論 説
21世紀は私たちの世紀だ(社)日本獣医師会専務理事 松 山 茂 ![]() 一方,昨年はミレニアムという言葉も盛んに使われました.単純には千年紀ということでしょうが,本来はキリスト教の終末論からきているはずです.この言葉は森首相を始め多くの方が,いろいろな場所でお使いでしたが,中にはミレニアム本来の意味をご存じかなと首を傾げたくなるような使い方をした方もいらっしゃいました.また,たしか国会での施政方針演説だったと思いますが,森首相がミレニアムをミニレアムと誤読されたことが話題になりましたが,これなどはご愛敬というものでしょう. 私はキリスト教徒ではないうえ,終末論のかけらも持ち合わせてはいませんので,ミレニアムという言葉を使うことは極力避けてきました.特に至福千年の至福を味あわせてもらえる資格などあるわけがないと信じていますので,やはりミレニアムには縁がない部類の人間だと思ってます. そしていよいよ21世紀の始まりです.新しい世紀はどんな世紀でしょうか.よくいわれることですが,19世紀は化学の世紀,20世紀は物理の世紀であったことです.19世紀は,モルヒネ,ベンゼン核,アスピリン等化学上重要な発見が相次ぎ,有機化学が猛烈な勢いで発展した世紀です.また20世紀は,ご存じのように量 子力学,素粒子論,さらにはアインシュタインの相対性理論などすばらしい物理学の発見が続きました.原子爆弾という不幸な応用もありましたが,若干問題はあるものの原子力発電というクリーンなエネルギーへの実用化も行われた世紀です. もっとも20世紀の後半から「生物学」の時代に入ったように見えます.分子生物学を基盤にして,生物化学とか遺伝子組み替え技術とかを武器とした新しい学問が次々と展開されました.しかしこれらはまだ始まったばかりといってよく,今世紀,21世紀にこそこの分野の研究が非常に発展するだろう,エキサイティングな進展があるだろうと多くの専門家はみています.すなわち21世紀が本当の「生物学」の世紀であり,特に生命科学がその花形になることは間違いないといわれています.また21世紀はすべての生き物がこの地球に生き残ることを最優先することを考えなければならない世紀でもあると思います. 私たち獣医師は,生命を扱う専門家です.21世紀が「生物学」特に「生命科学」の世紀であるならば,21世紀は紛れもなく私たちの世紀です.もちろん私たちだけの世紀であるなんてことはいいません.しかし,私たちは生命を扱う専門家として,この地球上に生存する生命の繁栄と発展に大きな責任を持たされているのであり,またその自覚を持たなければならないと思うのです. この重大な時期にこれからの獣医師を育てる日本の教育環境はどうなってるのかもう一度考えてみる必要がありそうです.あらゆるものがグローバル化する中で,獣医学教育だけを例外にするわけには行かないでしょう. 6年制獣医学教育が実現後,日本獣医師会は,国立大学の再編整備を視野に入れた獣医学教育の充実についてかなり以前から各所へ要望要請を行ってきましたが,その成果 はきわめて乏しかったと認めざるを得ません.しかし新しい世紀へ向けて事態は悠長なことをいってる時期ではなくなりました.今,獣医学教育の国際格差を解消すべく多くの関係者が必死に動いています.私たちはこの動きを全面 的に支援すべきではないかと思います.幸い日本獣医師会長が代表となっている獣医学教育のあり方に関する懇談会が問いかけた諮問に対し,学界,マスコミ,企業等で活躍する有識者を集めた獣医学教育の在り方に関する懇談会(座長,黒川 清日本学術会議副会長)は,ごく最近かなり積極的かつ建設的な答申を出して下さいました.私たち身内でなく,外部の方のご意見ですから,傾聴に値するものだと思いますし,また外部の多くの方々の共感もいただけるものだと信じます.関係者のすべての方がこの答申を尊重し行動されることを期待します. 始まったばかりのこの世紀を,私たちの輝かしい世紀とするために,目先のことにとらわれず,未来への大いなる展望を持ってこの際臨もうではありませんか. |