紹介

北海道本別町に発生した口蹄疫と
NOSAIの対応について

   有坂孟弘(十勝NOSAI本別家畜診療所)

1.は じ め に

平成12年5月11日,北海道中川郡本別町の肉用牛肥育農家(705頭飼育)で2頭(約7カ月齢の乳用雄子牛)から口蹄疫ウイルス遺伝子の断片が検出され,疑似患畜と確認され農林水産省から発表された.検出されたウイルスの遺伝子断片は,宮崎株と同一の塩基配列であることが判明. 以来,北海道,十勝支庁,本別町の口蹄疫防疫対策本部を中心に,各関係機関,団体が一丸となり町民あげて口蹄疫撲滅のため取り組んできた.

2.発生までの経過

3月25日宮崎県での発生に伴い,北海道においても,全国的な疫学関連調査として輸入粗飼料使用農場,および過去1年以内に九州から導入した関連農場の血液検査が実施された.十勝管内では110戸で1,111頭が検査対象となったが,こののち,本別 町内の1農場の牛から口蹄疫の抗体反応が認められ,清浄性検査確認のための検査を継続したところ,5月11日,2頭から口蹄疫ウイルス遺伝子断片が検出され,これら2頭を含む同居牛(705頭)が口蹄疫の疑似患畜と診断された.患畜および疑似患畜はいずれも口蹄疫の臨床症状は認められなかった.
3.発生に伴う緊急防疫措置

口蹄疫が確認された5月11日,ただちに,北海道,十勝支庁,本別町に口蹄疫防疫対策本部(NOSAIからは小職以下が参加)を設置し,本病のまん延防止を図るため,発生農場の緊急防疫措置のほか発生農場を中心に,半径10km以内を移動制限地域として家畜等の移動禁止や放牧,人工授精を停止するとともに,地域内の農場の立入検査および疫学関連農場の調査を実施した. 本別町内(10km以内)の農場78戸,1,869頭の採血と臨床検査を2日間で実施した.移動制限地域(10km)線上に消毒ポイントを設置し,地域内の家畜飼養農場に関係する車両等の消毒を行い,口蹄疫ウイルスの拡大の防止を図った.
 
4.町対策本部の活動経過

 町としては5月11日,ただちに役場にて臨時課長会議を,農業協同組合も部長会議を開き口蹄疫の発生と報告および今後の対応について協議し,明日からの作業の準備にかかった.
  5月12日午前2時,十勝支庁より対策本部の担当職員を招き,消毒ポイント,消毒時間の開始,あるいはマスコミ等の対応について協議,確認をした.
  町臨時議会を開催し,口蹄疫についての正しい知識,病気等の説明と経過報告をした.
  管内町村より消毒噴霧器等の借入れ搬入も開始した.
  発生農場においては5月12日より疑似患畜の殺処分と埋却作業を行っていたが,あいにくの雨の中作業がはかどらず,第1日目は作業を終了した.初日の作業班の職員は家畜保健衛生所の職員の他,役場職員,農業協同組合職員であったが,全員ともに殺処分という作業に従事したことがまったくないため,皆疲労のあとがすごかった.
  只々,ご苦労様といいたい.現地作業は2日目以後,道内試験場および種畜場の応援により順調に進み4日間ですべての殺処分を終了することができた.4日間ともに毎日降雨に会い,まさしく涙雨の連日であった.殺処分後は引き続き,汚染物品(乾草,サイレージ,小麦,稲ワラ,麦ワラ,ケイントップ等の飼料,さらに各種配合飼料や,ミネラル等,総量 1,500tの飼料)および堆肥の発酵消毒(石灰散布)等を行ったが,大型機械(大型パワーシャベル5台,キャタピラダンプ7台等)のフル稼働と,総延べ人員632人(殺処分から後片づけまで)に及ぶ人海戦術の両面 により悪天候のなか行われた.すべての防疫対策が終了したのは5月18日18時のことであった.
  その間,町内の6カ所の消毒ポイントの作業が続けられた.役場職員,農業協同組合職員,NOSAI職員,普及所職員はもとより,町内のすべての団体(38団体)延べ2,223名が連日6月8日まで協力した.その間の昼食,夕食は,町内の女性ボランティアの方々(延べ500名)の協力により炊き出しが行われた. 消毒ポイントのチェック体制としては,夕方8時に作業が終わり,対策本部に引き上げてきたら今日の反省をし,それを対策本部会議にかけて,本部の意見を統一して翌日朝,消毒ポイントに向う職員に引継いで行くという方法をとった.
  消毒ポイントについては町内,町外,10km制限内・外等,さまざまな人が行きかうため,毎日沢山の電話や意見が対策本部によせられた.
  一部を紹介すると,「本別町は車で通れるんですか?」「隣町には行けるんですか?」「車に消毒薬が付いて落ちない」等その他風評被害はいろいろあった.
  家畜衛生情報としては,発生後3日目より町内農家全戸にFax送信,また町民には新聞折り込みにより関連情報を流した.その後,随時配信することに努め,農家向け情報8号,町民向け情報は5号まで配信した.情報紙を出すまでは,情報の流れが遅いという意見もあり,迅速な情報提供に配意した.
  発生直後には,宮崎県から支援物資として,防疫服15,664着,シューズカバー8,050足が到着し,対策本部一同感激した次第.本当にありがとうございました.
  また,宮崎県酪農課より宮崎でのいろいろな体験談をFaxして頂き,大変参考になった.
  隣町の酪農家からは,入牧が遅れて飼料不足の農家の皆様へということで,牧草ロール156個の支援があったほか,道外,道内,町内と多くの皆さまから寄せられた,沢山のお見舞いと励ましに対しては感謝の気持ちで一杯です.ここに誌面 を借りてお礼申し上げます.ありがとうございました.
 
5.NOSAIの対応

5月10日夜,口蹄疫発生の連絡を受け家畜保健衛生所へ直行した.発生農家から半径10km圏内の近隣町村4町を含めた5町の役場,農協関係者が緊急召集され,対応策を協議した.
5月11日朝,NOSAI診療所職員に連絡するも,すでに組合員からの情報が早く,朝から問い合わせの電話が殺到し,事務所の中は戦場のようであった.
5月13日,14日の2日で町内10km圏内の78戸1,869頭の採血,臨床検査を延べ10班,30名で実施した.
一方,診療所には発生農場で使われる作業機器が次々と搬入され,それを受け入れる職員も多忙続きであった.
NOSAIの診療体制としては,10km圏内と,10km圏外とに分けて往診し,圏内と圏外を混合した往診は中止した.特に圏内については往診農家の都度防疫服を着がえて,車両等の消毒を徹底した.
家畜診療所は,十勝家畜保健衛生所の指揮下のもと,家畜防疫員として,他の病気の発生や防疫対策に全面 的な協力を行った.ただし,動物の診療に当たる立場から,あえて埋却作業には加わらないこととした.
5月11日から6月9日までの約1カ月間にわたる移動禁止の中での搾乳や診療対応は酪農家の皆さんにとっても大変なご苦労であったと思われるが,迅速かつ徹底した防疫の結果 ,最短の日で移動禁止制限が解除され,各種対策を終えることができた.

図3 埋却穴への投入作業

図4 汚染物品に対する石灰散布