去る6月,はからずも宮城県獣医師会の第9代目の会長に選出されました.昭和48年以来27年にわたって本会の会長として舵取りを果 され,また長年,日本獣医師会の理事や町長,宮城県町村会長などの要職を歴任された鈴木 新先生のご勇退をうけての改選ですが,それだけにその責任の重さをひしひしと感じております. 私は平成6年3月に停年退官するまで,東北大学に30年間,岩手大学に12年間,いずれも畜産学科の,家畜生理学講座および動物栄養学講座に所属して,“ルミノロジー”を中心とした研究と教育に関わってきました.その間,草食動物として特徴的な消化・栄養の仕組みをもつ牛では,不注意な濃厚飼料の多給が第一胃内消化障害―生産病をひき起こすこと,生産を高めようとすればするほど第一胃内の恒常性を如何にして持続させるかという工夫が大切であることを学んできました. そういった40年あまりの大学生活からいま地方獣医師会の会長に就任して,改めて,獣医師会のもつ「学術を基盤とする技術者集団」としての社会的使命の重大さを自覚し,思いを新たにしております. 今後,皆様からご指導とご鞭撻をいただきながら,誠実に事を処して参りたいと存じますので,よろしくお願い申し上げます. 以下に,日頃感じている事柄のいくつかを雑感として述べさせていただきます. ○災害時の動物救護体制づくり:阪神大震災時(1995年)兵庫県・神戸市獣医師会による動物救護活動の記憶がまだ新しい今年,3月には有珠山噴火時の北海道獣医師会の「動物救護センター」を設置しての活動,6月には三宅島雄島噴火による全島民の島外避難時の東京都獣医師会による個々の動物病院などへの避難動物の収容・救護の模様が相次いで伝えられ,私達の胸をうちました.さらに鳥取県西部地震,東海地方の集中豪雨と,天災の襲来は予測できません.したがって,私達は過去の救護活動の教訓をふまえて,予め県市町村と協力して災害対策の中での獣医師会の役割を明確にしておくことが必要だと痛感しております. ○OB会員の経験を活用したい:一昨年来,「動物愛護法」「感染症新法」「家畜排せつ物法」などが相次いで施行され,獣医師の担うべき役割が一段と強まりましたが,これは獣医師・獣医師会に対する社会の認識を高め,その信頼を得るよい機会ではないかと考えられます.そのためには,これまでの事業に加えて,官公庁,団体,大学などを退職された多くの“OB会員”の貴重な経験や学識を活用した活動を組織化できないものかと考えています.たとえば,心の教育の一環としての学校動物飼育,動物愛護活動や人獣共通 感染症対策の普及,農家の家畜飼育や経営の技術相談などに活躍していただきたいものだと期待しています. ○獣医学教育のレベルアップ:念願だった日獣による獣医師の生涯研修事業が今年度からスタートしました.多くの会員がこの事業を有効に活用されることを大いに期待しております.ところで,私が大学を辞して以来6年の空白はありますが,治療・予防獣医学から情報収集・データ解析を行う生産獣医学への展開,人の医療と動物医療の水準,小動物医療と農業の分離,食品衛生分野へのHACCP(危害分析重要管理点方式)の導入などなど,多様化,国際化する社会の要請に対応できる獣医師の養成が,農学部内の既成の獣医学科教育で果 してできるだろうかという暗い思いに駆られます.現在の国立大学を整備統合し,獣医学教育の国際化を目指す獣医学部構想の充実と実現を心待ちにしております. ○粗飼料資源生産の努力を:92年ぶりの口蹄疫の発生は全国の関係者を震撼させました.幸いに,宮崎県,北海道の関係者の迅速・周到な対応で被害を最小限に止めることができ,口蹄疫清浄国の声明も出されました.しかし残念なことに口蹄疫ウイルスの感染経路が不明とされている点が不安として残りました.現段階の見方では輸入稲ワラがその運び屋らしいといわれています.もしそうだとすると,コメに匹敵する収量 のある稲ワラの飼料としての有効利用を追求せず,また転作地や低利用の農地・林地などを粗飼料資源生産に活用する努力を怠って,安易に乾草や稲ワラを輸入している日本農業の矛盾を改めて思い知らされたような気がします. ○獣医師会とは:「獣医師会は会員にとってどうあるべきか」これは以前から私の胸から離れない課題でした.1961年,ケネディ大統領が就任演説の中で述べた“Ask not what your country can do for you, but ask what you can do for your country”という言葉を,いま改めて感慨深く思い出します.私はその課題を自問しながら,これからも歩き続けたいと思っています. |