剤感受性試験成績を表1に示した.CTF,ABPC,BZM,DSM,KM,OTC,CP,TMP,NAおよびOAのMIC値には二峰性分布が認められ,それらの耐性率は3.2〜80.6%であった.一方,ニューキノロン系抗菌剤であるERFXとOFLXに対しては,ごく一部の低感受性株を除き,MIC値0.05〜0.1μg/mlに単一のピークをもつきわめて高い感受性を示した.



    (2)カンピロバクター
     カンピロバクターが分離された検体は全体の約21%であった.Campylobacter jejuni 115株,C. coli 49株およびC. spp 6株の合計170株について実施した薬剤感受性試験成績を表2に示した.MIC分布は,ほとんどの薬剤においてきわめて広範にわたり,ERFX,OFLX,NA,OA,EM,SP,TS,SPCおよびDSMに対して,耐性株の出現(耐性率7.1〜20.6%)がみられた.ERFXとOFLXにおいては,それぞれMIC値1.56μg/mlまたは3.13μg/ml以上の耐性株が全体中16.5%に認められた.これらの耐性株は,いずれもNAまたはOAに交差耐性を示したが,GMには高い感受性を示した.



    (3)腸球菌
     Enterococcus faecium, E. faecalisあるいはE. duransが均等な割合でほとんどすべての検体から分離されたが,バンコマイシン耐性腸球菌,いわゆるVRE(VanA,VanBを耐性遺伝子として有するもの)はまったく検出されなかった.腸球菌1,027株について実施した薬剤感受性試験成績を表3に示した.EM,TS,ABPC,OTC,BCおよびLCMのMIC値には二峰性分布が認められ,それらの耐性率は0.2〜66.0%であった.テトラサイクリン系とマクロライド系抗菌剤に対しては,すべての菌種で耐性株の出現がみられた.全体に,CTF,DSMおよびKMに対しては耐性,GMおよびCPに対しては中程度の感受性,ERFX,OFLX,ABPC,VGMおよびVCMに対しては高い感受性であった.



    (4)大腸菌
      一般大腸菌は,ほとんどすべての検体から分離された.ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)は,牛39検体(21.9%)と豚25検体(14.0%)から分離された.一般大腸菌1,018株およびVTEC 72株について,各種抗菌剤に対する感受性を調べた.一般大腸菌では,耐性率はOTC(53.0%),DSM(37.4%),ABPC(22.9%),KM(17.6%),CP(14.0%)の順に高く,さらに,ERFXとOFLXに対しては,それぞれ3.0%,3.2%に耐性株の出現が認められた(表4).一方,VTECではOTC(36.1%),DSM(27.8%),CP(16.7%),ABPC(9.7%)の順に耐性率が高かったが,ERFXとOFLXに対しては,まったく耐性株の出現が認められず,全株ともMIC値0.1μg/ml前後のきわめて高い感受性を示した.

  3. おわりに

     今後,本抗菌剤感受性調査を継続し,試験成績を集積・解析するとともに,家畜由来耐性株とヒト由来耐性株との関連性について遺伝学的に解析していくことや動物由来耐性株のヒト医療に及ぼす影響に関するリスク分析を実施することが必要と考えられる.また,抗菌剤の使用の現場においては,慎重使用の観点から(1)抗菌剤の選択は,添付文書等の有用な基本情報(抗菌スペクトル,薬物動態等)や原因菌の薬剤感受性試験データに基づき,より慎重に行うとともに,(2)その使用に当たっては,適応症に対応する用法・用量ならびに使用上の注意事項等の遵守をより厳格にすることが,ますます重要なこととなっている.