論     説

動愛法における動物取扱業の規制

(社)日本動物保護管理協会 事務局長 山 口 安 夫

このたびの「動物の保護及び管理に関する法律」の主要な改正点の一つに,動物取扱業に対する法規制がある.
 動物取扱業には多種多様の営業形態があり,また,動物愛護や危害防止の面 だけでなく,公衆衛生,生活環境,動物の購入上の問題等を包含しており,これらに対しての法的対応が,長年に亘って動物愛護関係団体等から強く求められてきたところである.これまで一部の地方公共団体では条例に基づく届出制がとられていたが,今回の法改正により動物取扱業者に届出義務を課す全国的な法規制が行われることとなった.
  今回の改正の中で注目したい点は,まずその規制の手法である.営業規制の手法には届出制,登録制,許可制等があるが,動物愛護団体等からこれまで出されていた要望は許可制の導入であった.しかし,新動愛法は届出制を導入しており,これでは入口規制ができないばかりでなく,登録制や許可制に比べ,実効性が乏しいのではないかと危惧されたところである.
  しかしながら,盛り込まれた内容をみると,その実効性の担保については営業者に届出義務を課すとともに,動物の飼養施設の基準や管理基準の遵守義務が課せられ,地方自治体職員の立入検査の規定を設けるなどのほか,違反に対しては知事の改善勧告・命令や罰則などの規定がみられることは高く評価されるところである.
  規制緩和の流れの中で,これまで自由営業とされていたものを一足飛びに厳しい許可制を導入することについては,諸々の観点からの総合的判断があったものと推察され,施行後の実効性を見守っていきたい.
  次に対象業種の範囲についてであるが,動愛法では,規制の対象業種を「飼養施設を設置して,販売,保管,貸し出し,訓練,展示,その他政令で定める業」と定め,畜産農業に係るもの,試験研究用または生物学的製剤の用に供するもの等は対象除外としている. 動物と人との関わり方や動物の流通方法などは今後も変化し多様化していくものと思われ,新たな業種の出現や,インターネットを利用した販売等の飼養施設を持たない営業形態も多くなってくることが予想され,これらに対する適切な対応と政令の弾力的運用が望まれる. また,現在対象除外となっている畜産農業に係るもの,実験動物関係については,欧米諸国,とりわけ最近のEUの動向は注目すべきであり,グローバルスタンダードの時代を迎え,わが国においても動物愛護の観点からの新たな取り組みが迫られるのではなかろうか.
  このほか,動物販売業者は,購入者に対して販売動物の適正飼養について必要な説明に努めなければならないこととされた. これは飼育動物の寿命,成長時の大きさなどの生理生態や,人畜共通感染症等が十分理解されないまま安易に購入され,それが遺棄や虐待,危害・迷惑の発生等につながっていることによるものと思われ,動物取扱業者は動物の適正飼養について,客に対する良きアドバイザーとして重要な役割を担うこととなった.
  東京都が最近行ったペットショップ等の調査によると,クラミジア,サルモネラ,リステリア,エルシニア,黄色ブドウ球菌など多種数の人畜共通 感染症起因菌がその飼育動物から検出されたことや,人畜共通感染症の種類名を一つも挙げられなかった従業者が数多くいたことが報告されており,これについては従業者の資質向上策とともに,一定資格者の設置義務や獣医師との連携強化等が検討されるべきと考える.
  動愛法では,地方自治体において動物取扱業の立入検査や指導にあたる者は獣医師等とし,また,地域における動物愛護推進組織としての協議会の構成員には獣医師の団体が挙げられているほか,動物取扱業者の遵守基準には,幼齢動物のワクチン接種をはじめとした獣医師関与の規定が明文化されている. このことは,獣医師は動物取扱業者との係わりをはじめとして地域における動物愛護推進に不可欠な存在であり,中心的役割を果 たすことが期待されていることを示しているものである.動愛法施行を機に,獣医師の動物愛護に対する関心と理解が一層深まり,社会の負託に応えていくことを念ずるものである.